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8、決着ーランナVSパティー

2018年3月27日、パティからランナへの呼称を修正しました。

 膠着状態にしびれを切らしたのは、リルだった。


「こうなったら、近距離での射撃で押し切る!」


 距離が近くなれば命中精度が上がり、光弾の物量で守りを抜けることが出来るかもしれない。

 そう考えてのリルからの提案だが、ランナは難色を示した。


『え、でも……』


 近くに行けば、それだけ反撃も当たりやすくなる。ランナはそれでリルが攻撃を受けてしまうのが怖かった。


「とにかく押し切るわよ!こっちには機動力と高さのアドバンテージがあるんだから!」

『ま、まって!』


 リルは静止を無視して飛び出す。マスターに合わせるより、この場は自己判断すべきと判断してのことだ。

 リルは渦を描くように飛びまわりながら、マシンガンのように光弾を撃っていく。


『サニィ、今は雌伏の時ですわ。』

「うん、でもちょっと痛いなー……」


 近づきながら発射される光弾を、サニィは危なげなくいなし、HPの減少を最小限に抑えている。

 しかし、近づくにつれてさばききれなくなり、被弾が目立ち始め、やがてはサニィの体力が3割を切る。


『リル、すごい!これなら本当に勝てるかも……』


 始めは不安がっていたランナだったが、優勢だと分かるととても安心したようだ。

 だが、横からドーラの落ち着いた声がかかる。


『ランナちゃん。それは甘いよ……パーツの状態をよく見て。』

『え?』


 ランナがスマホの画面の下部を見ると、図で示されたリルのパーツの内、ステッキが赤くなっている。

 ランナがそれに気づいた時、ステッキの光弾の出が悪くなり、ついには止まってしまった。


「なッ!?」


 リルがエネルギーを流しても、ステッキは動かない。


『リル、どうしたの!?』

『外付けの手持ち武器は本体の感覚で分かり辛いから、マスターがしっかり見てあげなきゃ。ステッキは根元に熱が伝わりづらいから、特にね。』


 プラモロイドのBISは全てのパーツとリンクしているが、バトルクラフトガールズはデフォルトではPVCの肌のパーツを本体として扱い、それ以外の部分の感覚は弱めに設定されている。人間が彼女らを扱う際にその感覚を直感的にわかりやすくするためだ。


 それは武器や装甲のぶつかり合いで痛みを感じないメリットにも、状態が分からないデメリットにもなる。今回はデメリットがもろに出てしまった。


 リルのステッキは内部の電子回路でPEを動かし、射撃を制御している。しかし、PEは使いすぎると高熱を発し、機械の動作不良を起こす。いわゆるオーバーヒートと呼ばれる状態になったのだ。


 このバーチャル空間は、プラモの出力と耐久力が上がっている以外には、極力リアルを再現している。なので、パーツに熱がたまって動作不良を起こすこともあり、それが戦略性を生み出す要素でもあるのだ。

