9、再起動
「よし!これでどうだ!」
チギルは最後のパーツを嵌め込み、プレーンを再起動させる。
「う、うーん……おはようございます、マスター……」
プレーンの少女が寝ぼけ眼をこすりながら起き上がる。
顔に固いものが当たったので見ると、左腕に装甲が付いていた。芯になっているのは元々の腕だが、右腕と同じ装甲だ。
「パーツをお前に合わせたんだ。ちょっと確かめてみてくれよ。重くないかとか。」
「いえ、重さは大丈夫です。」
バトルクラフトガールズは一見細くて頼りないが、出力は従来のロボット型プラモと遜色ない。
彼女は改めて腕を見る。
腕の装甲は赤と白の派手な色で、先端部にクリアグリーンのブレードが付いている。
ブレードは腕をまっすぐ伸ばすと、内側に反るようになっている。
左右で似たつくりではあるが、左のブレードは右の3分の2ほどの長さしかない。
「そのブレード、カッコいいだろう?」
プレーンの少女はチギルが彼の好きなように、彼女を組み上げてくれるのが嬉しかった。
チギルの好きなものを付ければ、もっと好きになってもらえる。そう思ったのだ。
「はい、マスターの期待通り、かっこよく使えるように努力します!」
彼女は、近くにあったプラモサイズの姿見を見た。
「こ、これは……」
姿見の中にいるプラモは、全身を一揃いのアーマーに包まれ、まるで自分ではないような不思議な感じだった。
なんだか、他人の皮を被ったような不安感を感じた。自分ではない何かになったような。いや、それどころか、自分はアーマーを着ているのではなく、アーマーに着られている側なのではないかと思った。
もっというと、チギルが見ているのは本当に自分なのだろうかと不安になったのだ。
少女の表情を見たチギルはバツが悪そうになった。
全身を覆う赤いアーマーだが、胸部には大きな穴が開いている。胸をバッテリー増量のために大きなオプションパーツに組み替えたので、やや扇情的な印象になってしまっている。胸以外にも関節部など、サイズが合わずに肌や薄いインナーが露出している箇所が、お腹や太腿等、結構ある。
チギルは少女がそれに注目したと思った。
「あ、あー、嫌だったか?それしかなくってな……」
「いえ、嫌ではないです。マスターが望むのでしたら……」
ヘラは不安を振り払うように勢いよく首を左右に振った。
気まずさからくる沈黙を無理やるやぶるように、チギルは話を変えた。
「ああ、と、そうだ、名前を付けなきゃな……お前は……。」
チギルは改めて彼女の全身を見る。長いブレードとそれより短いブレードを持ったフォルムは、その装甲をもともと持っていた機体のモチーフとは対極の存在を想起させた。
「ヘラクレス……ヘラ……お前の名前は、ヘラでどうだ?」
「ヘラ……ありがとうございます。すごくうれしいです!」
自分でも安直だと思う名前に、いつかの様にダサいと文句の一つも言われるものだと期待していた。
やはりあいつとは違うのだなと、チギルは少し残念に思った。
チギルは首を振って、プラボックスを指さした。
「ど、動作テストするぞ。バーチャル空間だ。」
「は、はい。」
そして数分後、いくつかのテスト工程を終えビームライフルのテストをしていた二人であったが、そこで問題が起きた。
「あれ?」
『ん?どうした……?』
ライフルを的に向けて放つが、的に届く前に光弾が溶けて消えてしまう。
パーツを検分してみると、PEがひび割れていてエネルギーが漏れてしまっている。
『しまった、あの時か……』
チギルがパーツを見て合点が言った顔をする。
「あのとき……?」
ヘラは疑問に思ったが、それを確かめる間もなく現実世界に呼び戻された。
「新しいPEに変えるしかないな。棚を見に行くぞ。」
ヘラを肩に乗せて、チギルは部屋から出た。
部屋を出るとそこは模型店の店内。今まで居たのは模型店で貸し出しされている作業スペースだったのだ。
この模型店「レッドツェペリン」は貸出スペースなどのサービスが充実しており、人気の店だ。
今回ヘラのための装備を整えるにあたって、家にある工具ではやや不安だったので本格的な工具が揃ったここを借りることにしたのだ。
店内の、パーツをばら売りしているコーナーを見て回り、よさそうな素材を探す。
「ビームプログラムが入ったPEは……お!」
丁度いい大きさのPEを見つけたので、チギルは手を伸ばす。
「あ!」
その指が誰かの指と重なった。慌ててひっこめて隣を見ると、長い黒髪の少女と目が合った。
「ご、ごめんよ。」
「いえ、こちらこそ、すみません。」
お互いに後ずさり、譲り合う。
お互い後退したことで、全身を見ることが出来た。フリフリした服を着た少女だが、既製品という感じではない。縫い目の感じから、手作りだと推測できる。
そして、彼女の肩にもプラモロイドが乗っているのが見えた。茶色の髪に、ピンクのエプロンドレスを着た可愛らしい人形のようなプラモロイドだ。これも手作りの衣装を身にまとっているようだ。
「そのプラモロイド、すごく手がかかってるんだな。」
チギルが思わずそういうと、少女はほんの少しだが、にまっと笑った。
「えへへ……あなたのも、とってもカッコいい。」
少女の言葉に、ヘラは恥ずかしそうに笑った。
「手作りで衣装を作るなんてスゲーな。俺もやったことないぜ。」
肩の上のヘラが、目を輝かせて少女のプラモを見る。
「素敵なお洋服……そういうの、ちょっと憧れます。」
少女のプラモは肩に座りながら軽く礼をした。
「お褒めにあずかり光栄なのです。」
「そっちのプラモは他のプラモのパーツを加工して合わせてあるの、すごい。」
チギルも少女も、お互いのプラモロイドに興味津々だ。
「あの、アナタのプラモ、見ていい?」
「なら、そっちのも見せてもらっていいか?」
お互いにプラモを交換して鑑賞しあうことになった。
「どうも、よろしくお願いします。」
少女のプラモは礼儀正しい性格のようで、チギルの手に乗るやスカートを摘まんでお辞儀した。
対して、ヘラの方は緊張して固まってしまっているようだ。
「なるほど、すごく丁寧に作ってある……」
衣装の縫い目がとても丁寧で、しかも丈夫に縫ってある。プロ並みとまではいかないが、軽い気持ちで作れるものではない。
ふわりとしたエプロンドレスにヘッドドレス、関節の継ぎ目を隠す長手袋にハイソックスも手作りだ。
「愛されてるな。」
チギルが思わずつぶやくと、彼女は誇らしげに笑った。
「ええ、とっても。」
少女はヘラを真剣な目で見ていたが、やがて満足いったようで、再び交換して元に戻した。
「ありがとう、良い機体。」
「そっちもな。」
そして、二人で微笑みをかわした。それでも、お互いのプラモに対する興味が収まらず、お互いにそわそわしていた。
その時、チギルの背後からからかうような声がした。
「へぇ、お前そのくらいの子がお好みで?」
チギルが慌てて振り返ると、モップを持ったハルトが立っていた。
「てめっ、人をロリコンみたいに言うな!」
「ハハッ、じょーだんだよ。んで、お二方、こんなところでお見合いしているよりも、お互いのプラモを知るならいい方法があるんじゃねーかな?今、空いてるぜ。」
ハルトは店の真ん中に置かれた透明なドーム状のマシンを指さした。
「なるほど、道理だ。」
「バトル…する…?」
少女はやる気のようで、チギルに期待に満ちた目を向ける。
「そうだな、いっちょやるか。」
「やった。」
少女は口角を少し上げ、にんまりと笑った。




