第四十三章:誓いの夜
フィンストリオン王城・緊急医療棟
重く開かれた扉の向こう、魔導灯が照らす廊下を、ラッシュが全速力で駆けていた。
その腕には、意識を失ったブレインの身体。包帯さえ追いつかないほどの深い傷と血が、その体を無惨に染めていた。
「ベッドを空けろ! 治癒班、急げ!」
「生命反応、微弱! でも、まだ繋がってる!」
治癒士たちの叫びが飛び交う中、クローとウイングは廊下の隅で黙って座っていた。血と煤にまみれた姿のまま、深く肩を落としている。
外では、カイとゼルフィードも応急処置を受けていた。彼らもまた傷つき、空を飛ぶことすらできない状態だった。
「……全力でやって……こんなもんかよ」
ウイングの呟きが、空虚に響く。
「ブレインが……あのブレインがやられたんだぞ……」
クローの拳が震え、唇を噛んだ。悔しさと無力感が、胸を焼いた。
その時――処置室から戻ってきたラッシュが、重い声で告げた。
「……命は繋がった。だが、意識はまだ戻ってはいない」
安堵と絶望の狭間で揺れるようなその言葉に、誰もすぐに反応できなかった。
「くっ……!」
クローが膝をつき、肩で息をしながら悔しさを噛み締めた。傷ついた仲間。失いかけたすべてが、今、目の前にある。
「立てるか、クロー」
ウイングが血に濡れた槍を支えに、手を差し伸べた。
「……ああ。大丈夫だ」
クローはゆっくりと顔を上げる。
その瞳には、もはや絶望ではなく――燃えるような怒りが宿っていた。
「二時間後にヤツらがまた来る。その時までに戦えるようにしとかなきゃな」
***
フィンストリオン王城の最上階。
治癒魔法の光がほのかに揺れる医療室で、ブレイン(リューガ)は白いシーツの中に静かに横たわっていた。その呼吸はかすかに続いているものの、意識の戻る気配はない。
その頃、中庭では――。
クローがひとり、深い沈黙の中に立ち尽くしていた。傍らには、重傷を負ったカイが静かに身を横たえている。
曇天の空には月の光もなく、王都の灯火さえ、かすかに震えていた。世界が、呼吸を止めているような夜だった。
クローの心は、あの一閃に囚われたままだった。
──「危険だ! クロー!!」
アルベールの剣が、まっすぐに自分に振り下ろされようとしていた。あの時、自分は動けなかった。強さに気を取られ、判断が遅れた。その隙を埋めるように、ブレインが飛び込んできた。
閃光のような紅の斬撃、裂かれるヴァルハイトの鱗、赤く染まるブレインの肩。 今その光景が、何度も脳裏をよぎる。
「……俺が、冷静に見ていれば……リューガは、あんな傷を負わずに済んだんだ……あの一騎打ちだって」
唇を噛み拳を握る。 胸の奥に、じわじわと重たい熱が広がる。
「仇を討ちたいけど、俺はまだリューガの力に及ばない。竜魂共鳴までして……カイと一緒に、あそこまで戦ったのにダメだった……これ以上、どうすればいいっていうんだ」
胸の奥に、じわりと苦いものが滲む。
「……!」
心の中に、ふと過った。
ーーデビルナイツ。
天空城で一度だけ暴走しかけた、制御不能の闇の力。もし今、使えば――勝てるかもしれない。
その囁きをかき消すように、頭の中にブレインの声が蘇る。
「それを使えば、お前は自分を見失う」
それは、ブレインに止められた力だった。
「……俺が壊れたって、誰も喜ばない……だけど」
思わず顔を覆い、ひとつ息を吐いた。
***
「ラッシュ団長、王城の伝令が到着しました。アルゼリーテ姫が、フィンストリオンへと向かわれているとのことです」
医療棟の廊下から駆け込んできた伝令に、ラッシュは目を見開いた。
「……まさか、自ら……!」
「少数の近衛騎士を連れて、竜舟にて急行中とのこと。姫自ら、王都の決戦に立ち会うと……」
「……やはり、あの方も覚悟を決めているのだな……」
ラッシュは伝令に頷き返すと、ふと、医療棟の窓越しに目を向けた。
夜の帳が下り始めた中庭。
そこにいたのは、傷ついた飛竜――カイの傍らに、静かに立つひとりの少年の姿だった。
クロー。
彼の肩は小さく、だがその背中に、確かに世界を背負おうとする意志が見えた。
「……あいつも、今が岐路だ」
そう呟いたラッシュは、迷うことなく扉を開き、廊下を抜け、中庭へと足を向けた。
***
「この戦いが最後になるかもしれないな、クロー」
背後から聞こえたその声に、はっとして振り返る。そこにはラッシュが立っていた。レイピアを肩にかけ、月もない曇天を見上げている。その横顔には、決意と、どこかで優しさがあった。
「何しにきたんだよ。いや、何か言いたいことがあるのか。」
「なに。何やら思い詰めた顔をしていたから。アルベールと刺し違える気かと思ってな」
「……」
クローは言葉を返せなかった。図星だったのか、あるいは、それすら否定できなかったのか。
「国を護るってのは、そんなに甘いもんじゃない。“守りたい”だけじゃ護れない。命だって賭けなきゃいけないこともある」
落ち着いたその声は、クローの中の揺らぎに、まっすぐ語りかけてきた。
「わかってるさ。だから」
「だが――」
ラッシュはふと、微笑んだ。
「クロー、お前は“捨てる”奴じゃない。守るために戦う奴だ。……それを忘れたら、お前じゃなくなる」
「……」
「背負ってるのは分かる。しかし、それを全部一人で抱えて、勝手に自分を投げ出すような真似――そんなのは、お前らしくない」
「……俺は、ただ……」
「戦いの中で自分を失ったら、それはもう“守る”とは言えない。守るために戦うなら――自分のことも、ちゃんと守れ」
その言葉が、彼の胸の深くに火を灯した。クローは、ゆっくりと顔を上げる。
「リューガといい、あんたといい。騎士団長ってのは言葉に響く力があるな……。ラッシュ、ありがとう」
「礼なぞいらん。私も共に戦うんだ。前線で待ってるぞクロー。……ああ、そうだ。今度は遅刻するなよ!」
ラッシュは手を軽く振ると、静かに背を向けた。 その背中は、夜明け前の光のように、クローの心に希望を残していった。
クローはカイの頭に手を添える。
「……行こうか、カイ」
カイが低く、静かに鳴いた。
すべてが決まる――。
命を賭した、アルベールとの決戦が始まる。
リューガ「ここは?そうかここは俺の意識の中。自分だけの空間ということだな」
アルゼ「そういうことですね!」
リューガ「ひ、姫っ!?なんでここに!?どこにでも現れ過ぎでしょう!!」
アルゼ「勘違いしないでください。私は貴方の想像したアルゼです」
リューガ「ああ、そうなんですか、、、びっくりしました」
アルゼ「comment allez-vous?」
リューガ「私の想像する姫はフランス語でアイサツしないんですが?」
アルゼ「すみません。私でした」
リューガ「だからどうして?!」
アルゼ「負傷している貴方を応援しに来たに決まっているじゃないですか!」
リューガ「理由になって無いってわかってますか?でも、そう、そうですね。私にも、まだやれることがある!」
アルゼ「はい。ああ、ちなみになんですがリューガ、もうこの小説本編では、出番ないですよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー嘘だぁぁぁぁぁ!!!




