萌芽.1 種まきと水やり
私立月下ヶ丘高校―自動車街の近く、少し汚れたコンクリートが顔を見せる、いかにも普通の高校という感じだ。しかし、こんな一般的な学校にも、ちょっと面白い部活が存在する。校舎の裏側の…あの小さなビニールハウス。のぞいてみて。
「先輩っ!この間撒いたマリーゴールドの種、発芽してますよ!」
彼女は椿イチカ、ここの部の新入部員だ。今日も嬉しそうに、植物たちの成長を確認しては愛でている。一年生ながらの、初々しい雰囲気から可愛さが感じられる。
「おーよかったじゃねぇか!イチカ、ここんとこ芽が出るの楽しみで、ずっとソワソワしてたもんなぁ。」
この姉御肌のある人物は、銀宮カスミ。何事にもガンガン突き進む性格で、ここの頼れる先輩だ。
「あらあら…2人とも楽しそうね。私も入れてちょうだい。」
乾しずく。おっとりとして大人びている、ここの部長だ。のんびりすることが好きで、よくみんなのことを可愛がっている。…そして、最後の一名。
「わー、すっごーい!これでお花がいーっぱい咲くんだね!ね、ね、どんな花なの?どんな花なの!?」
朝比奈ことは。イチカと同じく、ここの新入部員。部活ではいつもはしゃいでおり、まるで大人しくなる気配がない…そこが良いところでも悪いところでもある。
―ここは、そんな個性的な4人が過ごす、園芸部である。
部員みんなで植物に水やりをしていたときだった。
「…あ」
イチカが少ししょんぼりとした様子で、目の前の一輪の花を眺める。
「このアサガオ…もう枯れちゃったんだ…」
「昨日まで、元気いっぱいだったよねぇ?」
ことはがイチカのもとに近寄り、一緒にしぼんだアサガオを見つめる。
「まあまあ、そう落ち込むなって。アサガオは一日もすればすぐに枯れちゃうもんなんだ。」
後輩の二人を元気づけるように、カスミが明るく言葉を投げかける。
「華は枯れるまで育て上げる。それが、園芸部のお約束よ。大事なお花が枯れるのは寂しいかもしれないけど…私たちにできるのは、最後までそのお花たちを大切に養ってあげることよ。」
しずくの優しくも芯のある発言が、部員のみんなを感心させた。
「っ…はい!私も園芸部の一員として、植物を最後まで責任もって育てます!」
「お、イチカやる気出てきたな。…オレも気合入れてくか!」
「アタシもーっ!」
「ふふ、みんな楽しそう…いい部活ね。」
部室の中には、親しみのある用土の匂いがほんわかに漂っていた。
下校のチャイムが鳴り、4人が部室から出て、世間話をしながら帰り道を歩いていた。
「それで…あっ!」
「どうした?イチカ」
「スマホ部室に置き忘れてきちゃいましたぁ…」
「もうすぐ門閉まるから、急いで取ってきなよ。オレたちここで待ってるからさ。」
「暗いから、気をつけてね!アタシも行こうか?」
「大丈夫!すぐ戻ってくるから!」
イチカはそう言い残して、ビニールハウスの方へ全力で走っていった。
「あの子、一人で平気かしら…」
「…きっと心配はいらないはずだ。」
夜の部室は真っ暗。イチカは暗闇の中手探りで自身の忘れ物を探すしかない。
「…あった!よし、早く戻らないと――え?」
目の前に、赤く光る華が映り込んだ。その輝きは、見ているものを皆魅了するような、危険な美しさがあるように見えた。
「…なんだろ、これ。」
イチカの手が無意識に華の方へ伸びていった、そのときだった。
カッ―――――――
「っ!?眩しっ…!」
華の光が急速に強まる。その中から、イチカの手に謎の腕輪型の装置と華の造形物が飛び出した。
パニックになったイチカは、ひたすらに周りを見渡す。すると…
