買い物は大変だ
ダイニングには、いかにも強そうなガタイの大きな男が、大盛りに盛られた朝食にガッツいていた。
「やぁ、坊っちゃん。今日は、どうします?」
そう言って、歯を見せてニヤリと笑った大男は、ボディガードの加地さんだ。
執事の新崎さんと違って、この人は、いつも「坊っちゃん」と呼んでくる。
といっても、そう呼ぶのは、屋敷の中や車の中など素性の知れている人の前だけだ。
人前では「橘さん」と呼び方を変えている。
加地さんは、子供の頃から、気さくに話せる数少ない人だった。
「買い物に行こうかと思うんだけど…」
「買い物?。何か、欲しいものでも?」
記憶の限りでは、明和は、あまり物欲のある人ではなかったようだ。
しかし、今の中身は、明石めぐみなのだ。
(せっかくお金持ちの御曹司になったというのに、お金を使わないのはもったいないでしょう。
この「不思議な夢」は、明日には覚めてしまうかもしれないのだから…。
なんて言っても、私の記憶?によると、このコの貯金残高は15億円以上もある。
数千万円くらい無駄遣いしたって、どうって事ないよね?。)
「またいつもの気分転換ってヤツですかい?」
よくわからないけど、このコは、何かの拍子で気分転換と称して、それまでと180度違う行動に出る事がよくあるみたい。
なので、今回も、そういう事にして、ごまかす事にした。
加地さんの運転で街中に買い物に出かけた。
車は、以前見かけた「いかにも普通そうな車」だ。でも、防弾ガラスになっていたりとか、色々改造されているらしい。
あんまり高級車って見た目だと、いろいろ危ないので、そうしているんだそうだ。
だから、特にドアを開けてくれたりもしない。普通に自分で降りる。
大手量販店のゲーム売り場にやってきた。
買い物かごに、ずっと欲しかった最新のゲーム機やゲームソフトを、ポイポイと入れていく。
でも、貯金額を考えれば、何も困ることはないだろう。
…と思っていた。
レジで、支払いをしようと思ったら、財布の中には、現金はそんなに入ってなかったのだ。
少し焦ったが、財布には、金色のカードが入っていた。ゴールドカードとかいうクレジットカードだろうか。
いつもカード払いをしているのかもしれない。そう思って、そのカードを使ってみる事にした。
金色で少しひんやりした感触のあるカードを出すと、店員さんは目を丸くした。
「ちょ、ちょっとお待ち下さい」
店員さんは、近くの店員さんを呼んで何やら話をはじめた。
ひとりでは、対処がわからなかったらしく、だんだん、集まってくる店員の数が多くなってきた。
店員さんの一人が、マイクで店内に呼び出しをかける。
「て、店長、す、すみません、3階のレジまで、お、お願いします」
しまいには、店長まで呼び出される事態に発展してきた。
(な、何か、とんでもない事になってきてる…)
店員さん達は、なるべく客に聞こえないように小声で話そうとしているが、動揺しているのか、こちらまで聞こえてくる。
「これ、端末通せるの?」
「わ!、もしかして純金で出来てるとかってヤツじゃない?」
「えぇ!!、端末通す時に削れたりしたらヤバイじゃん」
そんな中、店員に呼び出されてやってきた店長は、店長というには若い感じの人だった。
店長も、どうにも、よくわからないという顔をしており、何か言おうとしては、その言葉を引っ込めるという事を繰り返していた。
(あれって、こういう店では使っちゃいかなかったのかな…)
「あれってクレジットカードじゃなかったっけ?」
執事の新崎さんに小声で聞くと、全てを察したかのように
「今日はスマホをお持ちではありませんかな?」
「持ってきてます」
「それでお支払いになると、先程のカードから自動的に引かれるようになってますので…」
「おー…」
ポケットの中からスマホを取り出す。
超一流メーカーではないものの、それなりに有名な「ファフニール (Fáfnir)」の最新機種だ。
スマホゲームに特化した仕様になっていて、スマホゲームが好きな明石めぐみにとって大好きな機種だ。
「あのー、こっちのペイ機能でお願いしてもいいでしょうか?」とスマホを見せる。
店員さんはホッとした表情を見せた。
「す、すみません、お気遣い頂きまして、あ、ありがとうございます」
なんだか店員さんの口調が完全に変わっている。なんだか、ヤバイ人って思われたみたい。
帰りの車の中で「ゴールドカードって、あの手の店で使っちゃいけないんだっけ?」と聞いてみた。
「何言ってるんです?坊っちゃん。坊っちゃんのカードは、ラグジュアリーカードとかって言うやつで、ゴールドカードなんかとは別物っすよ。」
(え?、何それ?)
記憶の中を辿ると、確かに、そういうのに申し込んだ記憶があった。外側は純金で出来ていて、年会費だけで20万以上とかいうヤツだ。
思えば、変な質問をしてしまったものだ。(変に思われただろうか?)
もしバレたら、悪霊でも払われるかのように追い出されるような気がして、少し焦った。
でも、車内を見渡すと、特に、誰も気にしている様子はなかったので、少しホッとした。
「でも、もうあの店には行かない方がいいでしょうな。坊っちゃんの素性が、何となくバレちゃっていると思いますから…。」
「ごめんなさい。次からは通販にするよ。」
「それがいいでしょう。」
帰宅後、買ってきたゲームを、加地さんと共に楽しんだ。
加地さんは、ゲームの腕前は、私と同じくらいで、僅差で買ったり負けたりといった勝負が続いた。
そんなすごく楽しい時間を思う存分に楽しんだ。