 そして、その隙を見逃すパティとサニィではない。


「まってたよぉっ!」

「はっ、し、しまった!」


 サニィは姿勢を低くして、腕をクロスさせて構える。


『リル!』


 バディの危機に、ランナが悲痛な叫びをあげる。

 主人に心配を掛けまいと、ランナは後ろに飛び退きながら防御を固める。だが、近づきすぎなうえに推進器もオーバーヒート寸前だ。距離を稼げない。


「し、シールド!」


 それでもシールドを張って安心したところで、サニィが抑え込んでいた力を解放した。


「アーマーパージ!」


 サニィは自分の下半身を守っていたドレスアーマーを切り離し、更に何枚かに分かれたうちの2枚を掴んでリルに向かって投げ、同時に大きく踏み込んだ。


「うぐっ!」


 一部とはいえ、分厚い装甲版が飛んできたのだ。2発の重い打撃で、シールドがかちあげられてしまう。

 そこに、重いPS製のドレスアーマーを脱いで一気に加速したサニィが足の裏、ヒールに仕込んでいた推進器を噴射させた勢いで大きくジャンプしてリルに肉薄する。


「つーかまーえた!」


 その左腕は既にガトリング形態に変形している。


「くぅ、シールド!」


 リルは、今度はステッキを持つ方の手でシールドを張り、ガトリングを辛くも受け切った。

 しかし、シールドは数秒程度で熱をもって停止してしまい、また発動までにインターバルが必要になる。


 その間は、シールドなしで耐えるしかない。幸いサニィは既に落下を始めており、冷却まで持ちこたえることは可能に思えた。

 しかし、サニィは今度は胸の前で腕を交差させた。


「安心するの早いわよ!」


 サニィは今度は肩の装甲を剥がし、何枚もまとめて手裏剣のように投げてリルに攻撃した。


「ふわぁ!? やばっ……!」


 スカートの推進器に繋がる配線を切られ、何機かが停止。更にPAの翅を傷つけられ、リルがバランスを崩す。


「もう逃げられないからね……」

『おほほほ!耐え忍ぶ時があればこそ、花は美しく咲くのですわ!』


 サニィの右腕の黄色い花びらのような袖が広がりながらがせり出し、腕が引っ込む。

 そして、腕の内側に隠されていた大きなライトの様なパーツが、腕から手の平にかけて表面のABSに入ったスリットに沿ってスライドし、袖口をふさぐようにセットされる。

 右手の先が、丁度向日葵の花の様な格好になった。そして、その中心の筒状花はPE製だ。


「悪く思わないでね、勝負には手を抜かないのが礼儀だから。」


 サニィはその腕を真っ直ぐリルに向ける。

 リルは照準から外れようとするも、攻撃を受けたのとオーバーヒートで出力が安定せず、プスンプスンと移動と停止を繰り返している。そもそもPAが破損したせいで浮遊するだけで精一杯だ。


 落ちながらパワーを溜め、サニィのPEが輝き始める。

 地面に着地すると同時に、足を大きく開き、衝撃に備える。

 リルは機動力が無くなって浮遊することしかできず、シールドもまだ使えない。

 そんな無防備な状態で、相手は明らかに必殺技の構え。万事休すだ。


「ごめんね、ランナちゃん。一人で突っ走って、負けちゃって……勝たせてあげたかったのに……」


 あのままランナに合わせていて勝てたとも思えないが、一人で勝手に突っ込んで、オーバーヒートを起こしてピンチに陥っているのは事実だ。

 本当は、臆病なランナを、自分が勝つことで勇気づけたい、そして、心の壁を取り払って仲良くなりたいと思っていたが、これではそれも叶わないだろう。

 悔しさと申し訳なさで泣きそうなリルに、ランナは首を横に振った。


『ダメよ、アナタが傷つけられるのは見たくない……そうだ!これなら……』


 その短い会話が終わるころ、サニィの技のチャージが終わった。


『行きますわよ、必殺……』

「サニィレーザーッ!」


 PE製の筒状花が輝きを増し、そこから反動でサニィが地面に押し付けられるほどのビームが放たれる。

 そのビームは真っ直ぐリルに向かう。避けられるはずがない軌道だった。

 向かう先のリルは全てを諦めたかのように体の力をふっと抜いていた。


 そう、全ての力を抜いた。


『なんですってっ!?』

「はぇー!?」


 リルは、PAに回していたエネルギーを切り、自由落下したのだ。


「あつっ!」


 体が下に落ち、首を傾けて、頭の高さに来た光線を危うく避ける。


「まだまだぁっ!」


 サニィはビームを出す腕の角度を変えて追いすがるが、リルは体をくるりと回転させ、残った推進器で斜め下に向かって加速しかわす。推進器も一瞬だけなら何とか使用に耐えた。


 リルがかわしきったところで、ビームが消えた。


「はふぅ……しのがれちゃった……」

『落ちることで回避するなんて、思い切りましたわね。でも、そこからどうしますの?』


 ビームこそ防いだが、サニィにはまだガトリングや武器になる装甲がある。機動力を失った今、押し負けるのはリルの方だろう。それ以前に、今の状態では再び飛行が可能とは限らず、落下の衝撃で致命傷を負う可能性もある。


