60 爺
飛び出したロッテンを追ってツヴァイアが壁から飛び降りた。
湿地帯という事で地の利があると思っているようだ。
俺も氷の傾斜のある道というより滑り台を壁の上部から作り、爺さんとアハートちゃんと共に滑り降りた。
ロッテンの進撃のスピードが速い、俊足を使って進んでいるんだろう連携も何もあったもんじゃない。
ロッテンのDMKの能力は認めるが、まだまだDMを前にしてその本能的な衝動が抑えられないようだ。
若さ故だろうがココでは危険だ。
胞子の濃度が濃く視界が悪く、声も届きにくい。
降り注ぐスライムを氷結魔法アイスボールで凍らせ撃ち落として進むがキリがない。
まずは、この上から降り注ぐスライムを止めるためにも、その原因になっているキノコを倒す事が先決だろう。
同じような事を考えたんだろう、ロッテンがビックスライムまでの道のりにあった巨大キノコに斬りかかったようだが、倒せなかったようだ。
あのロッテンのブルースラッシュを食らって持ち堪えた?
何千本と生えているキノコ一本を倒すのも困難なのか?
斬撃に特化して強いだけ?
こういう敵は攻略法さえ分かれば呆気無く倒せたりするものだが、情報が少なすぎる。
「マズいぞ!アクアメガウォール!」
ツヴァイアがロッテンの前方に水の防御壁を作った。
本来は巨大な水の壁が出来るはずが、距離がありすぎて薄い壁が出来ただけだ。
巨大スライムが輝いている。
あの規模は確かにマズイ!間に合うかっ!?
うおおおおおおお!!!
「アイスギガウォールゥッゥ!!!」
俺達3人の前方を斜めに厚み3m高さ6mの氷の壁を作り出す。
ピカッ ゴウゥ クンッ シュッ ゴーォォォン
左後方の地表が盛大に水しぶきを上げる。
巨大スライムからの光線をどうにか屈折させ曲げる事が出来たようだ。
「ロッテェェン!!!」
アハートちゃんが駆け出す。
君が前に出ちゃいかんだろ!
「ツヴァイア!援護を!」
「了解!アクアドーム!」
ロッテンのいた場所に水の防御壁が囲む。
「アイスロード!」
現場までの道を作りアハートちゃんの足場を確保。爺さんも後を追って駆け出す。
「アイスウォール!」
「アイスウォール!」
「アイスウォール!」
氷の道を作り、巨大スライムとの射線に氷の壁を3重で作った。
「ロッテン!だいじょうあ…う…」
ドーム内に駆け込んだ俺の目の前にキノコの塊を抱えたアハートちゃんがいた。
ロッテン?なのか?
「治癒魔法かけたんだけど…胞子がいっぱい付いちゃっててね…駄目だった…わたし…私の治癒魔法は何でも治せるって過信してた…オールヒールをかけてもキノコの成長を促進させるだけで…」
「…お前のせいじゃないよ…」
「撤退じゃろうな…」
「ああ、ルアーサ樣に報告しないとな」
ドッ ゴッ
「うわっ!うおおお!」
「アクアドーム!」
「アクアドーム!」
「アクアドーム!」
「アクアドーム!」
ツヴァイアが必死に水の防御壁を展開してくれている。
「アイスドーム!」
「エアロバリア!」
「リジェネスオール!」
俺達3人も追従して出来る限りの魔法で援護する。
今、俺達は数重に張られた防御壁に守られて海草の中を進んでいる。
何処までいくのかは分からない。
目の前には、先ほど突然湿地より現れた巨大ワームの無数の歯が防御壁を食い破ろうと攻撃しつつ、防御壁ごと咥えながら水の溢れた水中を進んでいる。
ポーションで魔力を補充しながら水中を進む。防御壁内部から攻撃を加える事も考えたが、既に防御壁の周囲には無数のワームが並走して泳いでいる。何処かに誘導しているみたいだしココは敢えて相手の思惑に乗ってみようという話になった。
考えたくは無いがこの醜い姿の巨体に知能があるようだ。
それだけ力のあるDMに支配されているという事だろう。
「兄貴、ますますこのダンジョンをほっといて帰るなんて出来ないぜ!危険過ぎる!DM見つけ出してこんなダンジョンぶっ潰そうぜ!」
「ロッテン君の弔い合戦よ!私でも光魔法で前衛をサポート出来るはず!やってやるわよ!」
「まぁ、もうここまで来たら撤退するもDMを殺るも同じぐらいの難易度かもしれんしのぉ、やれるだけやってみるかのぉ」
「この魔物の数じゃ、生半可な事ではDMは倒せんじゃろう。わしが大聖獣を召喚しよう」
「爺さん!大聖獣っていったら低位の者を召喚するのだって高位の召喚術師数十人による合同召喚術になるんだぜ?いくら爺さんでも無理があるぜ」
「無理かどうかはワシが決めることじゃ」
そう言い放つとおもむろにいつも頭からすっぽり被っているローブを脱ぎ出した。
「おいおい、ご婦人の前で急になにぉ…」
「この全身に刻んだ魔術式が何か分かるか?」
全身を黒い文字がビッシリと埋め尽くしている。その文字が動いている?
「流石にワシもこんなところで死にたくはないんでのぉ。今回はアハートの嬢ちゃんもいるから安心して後先考えず勝負が出来るわい」
爺さんが顔を皺くちゃにして満面の笑みを向けてくる。瞳がキラキラとイタズラ小僧のようだ。
「この数十年練りに練りこんだ魔術式じゃ、右腕に集中させて供物として一本くれてやるわい。嬢ちゃんなら腕一本ぐらい再生可能じゃろ?」
「ええ…だけど…」
「ああ、魔術式は再生出来んのじゃろ?分かっとるわい、ワシもこの仕事が終わったら隠居して孫の世話でもして過ごす事にするしかないじゃろう、それも命あってこそじゃ!生き残るぞ!何があっても!ぬんっ!グヌヌヌヌムゥゥゥ!!!」
爺さんの身体の文字が右腕に集まり出す。
ガッ ブチンッ ベッ
おもむろに左手の人差し指と中指に噛みつき噛みちぎって肉片を吐き捨てた。
俺の足元にシワがれた指が2本転がる。
「爺さんっ!」
「ええい!魔力の通った血が必要なんじゃっ!しかもそれなりの量がのぉ!後のことは頼んだぞ嬢ちゃん!フヌゥゥゥゥ…ムググググ」
空中に血塗れの左手で魔法陣を描いていく、血が宙に浮かび真っ赤な魔法陣を作っていく。
全身の魔法式が右肩から先に集中し真っ黒に染め上げる。
「むんっ!血魔陣形拡充!ワシの数十年の魔術の結晶!くれてやるわい!魔力刀マナエッジ!」
空中の魔法陣が一気に10m程の大きさに拡大した。そして、そこに左手の手刀から伸びた魔力の刀で右肩からブッツリと右手を切り落とすと、ブチャァと音を立てて落ちた右手を左手で引っ掴んで魔法陣の真ん中にぶん投げた。
魔法陣に吸い込まれるように爺さんの右手がその中に入ると真っ赤な魔法陣が紅く輝きながら回転し始めた。
「いでよ!大聖獣 !ペンタドラゴン!」




