第1章エピローグ すぐ傍にいる相棒
「そういえばランナちゃん、昨日帰ってから、何かいいことありました?」
「ねー、なんかすっきりって感じ。」
心配事がさっぱり消えたようなすがすがしい顔のランナを見て、パティとサニィは安心した。
「ちょっとね。これから、お兄ちゃんとバトルするの。パティちゃんも見に来る?」
「まぁ、お兄さんもプラモバトラーでしたの?」
「そうそう、最近復帰したの。新しい相棒と一緒に勝負がしたいって。」
「私達も、新しくなって一発目にやる相手はお兄さんたちがいいなって思ったの。」
おしゃべりしていたら時間はすぐに過ぎる。ドーラが時計を見ながら言う。
「もう、チギルさんもついてる時間。」
「ヘラちゃんの初陣。楽しみなのです。」
ドーラたちの発言に、パティは驚く。
「あら? ドーラちゃん、知ってましたの? もしかして私だけ知らなかったんですの?」
「別に隠してたわけじゃないよ。言う機会が無かっただけで。」
「むぅ、それでもわたくしだけだなんて……」
むくれるパティをなだめながら、ランナたちはレッドツェッペリンに歩いた。
「お、いらっしゃい。チギルは奥で待ってるぜ。」
レッドツェッペリンに着くと、ハルトが出迎えてくれた。
「ハルトさん。貰ったランナーからどうにか切り出せましたー。」
「そりゃよかった。あいつらとは万全で勝負したいもんな。」
「大変でしたよー。上手く行きそうになったらお兄ちゃんが部屋に飛び込んでくるし……」
しゃべっていると、ハルトのエプロンの胸のポケットからドラゴン型のプラモが顔を出した。
「おい、ハルト。向こうでお客さんが呼んでるぞ。」
「お、ありがとな、アルマ。そいじゃ、ごゆっくり―。」
ランナたちはハルトと別れ、店の奥に進む。
店の奥のマシンに、チギル達が集まっていた。
ヘラは筐体に腰かけて、銀色のプラモ、マチルダと話していた。
「へぇ……随分かわいらしくなったのね。ようやくあなたらしさってものが出てきたかしら。」
「むぅ、やっぱりなんか偉そうですね……」
憮然とするヘラに、マチルダが絞り出すように謝罪を口にする。
「……この間は御免なさい。言い過ぎたわ。」
「いいですよ。あなたがきっかけを作ってくれなかったら、私、ずるずるとあのまま身代わりに甘んじてましたから。」
彼女らを見守っていたチギルだったが、ランナを見つけると手を振った。
「お、来たな。こっちだこっち!」
「お兄ちゃんお待たせ―。」
ランナはチギルと向かい合うように筐体を挟む位置に行った。
「お、ランナじゃんか。」
「チギルさんとやるの? 仲直りできたみたいでよかった。」
店の中にいたヤスリ達も、このメンバーを見て集まってきた。
「ははは、心配かけて悪かったな。」
チギルは申し訳なさそうに笑った。
「良かったな、ヘラ。ちゃんとバディになれたんだな。」
ヤスリの肩の上からジックスが手を振る。
「ジックスさんにも心配かけちゃいましたね。ありがとうございます。」
ヘラはにこりと笑って手を振った。
「さぁ、早く始めようよ、お兄ちゃん。」
せっかちなランナは、おしゃべりが終わるまで我慢できないようだ。同調するようにリエがチギルをせっつく。
「チギル、無様な戦いは見せないでね。」
「ああ、分かってる。やるぞ、ヘラ。」
チギルはそばに居る相棒を見下ろし、力強く声をかけた。
「はい。」
ヘラは頷き、筐体にひらりと飛び込んだ。
「リル、よろしくね。」
「うん。やろう、ランナちゃん。」
リルもランナの手のひらから筐体の中に飛び込む。
チギルとランナは互いのスマホを操作して接続する。
「フィールド展開!」
スフィアの中に描かれたのは、平坦な草原のフィールド。