「…ギィ゙ァァァアアア゛」
「ひいっ!?」
背後に現れたのは、うめき声を上げる怪物。薄茶色と緑が混ざったツタを絡ませた酷く膨張している身体に、萎んだ花弁のような顔…この世のものとは思えない姿だ。
「い、いやぁぁぁっ!」
逃げ出そうとするイチカだったが、怪物の巨体とツタに挟まれ、先へ行くことができない。
「ヴェァァァァァ…!かぁぁぁぁ゛!」
「ううう…どうしよう…どうしよう…!」
脅威にひたすら怯えるイチカ。彼女の手にはまだ、先ほどの装置と華の造形物が握られている。
「これで…なんとかできないかな。」
イチカはひたすらに困惑しながら、装置を自身の左腕に巻く。
「…えいっ!!」
イチカがその流れのまま、華の造形物を装置に取り付けた、次の瞬間―――――――
ゴウッ!!ガシャアアアン!!パラパラパラパラ………
結晶のような花びらが舞い、イチカの身体を包む。間もなく優美な宝石の華が開き、中から出てきたのは…
紅色のクリスタルの装甲を全身にまとった、異様な少女だった。
「え…えぇぇぇ!?なぁにこれぇ!?私どうなっちゃってるの!?」
イチカが驚いている隙に、怪物の手が彼女に向けて振りかかる。
「っ!」
衝撃音が、温室の中に響き渡る。だが、イチカは攻撃を受けても硬い装備のおかげで、傷一つつかなかった。
「…だったら、私もっ!」
ドォォン!
「ギェェェェェァァァア゛!!」
イチカが強力なパンチを繰り出し、怪物が叫び声を上げながら地面に倒れ込む。
「ガァエ゛ッ………シ…………て………」
怪物の身体が塵芥となり、風に吹かれたように静かに消えていった。
「…倒しちゃった。」
イチカの身体が、普通の女子高生の姿に戻る。
複数人の駆け足の音が近づいてくる。
「イチカっ!!大丈夫か!?」
カスミとしずく、ことはの三人が、彼女を心配して部室にやってきた。
「…みんな。」
「怪我はないか――――ッ…!?」
カスミの顔が青ざめる。また、しずくも、普段とは違い動揺しているように見える。二人の視線は、イチカの腕の装置にくぎ付けになっていた。
「…なあ、どこでそれを」
「イチカーーーッ!!生きててよかったぁぁぁ!!アタシたちみんな心配してたんだよぉぉぉっ!!」
シリアスな雰囲気を断ち切るように、ことはがうるさく叫びながらイチカの方へ飛びつく。
「あ、あはは…ことはちゃん、そんなに泣かなくてもぉ…」
「だってぇぇぇ…!ずっと帰ってこなかったからぁぁっ!!」
夜の温室の中で、一年生同士の微笑ましい友情が展開されている。
「…今日はもう遅いわ。早く帰りましょう。」
「「はい!」」
「…おう。」
部長のしずくの言葉で、部員みんなが支度をし始めた。
イチカが入念に忘れ物を確認する。そして、そのまま帰ろうとしていたとき……
「あ…このアサガオ…もう枯れちゃったんだ…」
「なんだい、まだ悲しがってたのか?」
「…?…はい。」
「ふふ…本当にお花が大好きなのね。」
日中の出来事が再度掘り返されたかのような光景に、部室に和やかな空気が広がる。
イチカの華としての運命が、芽吹き始めていた。
読んでいただきありがとうございました〜
私は小説一回も書いたことなかったので、途中途中不安になりながら書いていました(結果的に短めな一話になっちゃった)。仮面ライダーときらら系が好きでこんな作品になってます(ごちゃごちゃしてないといいけど)。
第二話以降では後書きに、キャラクターたちのおまけ話を書こうと思っているので、ぜひそちらも楽しみにしていただければ幸いです。
初作品、どうなることかはわかりませんが、どうぞこれからもよろしくお願いします。




