第 14 話:C ランクへの昇格
盗賊団「黒狼」の討伐から数日後。
エルネアの街は、久々の平穏を取り戻していた。
街道の安全が確保され、商人たちの馬車が活発に行き交う。
ギルドの酒場は、討伐の成功を祝う冒険者たちで、連日ごった返していた。
その中心にいるのは、いつも「陽だまりの灯」だった。
「よう、陽だまりの灯! こっちで一杯どうだ!」
声をかけてきたのは、重装備の戦士ゴードンだ。
彼のパーティ「鋼の拳」のメンバーも、にこやかに手招きしている。
「レオン、お前のあの動き、どうなってやがるんだ。今度、俺にも教えてくれよ」
「フィーナちゃん、あんたのサンクチュアリがなけりゃ、俺たちは今頃、鳥の餌だったぜ。本当にありがとうな」
あの夜、共に戦った冒険者たちが、次々とレオンとフィーナの席に集まってくる。
彼らの言葉には、偽りのない賞賛と敬意がこもっていた。
レオンは、少し照れくさそうに、しかし嬉しそうに彼らの相手をする。
フィーナも、普段の冷静な表情を少しだけ緩め、柔らかな笑みを浮かべていた。
二人は、エルネアの冒険者社会の中で、確かな居場所を築き上げていた。
そんな喧騒の中。
ギルドの入り口が、不意に静まり返った。
全ての冒険者の視線が、そこに注がれる。
入ってきたのは、Aランクパーティ「銀の風」。
リーダーの男を先頭に、メンバーたちがゆっくりと酒場の中を進んでくる。
そのただならぬ存在感に、誰もが道を譲った。
レオンは、息を呑んで立ち上がった。
憧れの人が、自分たちのいる場所に、まっすぐ向かってくる。
やがて、「銀の風」のリーダーは、レオンたちのテーブルの前で足を止めた。
「いい顔になったな、風の小僧」
兜の隙間から見える瞳が、楽しそうに細められる。
「……あの時は、ありがとうございました」
レオンは、深く頭を下げた。
「礼を言うのはこっちの方だ。街の平和を守ってくれた。見事な戦いぶりだったと聞いている」
リーダーは、レオンの肩を力強く叩いた。
「お前たちの戦術が、討伐隊の勝利の鍵だったそうだな。陽動と支援の連携……面白いことを考える」
その言葉に、周りの冒険者たちも誇らしげに頷く。
「お前たちのチーム名、陽だまりの灯だったか」
「はい」
「いい名だ。その名の通り、エルネアを照らす光になりつつある。俺たちも、うかうかしてはいられないな」
リーダーはそう言うと、豪快に笑った。
「これからも、精進しろよ」
それだけを言い残し、「銀の風」はカウンターの方へと去っていく。
レオンは、その大きな背中を、いつまでも見送っていた。
憧れの人に、認められた。
その事実が、レオンの胸を熱くした。
数日後。
レオンとフィーナは、ギルドマスターの部屋に呼ばれていた。
「今回の盗賊団討伐、実に見事だった」
ギルドマスターは、討伐隊の報告書を手に、満足げに頷いている。
「特に、君たち『陽だまりの灯』の功績は大きい。君たちの戦術がなければ、討伐は失敗し、被害は甚大なものになっていただろう」
ギルドマスターは、厳しい表情で二人を見据える。
「君たちは、ただ強いだけではない。街を守るという冒険者の本分を、誰よりも深く理解している」
その言葉は、二人にとって何よりの賛辞だった。
「よって、ギルドは君たちの功績を最大限に評価することを決定した」
ギルドマスターは、机の引き出しから二枚のプレートを取り出した。
それは、銀色に輝くプレート。
「本日付で、陽だまりの灯をCランクに昇格させる」
Cランク。
それは、エルネアの冒険者の中でも、中堅上位の実力者として認められた者だけが手にできる階級。
レオンとフィーナは、顔を見合わせた。
驚きと、喜びが、同時にこみ上げてくる。
二人は、ギルドマスターから銀色のプレートを受け取った。
青銅のプレートよりも、ずしりと重く感じる。
「Cランクからは、依頼の難易度も、そして背負う責任も格段に上がる。心して励むように」
「はい!」
二人の声が、力強く重なった。
ギルドマスターの部屋を出る。
レオンは、手の中にある銀色のプレートをじっと見つめた。
エルネアに来て、まだ一年も経っていない。
最初は、雑用ばかりをこなすFランクのひよっこだった。
それが今、Cランクの冒険者として、ここに立っている。
隣には、いつも冷静に自分を支えてくれる、最高の相棒がいる。
周りには、自分たちを信頼し、認めてくれる仲間たちがいる。
そして、遥か先には、追いかけるべき大きな背中がある。
「フィーナ」
レオンが、隣を歩くパートナーの名を呼ぶ。
「俺たち、強くなったな」
「はい。でも、まだまだこれからです」
フィーナが、静かに、しかし力強く答える。
そうだ。
ここは、まだ道の途中。
レオンは、銀色のプレートを強く握りしめた。
エルネアの守り手として。
その新たな責任の重さを、そして、それを超えていく決意を、その胸に深く刻み込んでいた。




