狙撃手
このような事を考えなければならない日が来ようとは、初めて駐屯地の門をくぐった15年前の俺には想像もつかなかった事だ。国の防衛。国民を守る為といえば聞こえはいいが、突き詰めれば人を殺すことが自衛隊の仕事だ。自衛隊の任務において最優先は「国防」であり、決して災害派遣や国際平和維持活動などではない。
この先何百年先までも平和が続くとは思わなかった。しかし自分が自衛官である間に戦争など起きないだろう。ここは中東の紛争地ではない。自分が階級章を付けているであろう数年数十年くらいならば日本は戦争を拒否し続ける。そう考えていた。
アメリカ大統領出馬表明から選挙戦において過激な思想と発言で世界中から注目されていた議員が当選、新たな大統領となった時もそうだ。出馬表明時から掲げていた公約の一つである日本からの在日米軍撤退が実現した際も、「もしかしたら」という以上の危機を感じてはいなかった。
だがその考えが間違いであると知る発端になったのは、領空侵犯を犯したロシアの偵察機を、航空自衛隊のF15が撃墜したという突然のニュースからだった。
更には、それによる日露政府間のいざこざが収まるのを待たずして、今度はロシアの首都モスクワの日本国大使館及び、ウラジオストクにある日本総領事館にガソリンを満載したタンクローリーが同時刻に突っ込むという過激派によるテロが発生、撃墜事件以降不穏な空気が漂っていた日本が一気にざわつき始めた。
このテロにより総領事、日露職員、ロシア国籍の実行犯合わせて72人が死傷、それに煽られロシアでは反日、日本では反露デモが多発し、日本国内においてはロシアから留学していた学生2人がリンチの末に殺されるという事件まで起きてしまう。
ロシア大統領はこれらの原因が全て日本側あるとして謝罪と賠償を要求、しかしアメリカ軍撤退後、強気の姿勢でロシア及び中国と睨み合っていた首相はそれを拒否した。
というのも事の発端である露偵察機撃墜事件については、ロシア偵察機が航空自衛隊千歳基地からスクランブル発進した2機のF15のうち1機に対して、正面から異常接近してきたことによる正当防衛だと航空自衛隊は主張したからだ。




