4月に再会 (裏)
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アイツは、またしても突然に、今度は無言で逃げ出した。
「食べられちゃうのはイヤぁーーーーーーっ」 って遠くで叫んでた気はするけど……。
無言もだけど、アレにも唖然としたなぁ。
……と、いつもの酒場でオンに話す。
「俺は、関わるなって言ったよな?」
「偶然だ! 不可抗力だ!」
「会ったのは偶然としても、その子に気付かなかったフリしてやり過ごすことは出来ただろうが!」
「そんなこと、考えもしなかった! っていうか、何か考える前に声を掛けてたんだ!」
前回同様に溜息と同時に、今度は呆れたようにオンが言ってくる。
それに対し、俺は反射的に答えて……その内容に自分で驚いた。
「で、今回のセリフは?」
今回は、アイツがなんか”ふわふわ”してて”トットットットッ”って感じで歩いてて……と、思い出しながら話す。
「なるほど、やっぱり、か。 で、お前がアホなのも、やっぱり、だな。」
先月に続いてのアホ呼ばわりに、思わずオンを睨みつける。
「アホが不満なら、トーヘンボクだな。」
言葉の意味合いは変われど悪口には違いないわけで、再度睨みつける。
「まだ早いと言ったのに理解する前に関わったお前が悪い。 引き続きじっくり考えろ、アホ。 ……前回は3月で”あのセリフ”だったこと、今回は4月で”その行動”だったこと、お前は狼族で彼女は羊族だということ、お前の混乱の具体的な内容と理由。それらを重点的に考えれば、なにかしらは見えてくるだろ、トーヘンボクなお前でも。」
「ぐっ……。」
アホとトーヘンボクをダブルで喰らうも、オンの忠告を無駄にしたのは事実だし一応ヒントらしきものも貰ったので反論を呑み込む。
「ま、そういうことで、今日はお前のおごり、な。 ごちそうさん。」
そう言い捨てて帰ろうとするオンにの上着の袖を慌てて掴む。
なんで俺がおごることになるんだよ!?
「アホ。 前回はお前のショックに気を遣って俺がおごってやったんだ。 そして今日のは、授業料として、お前が払うんだよ。 ……そうそう、さっきまでの遣り取りも無駄にするなよ? って助言を追加する俺って良い親友だよな。」
「お前はホントに悪友だよ!」
俺の反論に片手をひらひらと振って、オンは店を出て行った。
それを、なんとなく見送った俺も、支払いを済ませて帰途につく。
家に着いて、改めて考える。
口は悪いし態度もデカいが悪いヤツではない、どころかホントに”悪友”なのだ。
たとえ悪口を含もうと、俺のために出したヒントなのは間違いない。
3月と”あのセリフ”、4月と”あの行動”、俺と彼女の種族、俺の混乱、今日の話……順番に考えるも、やはり簡単には答えは出ない。
ってことで、風呂に入って心身をスッキリさせて、水にレモンを絞って飲む。
酒を飲みたいところだが、それでは風呂でアルコールを抜いた意味が無いからな。
こういうときにはレモン(果汁)入れた水、と俺は決めている。
ふと、オンは今回は口にしなかったが『まだ関わるな、保留だ。 少なくとも、お前が理解するまでは、な。』という前回の忠告は続行なのだということは伝わってきたことを思い出す。
そして、なんか面白くないようなもやもやした気分が増えたのを感じる。
もしかしなくても、道のりは遠いってことか?
でも、またしても解決前に会いそうな予感がするんだが……って、俺は彼女に会いたいのか?
で、会ってしまえば彼女に気付かなかったフリは今度も出来ない気がする。
これは、どの項目に入るのだろう? 新しい課題だったりするのか?
そうして、俺はしばらく色々と考えを巡らせていった。