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陽だまりの灯(ともしび)  作者: 悠々


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第 13 話:陽だまりの戦術

月明かりもない、新月の夜。


エルネア東方の森は、深い闇に沈んでいた。

木々の間を、二十名ほどの影が音もなく進んでいく。

盗賊団「黒狼」討伐隊。


レオンは、息を殺して先行する斥候の合図を待った。

隣には、杖を握りしめたフィーナがいる。

その翠色の瞳は、暗闇の中でも冷静な光を失っていなかった。


作戦は、夜陰に紛れての奇襲に決まった。

斥候チームが先行して見張りを無力化し、砦の門を開ける。

その後、全パーティで一斉に突入し、盗賊団を制圧する。


やがて、先行していた斥候から合図が送られた。

作戦開始。


討伐隊は、廃砦の石壁に取り付く。

軋む音を立てて、砦の門が内側から開かれた。


「突入!」


重装備パーティのリーダー、ゴードンが雄叫びを上げる。

彼は作戦会議で正面突破を主張していた男だ。


ゴードン率いる「鋼の拳」が、盾を構えて真っ先に砦の中庭へと雪崩れ込む。

それに続くように、他のパーティも突入を開始した。


「行くぞ、フィーナ」


「はい」


「陽だまりの灯」も、最後尾に近い位置で中庭へと足を踏み入れた。


砦の中は、篝火が焚かれ、思ったよりも明るかった。


「敵襲ーっ!」


盗賊たちの怒声が響き渡る。

寝静まっているはずの砦は、すでに臨戦態勢だった。

罠だ。


四方八方の建物から、次々と盗賊たちが姿を現す。

その数は、討伐隊の倍以上はいる。


「ちくしょう、嵌められたか!」


ゴードンが悪態をつく。


戦闘が始まった。

だが、それは乱戦だった。


各パーティは、お互いに連携を取る余裕もなく、目の前の敵と戦うので精一杯。

討伐隊は、数の暴力の前に、少しずつ押し込まれていく。


「ゴードンさん、突出しないでください!」


斥候パーティのリーダーが叫ぶ。


だが、ゴードンの「鋼の拳」は、持ち前の突破力で敵陣の奥深くへと切り込みすぎていた。


「うるさい! こいつらを片付ければ終わりだ!」


その時だった。


ゴードンたちの頭上、建物の屋根から巨大な網が投げ落とされた。


「なっ……!」


「鋼の拳」のメンバーが、身動きを封じられる。


「今だ、やっちまえ!」


盗賊たちが、網にかかった彼らに一斉に襲いかかった。

絶体絶命。


「フィーナ!」


レオンが叫ぶ。


「はい!」


フィーナは、レオンの意図を即座に理解していた。

彼女は杖を高く掲げる。


「サンクチュアリ!」


神聖な光が、天から降り注いだ。

その光は、網にかかった「鋼の拳」の周囲に円形の領域を作り出す。

盗賊たちが、光の壁に弾かれて後ずさった。


一時的な、安全地帯。


「助かった、が……!」


ゴードンが叫ぶ。

サンクチュアリは、敵の侵入を防ぐが、味方も外には出られない。

そして、フィーナの魔力は無限ではない。


活路を開かなければ、ジリ貧になるだけ。


「俺が行く」


レオンは、一人、前へ出た。


「レオンさん!」


フィーナが、彼の名を呼ぶ。


レオンは振り返らず、右手を軽く上げた。

信じろ、という合図。


彼は、サンクチュアリのすぐ外で剣を構えた。


「なんだ、あのガキは」

「一人で何ができる」


盗賊たちの嘲笑が飛ぶ。

全ての敵意が、レオン一人に集中した。


レオンは、静かに息を吸った。


風になる。


次の瞬間、レオンの姿が中庭から消えた。


いや、消えてはいない。

常人には捉えきれない速度で、敵陣の只中へと突っ込んでいた。


それは、攪乱のためだけの連撃。


レオンは、とどめを刺すことに固執しない。

一人の盗賊の剣を弾いて体勢を崩させ、即座に反転し、別の盗賊の足元を斬り払う。

悲鳴を上げる盗賊を無視して、さらに奥へ。


彼の目的は、敵を一人ずつ倒すことではない。ただ敵の陣形をかき乱し、注意を引きつけることだ。


「あのガキを止めろ!」

「囲め!」


盗賊団の統制が、乱れていく。

彼らの攻撃は、レオンの残像を空しく斬るだけ。


レオンは、風のように戦場を駆け巡る。


その間に、他のパーティは体勢を立て直していた。

斥候パーティが、網を切り裂き、「鋼の拳」を救出する。


「……あいつ」


ゴードンは、敵陣で一人舞うレオンの姿を呆然と見ていた。


あれが、陽動。

あれが、戦術。


「俺たちは、あいつが作った時間を無駄にするな!」


ゴードンの声が飛ぶ。


「『鋼の拳』は前衛! 壁になれ!」

「斥候班は敵の指揮官を狙え!」

「後衛は援護を絶やすな!」


バラバラだった討伐隊が、一つの生き物のように動き始めた。


「陽だまりの灯」の戦術が、討伐隊の戦術の核となったのだ。


戦いの流れは、完全に変わった。


レオンが敵陣をかき乱し、フィーナが的確な防御と回復で味方を支える。

その盤上で、他のパーティがそれぞれの役割を最大限に発揮する。


数で勝っていたはずの盗賊団は、統制の取れた討伐隊の前に、赤子のように崩れていった。


夜が明け始める頃。

砦は、完全に制圧された。


レオンは、肩で息をしながら、剣を鞘に納めた。


「……見事だった、陽だまりの灯」


ゴードンが、レオンの前に歩み寄る。

その顔に、もう以前のような傲慢さはない。


「お前たちがいなければ、俺たちは全滅していた。……礼を言う」


彼は、レオンに向かって深く頭を下げた。


他の冒険者たちも、レオンとフィーナに賞賛と感謝の視線を送っている。


陽だまりの戦術。


その活躍は、この場にいた全ての冒険者の心に、深く刻み込まれた。

二人の名は、もはや単なる噂ではない。

確かな実力への敬意と共に、エルネアの冒険者たちの間に広まっていくことになる。


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