第56話 wonder、オーディションをする。③
「1番、佐藤里香です!よろしくお願いします!」
「じゃあ早速world wonder!からダンスを披露して下さい。」
「は、はい!」
♪〜
「(表情が硬いかな)」
「ちょっと待って」
「杏?」
「なんていうか、心がこもってない。確かにこの曲は難しいけど、心を込めやすい曲なの。だからwonderの代表曲な訳。この先心を込めて踊れるの?踊れないなら私はClose to Youも聞きたくない。」
「おい、市川…」
「それは私も思ったかな。自ら応募したの?」
「は、はい」
「なら、もうちょっと自分を入れてみたらどうかな。流れてきた音楽をそのまま踊るんじゃなくて、自分なりの表現を加えてみて。」
「ではもう一度お願いします。」
「は、はい!」
♪〜
「(お?」
「いいじゃん。うん、いいよ。だいぶ良くなった。」
「表情も柔らかくなったしね。」
「あ、ありがとうございます。」
「じゃあ次のClose to youに行って大丈夫ですか?」
「お願いします。」
♪〜
「Close to youの方がキレがいいね」
「うん。君のそばに〜のところの躍動感がいい。」
「あ、ありがとうございます!」
「ではこれで審査終了になります。ありがとうございました。」
「ありがとうございました!」
「ねぇ、これ全員やるの?」
「疲れるよね…」
「すまないが、やるんだ。次呼ぶぞ。」
「2番 平岡沙耶香です、よろしくお願いします!」
「はい、じゃあ…Close to Youから」
「杏!?world wonder!からじゃないの?」
「アドリブにも対応出来なきゃでしょ。Close to Youお願いします。」
「は、はい。」
♪〜
「あー、やっぱりClose to Youからで正解だった。すごくイキイキしてる。いいんじゃない?」
「確かにイキイキはしてたかな。world wonder!も踊れる?」
「はい!」
♪〜
「うーん。君の瞳は輝いて〜のところのフリが曖昧だったかなぁ。もう一度いい?」
「はい!」
♪〜
「うん、いい感じ。いい感じだよ。」
「ありがとうございます!」
「では、審査は以上になります。ありがとうございました。」
「ありがとうございました!」
「2番目であれが出ちゃうと今後が心配だね。」
「彼女合格でいいんじゃない?」
「まぁ全員見てからね。」
その後10人のダンスを見て、休憩に入る。杏は疲れきっていた。
「疲れた…」
「頑張ろう。ね?」
「もうしばらくworld wonder!とClose to You聞きたくないわ…」
「わかるけどさ…」
その日は結局30人を審査して終わった。持田さんの車で私と杏は家に帰る。
「お疲れ様。」
「疲れました。」
「疲れるよねぇ。俺も役員疲れたもん。」
「持田さんも大変ですね。」
「まさかこんなに応募来ると思わなかったからね。」
「そうですよね。2万通とかあり得ないでしょ。」
「ね。はい、着いたよ。」
「ありがとうございます。杏、着いたよ。起きて。」
「うん…?」
「着いたよ。」
「ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
「また明日ね。」
そう言って持田さんの車は去って行った。家に入りお風呂を沸かす。杏はベッドで眠ってしまった。
「あーあ、お風呂は明日かな。」
私だけお風呂に入り、髪を乾かし、柔軟体操をする。
「明日もかぁ。頑張らなくちゃな。」
若干の憂鬱と期待を込めて、私もベッドに入った。
夜はまた更けていく。