『こうするのよ!リル、いっけぇ!』


 リルは壊れかけの推進器でサニィめがけて加速する。


「げっ、やっば……」


 サニィは先のビームに力を使ってしまい、まだ動けない状態だ。

 それでも重たい腕をどうにか持ち上げて構える。


「マジカル……クラーッシュ!」


 リルはステッキを振り上げ、オーバーヒートから治りかけのステッキに無理やりエネルギーを込め、突進の勢いを乗せ振り下ろした。

 頭部に振り下ろされたステッキは、そのリーチでサニィの苦し紛れのガードをすり抜ける。

 振り下ろされたステッキに込められたエネルギーがショックで放射され、小さな爆発を起こした。


「ひゃあああああ!」


 落下の勢いが乗った急所への打撃で一気にHPが無くなったサニィは、爆発のエフェクトを残してバーチャル空間から消滅した。


「あっと……痛ったい!」


 サニィが消滅したのでリルはそのまま落下し、危うく受け身を取って地面を転がった。


『か、勝ったの……?』


 バーチャル空間内では、緊張が切れたリルが地面に大の字になって荒い息を吐いていた。

 ステッキは先の爆発で先端が完全に粉砕され、翅は割れ、スカートも攻撃で穴だらけのボロボロの状態だ。髪もビームで少し焦げている。脚も射撃を受け、立ち上がることもできない。

 腕に至っては、着地の衝撃を受け止めたせいでひしゃげてしまっている。


『リル、大丈夫?すごくボロボロだけど……』


 ボロボロになったリルをみて、ランナは心配そうにしている。


「うん、大丈夫よ……えへへ、ランナちゃん、勝ったよ。」


 初めて一緒に勝てたことが嬉しくて、リルは得意そうに笑った。


『そ、そう、ならよかったわ。心配させないで頂戴。』


 まただ、ランナは、本当はプラモの事を心配してくれる優しい子なのに、こうして冷たく振る舞おうとする。

 リルにはその理由は分からないが、そんな優しいランナともっと仲良くなりたかった。そして、昨日のプレーンとも仲直りしてほしい、そのために彼女の心を開いてあげたいと、リルは思っていた。


『とりあえず、リアルに呼び戻すわよ、そんなボロボロの姿、見てられないわ。』

「うん。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 リルがバーチャル空間から戻り、プラボックスから出ると、パティが興奮した様子で話していた。


「ランナちゃん、すごいですわ!いきなりサニィに勝ってしまうなんて!」


 ランナは照れくさそうにしている。


「そ、そんな、褒め過ぎよ。」


 そして、小さい声で続ける。


「あたしは、殆ど心配して見てただけだし……」


 暗い声でつぶやくランナに、リルが叫ぶ。


「そんなことないよ、ランナちゃん。私だけじゃ、落ちて避けるなんて思いつかなかったもん!ランナちゃんは凄いよ!」

「リル……」


 冷たく振る舞って距離を開けているつもりだったプラモから褒められ、ランナはぽかんとしてリルを見る。


「確かに、あの思い切った判断は中々出来ない。誇っていい。」

「ドーラちゃんまで……あたしはただ、何にも出来ずに壊されるのが嫌だっただけだよ。その後の事なんてアタシ何にも考えてなくって、リルが自分で考えたんだし。」


 最後の攻撃を思い出して、サニィが頭を押さえる。


「あれは痛かったよ~。」

「ご、ごめんね、サニィちゃん。無我夢中で……」


 申し訳なさそうにするリルに対して、サニィはけろりとしたものだ。


「バトルしてれば、当たり前だよ。気にしないで。」


 さっきまで戦っていたにもかかわらず笑いあう二体の姿を、ランナは興味深そうに見ていた。


「あら、もうこんな時間ですわ。」

「接戦だったからね。」


 気づけば、もう日が暮れそうだ。


「帰るよ、リル。」


 ランナはわざとらしく、そっけない言い方をする。


「うん、わかった。」


 そんな不器用な主人に、リルは優しく笑った。


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