画面の中に映し出されたヘラの姿は、以前までとは大きく違う。
遺骨のような装甲はほとんどを捨て去り、オレンジ色のドレス。
足先のパーツはヒールの高い大きめの靴。その踵部分は簡易のブースターになっている。そして、靴に入った切れ込みは何かの仕込みの印だろう。
腰には飾りに交じってPE爆弾が括り付けられている。
背中には今は折りたたまれているが、翼のようなミサイルポッド。
左手のPVC部分も飾り付きのものに換装されている。
頭部には折れたアンテナの代わりに天使の輪のようなアンテナ。
そして、今まで通りのバイザーと右腕に、調整したガトリングとシールドのついた左腕。
協片契は見栄え重視でも性能に手を抜く男ではない。これらの装備は家に帰った後一人で作業した賜物だ。まだまだ拡張する気はあるが、時間的にここまでが限界だった。
これらの装備を見た時、そして、ドレスのギミックを試したとき、ヘラはドレスでもこの人にとってはプラモの一パーツに過ぎないんだなと若干苦笑いしていた。
対するリルは今までとあまり変わらない。しかし、ピンク色のリボンを揺らし、その眼差しはこれまでより明らかに力強く輝いている。
『先手必勝、撃て!』
「挨拶代わりですよ!」
ヘラはさっそくウィング状のミサイルポッドを展開し、リルに向けて発射する。撃ち切った外側の部分は切り離し、軽量化する。
『走って!』
「うん!」
リルは横に飛んで回避、爆風を受けてホイールで滑走し、衝撃を受け流しながら低空飛行に移った。
「お返しだよ!」
リルの光弾をヘラは横に走って回避し、ガトリングを撃ち返す。
『隠れるところが無いフィールドなら、こっちに有利! ガンガン撃っちゃって!』
リルは飛行で弾丸をかわしながらオーバーヒートになるまで光弾を放ち、ヘラの逃げ場を完全にふさいだ。
「どうだ!」
「甘いです!」
ヘラのドレスの各部の飾りが煌めき、激しく火花を散らすエネルギーが放射され、光弾を弾き返した。
『俺が只のドレスなんて、作るわけないだろう?』
全身の飾りはバリアのジェネレーター。これで射撃攻撃を一気にはじくことができるのだ。
『甘いのはどっち?』
ヘラがエネルギーを使って一瞬動きが止まった隙に、リルが肉薄する。
リルは素早く武器を持ち換え、ビームソードを展開する。
「せいやぁぁぁぁっ!」
ヘラは咄嗟に右腕で受け止める。
「くっ……せい!」
力を込めて押し戻し、仕込みナイフを出した蹴りを繰り出す。ヘラのドレスの骨はいくつかの部品を組み合わせていて、短めの丈も相まって多少の干渉はあるが問題なく足を上げることができる。
リルが距離をとった瞬間にブレードを展開し、切りかかる。
「楽しいね……!」
「ええ、とっても……!」
『リル、頑張れー!』
『負けるな、ヘラ!』
ランナだけでなく、童心に帰ったかのようにチギルも、戦略的に何の意味もない応援の言葉を叫ぶ。
でも、それでもいいのだ。彼らが勇気づけてくれるから、彼女たちは戦える。
すぐそこに居る相棒の存在を噛みしめながら、そんな時間を終わらせたくないと言うように、彼女たちは何度も何度も、剣をぶつけ合った。
第1章を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
序盤からメインとしてヒステリー気味なキャラを出したりして、多分ここでたくさんの人が切るだろうなと思いながら書いてました。
それでも私の思う相棒を表現できたので楽しかったです。
昔から人間と、人間じゃない相棒が一緒に戦う物語が大好きで、そんな物語を作れたらと思っていました。
私の物語が皆さんの心に残ってくれると嬉しいです。




