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記録とアップデート

 村での探索を終えた俺は、ネロリアの家の石造りの浴槽で一日の疲れを癒していた。薄暗い廊下を通り、髪から湯気を立ち上らせながらリビングへと戻る。


「ありがとう!いい湯だったよ!」


髪を乾かしながらリビングに戻った。温かい湯に身を浸したせいか、若干スッキリした気分だ。やはりオッサンには温かい風呂が一番効く。


 ネロリアは食卓を整えながら笑顔で答えた。「それは良かったわ。さあ、もうすぐ夕食よ」


 テーブルには見慣れない紫色のじゃがいもと赤みの強い肉の煮込み料理が並んでいる。フィーラも席について待っていた。


「いい匂いだなぁ」と言いながら空いてる席に着く。


「今日の村の様子はどうだった?」とネロリアが尋ねてきた。


「色々と面白かったよ。市場は特に活気があって、見ているだけで楽しかった」


 しばらく談笑しながら食事を楽しんだ後、ふと思いついて口を開いた。


「あ、フィーラ。申し訳ないんだけど、あとで魔法を見せてもらえないだろうか?」


 フィーラはスプーンを口にくわえながらキョトンとした顔をする。


「え? 魔法?」


「図鑑には植物や動物だけじゃなく、魔法も記録できるんだ。まだ1つしか記録できてないから、情報を増やしたいんだよ」


「そ、そういうことなら…。でも、本当に簡単な魔法しか使えないけど、それでもいいかなー?」


「もちろん、どんな魔法でも大歓迎だ!」


「フィーラの魔法は繊細でとても綺麗よ。記録する価値は十分あると思うわ」


とネロリアが優しく後押しする。


「それなら、いいわよ!」


ネロリアの家ー中庭ー


 夕食後、俺たちはネロリアの家の中庭に移動した。


 フィーラは中央に立ち、両手を軽く前に出した。


「星の(はざま)の静寂より、万物引力の糸を断ち、天空の舞台へ…ディロ・グラヴィタス」


 その言葉と共に、この為に置いた40センチぐらいの石が宙に浮かび上がった。地面から目線の高さぐらいまで浮きあがり、その高さをキープしている。


「どう、かなー?」


 フィーラが少し得意げに、でも少し不安そうにこちらを見る。


「すごい!ありがとう! ちょっとそのままにしててくれ!」


 俺はフィーラと浮いている石を画面に収め、撮影ボタンを押した。


 カシャ!


 シャッター音と同時だった。

 まるでフィーラと石を繋ぐ魔力をハサミで切り取ったかのように、石はドンと地面に落ちた。


「あっ!」フィーラが驚いた声を上げる。


それと同時にブーっという振動と共にスマホの画面に通知がくる。


『魔法「ディロ・グラヴィタス」を記録しました』


『効果:対象物の重力を一時的に無効化し、浮遊させる無属性魔法』


「あれ? 今ので魔法が消えちゃったみたい…」


フィーラが不思議そうに首をかしげる。


「理屈は分からないが、写真を撮ると魔法が消えるんだ。以前にもヴォルトラの雷を撮影したときもー」


 と言い掛けた時に2人の唖然!といった表情が目に入る。


「ど…どうした!? 俺、なんかまずいことを言ったか?」と困惑気味に聞く。


 フィーラ達は互いに目をあわせたあと、ネロリアが口を開く。


「違ったらごめんね。そのヴォ…ヴォルトラって雷を纏う神獣様のこと…だったり…しないわよねーー?」


「神獣?ああ、たしかそんなふうに呼ばれてるって言ってた気もする」


 俺が何の気なしに答えた瞬間だった。


「「えええええええええええええええええっ!!!!」」


「えっ? なに!? 拓人、神獣様と会話したの!?」


 ネロリアの金切り声と、フィーラの「あわわわ…」という声にならない悲鳴が夜空に響いた。


「ああ、喋ったが…。な、なんだよ一体!? ヴォルトラって、そんなにヤバい奴なのか?」


「やばいなんてもんじゃないわよ! 超絶レアよ! 生ける伝説! 神話の存在なのよ!!」


 ネロリアが俺の肩を掴んでガックンガックン揺さぶる。


「す、数百年に一度、目撃されるかどうかって言われてるのよ! 私の家系でも、曾々祖父様が二百年前に一度だけ遠くに姿を見たっていう記録が残ってるだけで…!」


「わ、私も…神獣様の伝説は、古い書物でしか読んだことしかない…。まさか、本当に…実在する…の?」


 フィーラも信じられないって表情で呟く。


「ヴォ…ヴォルトラってそんな大物だったのか。なんか結構フレンドリーだったけど」


「「フレンドリー!?」」


 今度は二人の驚愕の声が綺麗にハモった。


「な、なんか、ふつうに写真も撮らせてくれたが…」


「しゃ、しゃしゃ、写真!? 見せて! 早く見せて!! 今すぐ見せて」


 ネロリアが鬼気迫る勢いで詰め寄ってくる。フィーラも隣でコクコクと、首がもげるんじゃないかというくらい激しく頷いていた。その剣幕に若干たじろぎながらも、俺はスマホのギャラリーからヴォルトラの写真を見せた。


「こ…これが神獣様…」とフィーラはいう。


ネロリアも「神秘的だわ!こんな美しいなんて…」と感動している様子だった。


 いや、ほんと、ただのデカい馬?じゃなかったんだな、あいつ…。

俺は、後で詳しい経緯を説明すると約束し、なんとか二人の興奮をクールダウンさせる。


俺はなんとか魔法の話題へと軌道修正した。


 二人はまだ信じられない様子だったが、とりあえず納得してくれたようだ。


「た…拓人ってなんていうの?すこし…いえ、かなり変わってる。普通じゃないわね」ははっと笑いながら、ネロリアが小さく呟いた。


 俺は、聞かなかったことにして、フィーラに別の魔法をお願いする。


「じゃぁ、気を取り直して、もう一つ別の魔法を見せてもらえないか?」


 フィーラは頷き、今度は指先で円を描くように動かした。


「星の瞳より零れ落ちる光よ、闇の帳を押し分け、古の叡智の灯火と。ルミナルオーブ」


 指先から淡い光の粒子が溢れ出し、蛍のように中庭を漂い始めた。幻想的な青白い光が空間を温かく照らす。


「きれいだな」


 再びスマホを構えて撮影した。


カシャ!


