回復役は答えり。
もしかしたら今までで一番長いかも。
さらに数日が過ぎた。そろそろ村に着こうかというのに、いやに静かだ。
「おかしいですね。ここは魔族の領土とは言え、以前は我々人間の領土だったところです。ここまで静かなことはないはずですが…」
「ええ、まだ日が昇ってそんなに時間もたってない。普段なら誰かしら通ってもおかしくない時間よ」
「そうだよなあ。ここまでいくつもの街や村を通ってきたけど、ここまで近づいているのに誰とも会わない事はなかったよな」
「もしかして、また何かあったのでしょうか…?」
「そんな顔するなよ。この前の村みたいな事はそうそうないって」
「とにかく、もう少し近づいてみましょう」
「あ、勇者様たちだ!」
「なに?」
「本当か?」
「助かった!」
「これで何とかなる!」
「勇者様!」
「勇者様!勇者様!」
「勇者様!勇者様!勇者様!」
村の入口まで来ると、さっきまでの静けさとは逆に煩いまでの歓声に迎えられた。
「え、えっと…」
「なにが…」
「おお、あなた様が勇者さまですな!私はこの村の村長しとる者です!」
「は、はじめまして。勇者です」
「おお、この凛々しいお顔!風格!それにお美しいお仲間!さすが勇者様!」
「あ、あの、村長。歓迎してくださるのはありがたいのですが、皆さんはなぜこんなにも…?」
「それはもう、勇者様たちがこの村をお救いくださる方達だからです!」
「と、言われましても何が何やら…」
「おお、申し訳ありません!喜びのあまりついうっかり!」
「で、どういうことでしょうか」
「つい三日前のことですじゃ。この先にある魔族の砦から魔族共に襲われましてな…」
「大変だーーーー!魔族が来たーーーー!」
「な、なんだって!は、早く逃げろ!女や子供だけでも逃げるんだ!」
「そんなの間に合わねえよ!」
「だってなあ!」
「楽しそうだなあ、おい」
「ひっ」
「まあまあ落ち着けよ。なにも今すぐ食う訳じゃねえし」
「で、でも食うんだろ?!」
「まあ、それは他にごちそうがなければな」
「ほ、他の?」
「ああ、ここにある食料を全部出せ」
「そんな!」
「そんなことしたら俺達は飢え死にしちまうじゃねえか!」
「知らねえよ。なんで俺達がお前たちが飢え死にするかどうか心配してやらないといけないんだ?」
「でもなあ!」
「あー、嫌だって言うんだったら話が早い。とりあえずお前たちを食べて、それから女子供を食べれば良い。食料はデザートとしてもらっておこう」
「なんだと?」
「なに、飢え死にする心配が無くなるんだ良かっただろ?」
「ぐは!」
「な、なななななな、お前、首を」
「で、次はお前さんの番なんだがどうする?」
「わ、わかった…」
「という事があって、ここの村には碌に食いものがないんですじゃ。しかし!勇者様が来てくださればもう安心!勇者様!砦の魔族を倒し、食料を取り戻してくだされ!」
「分かりました。しかし我々も手持ちの食料が心もとない。取り戻したら、多めに分けていただいてよろしいですか?」
「もちろんですじゃ!」
「砦まではここからどのくらいで着きますか?」
「今の時間に出れば昼前には着きますじゃ!」
「皆聞いたか!今すぐ砦に向かってい魔族を倒してこの村を救う!」
「はい!」
道中に一度戦闘を行ったが、回復役の魔法により万全の態勢で砦の前まで到着した。
「よし、みんな良いか。
一同はうなずく。ここから先は完全に敵しかいない領域である。
「今回は回復薬がない。無理はするなと言いたいが、食料の事もある。なるべく傷を負わないように固まって行動するんだ」
「わかりました!」
「回復魔法は後何回使える?」
「さあ、お前は何と答えるのだ?」
勇者一行が砦の前に立った時から、魔王はずっと見ていた。
「回復魔法は後何回使える、と答えるのだ?」
窃盗団の仕業に見せかけて回復役を奪ったのも。
村長の妻に怪我をさせたのも。
村長の妻が首をつるように仕向けたのも。
回復役にトラウマを植え付けて悪夢を見る事に疑いを抱かせず。
食料を奪い、この砦まで休み無しで移動させたのも。
「さあ、よく考えろ。お前の答えによって生死が決まる」
薬を奪ってバックアップを削り。
悪夢を見せる事で精神力を削り。
睡眠時間を削る事で魔力の回復を妨害し。
食料を奪う事で体力を削り。
「さあ、その思考能力も体力も落ち切ったその頭で良く考えろ!」
(さっき使ったのが最後…もう私には回復魔法は使えない…いざとなれば私が…使えないとなったら見捨てられる…)
「…後、1回です…」
年内はたぶんこれで最後。皆様良いお年を。




