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剣の谷の狙撃手  作者: キャップ
第三章 剣崎明人の軌跡
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剣崎明人の軌跡

戦場において兵の死は避けられない。だが指揮官として無駄死にだけはさせてはならない。仮に戦争が続いていた場合に備えての効果的な内容の訓練の実施も課題の一つではある。それには駐屯地のさらなる開拓が必要だ。


当然それには金剛家の許可と支援が必要になる。結局のところ帰還のため、そして帰還後のためには金剛家の協力が必要不可欠なのだ。もはや保護者と被保護者の関係同然。悔しいがその現実の中でできる事をするしかなかった。


金剛家には感謝している。恩として協力できる事には力も貸す。だがそれに殺戮が絡むことは避けなければならない。3年前の戦闘は金剛家との情報共有がうまくいっていなかったために起きたイレギュラーとして処理されたが、次はない。この件については士官たちに対するエフゲニーの口癖となっていた。


金剛家との協力と現状の維持、帰還手段の模索、帰還後の対応・・・


大雑把にまとめればこのようなものだが、細分化すればいくらでもやることは出てくる。100や200では収まらない。エフゲニーは癖になりつつあるため息を吐くべく息を吸い込み・・・


それを止めた。落ちかけていた視線をPC画面に戻し、両手で頬を2、3度叩く。続いて肺に溜まった淀んだ空気を一気に吐き出す。


一瞬画面に映りこんだその顔は、しわくちゃになり、疲れ果てた老人の顔そのものだった。エフゲニー自身が絶対になりたくないと思い続けてきた自分の顔だった。自らを鼓舞するようにもう一度、強く頬を叩いた。視線をさらに上げ、陰にかかっている姿見の自分と目を合わせる。


いつも通りの自分がいた。自分で言うのが恥ずかしくなるほどに目力と自信にあふれている。


「大したことはない。私はまだ何もしてはいない」


エフゲニーは拳で胸を軽く叩き、自分に言い聞かせた。


兵たちを生きて帰還させ、家族に合わせる。それが恐らく自分の最後の仕事になるだろう。であるならば、ここで兵のために尽くさずして何に尽くすのか。老人になるのはそのあとでいい。


ノートパソコンの脇に置かれた電話機から受話器を取り、3桁の数字を押す。2コール目を待つことなく聞き慣れた通信兵の声が返ってきた。


「はい、こちら通信室エフレム上等兵です」


一瞬の迷いか、言葉が詰まる。しかしパソコン横の写真立てに目をやりエフゲニーは吹っ切れた。一息の間をおいて口を開く。


「私だ。武国殿へお繋ぎしてもらいたい」

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