シャッター音と同時に、先ほどと同じように中庭を照らしていた光の粒子は、フッと消え去り、辺りは元の月明かりだけの静けさに戻った。


『ブー』


『魔法「ルミナルオーブ」を記録しました』


『効果:周囲に浮遊する光の粒子を生成し、広範囲を照らす光源魔法』


『ブー』


 更にスマホに通知が届く


『魔法図鑑がレベル2に到達しました』


『すべての図鑑がレベル2に到達しました。新機能が解放されます』


 画面が輝き、新しいアイコンが現れる。


『魔法保存機能が有効になりました。撮影した魔法を使用できるようになります』


「え?魔法を…使用できるのか?」


 俺は来た通知を押す。

 するとアイテムストレージの並びに「魔法ストレージ」というのが追加されていた。


その中にはこれまでに撮影した魔法が一覧表示されていた。


1. 雷霆震天 - 1/1

2. ディロ・グラヴィタス - 1/1

3. ルミナルオーブ - 1/1


もしかして、もしかすると、これはまさかの神機能かもしれない!


「とりあえず試してみるか!」


 俺は最初にフィーラが使用した、物を浮かせる魔法を使うことにした。


 「ディロ・グラヴィタス」をタップ。


するとカメラ画面が起動し、中央にターゲットマークが表示される。


画面下に「対象物を映しタップしてください」というメッセージが表示されている。


 俺はさっきフィーラが持ち上げた石をカメラで捉え、タップする。


 青白い光が石に向かって放たれ、石がゆっくりと宙に浮き上がった。


「うわっ、マジで使えた!!」


 俺が急に魔法を使ったことに、フィーラとネロリアも驚きの表情を浮かべた。


浮いた石はカメラの向けた方向に移動し、ズームボタンで奥や手前に移動することができるようだ。


ある程度、操作を確認した後に地面近くまで移動させ画面にある『解除』をタップ。


すると、ドンっと浮いていた石が落下した。


「や…やった。」


思っていた魔法の使い方ではないし、手間もかかる。だが俺にも魔法が扱える。


それだけで今はじゅうぶんだ!


使用後、魔法ストレージの画面では「ヌルム・グラヴィタス」の表示が「0/1」に変わっていた。


「なるほど、魔法を撮影した回数だけ使用が出来るのか!これは便利だ!」


「魔法を記録するなんて…そのスマホってやつ、ほんとすごいわね。詠唱もいらないみたいだし」


「そうだな!でも、使い勝手が悪い部分も多い。発動にスマホを操作する必要があるから、緊急時にうまく扱えるか心配だ。」


 フィーラはそれでもすごい!と目を輝かせていた。「他にも魔法を見せましょうか?」


「ぜひお願いします!」


 その後、二人は様々な魔法を見せてくれた。薬草の成長促進、熱源、水の浄化など。


そして8種類目の魔法を撮影したとき、新たなメッセージが表示された。


『魔法図鑑がレベル3に到達しました』

『各魔法までの最大保存回数が3回に増加しました』


 魔法ストレージを確認すると、表示が「0/3」や「1/3」に変わっていた。


 おお!保存回数が増えた!


「よし、今日はこれぐらいにしておこう。」俺は二人に向かって終わりを伝える。


本日の成果


まず、図鑑がすべてレベル2になる

それによりを撮影した魔法を使えるようになった


次に魔法図鑑レベル1 → レベル3

これにより魔法の保存回数が三回になった。


ちなみに使用した魔法は、同じものを再度撮影することでストックを回復できる。


「これで少しは自分を守れそうだ。協力してくれてありがとう」


「どういたしまして!でも、無理はしたらだめだよ!」


「わかってるよ。魔法が使えたとしても、身体のスペックはおっさんのままだからな」


 そう言って、俺たちは笑い合った。異世界での生活がまた一つ、進展した瞬間だった。



—魔法ストレージ—


【光】ルミナルオーブ 3/3  【零環(れいかん)】  

 効果: 周囲に浮遊する光の粒子を生成し、広範囲を優しく照らす


【火】イグニアン 3/3  【零環】  

 効果: 指先から小さな火を発生させる


【風】エアル・ブレイド 3/3 【壱環(いちかん)

 効果:空気を圧縮して鋭い風の刃を生成し、対象に向けて放つ攻撃魔法


【光】ナチュラ・エール 3/3  【壱環】

 効果: 植物を活性化し、小さな傷を癒す緑色の光を放つ


【水】ウォーターシェイプ 1/3  【壱環】

 効果: 少量の水を操作し形を変える


【無】ディロ・グラヴィタス 3/3  【弐環(にかん)

 効果: 対象の重力を取り除き、移動が可能


【闇】シャドーミスト 1/3  【弐環】

 効果: 周囲に暗い霧を発生させ、視界を遮る


【雷】雷霆震天 1/1 【陸環(ろくかん)

 効果:広範囲に強力な雷撃を呼び起こし、複数の標的を同時に攻撃する神獣級魔法


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