第28話 結依、風邪を引く
「うえー39℃…」
久々に重い風邪を引いた。側では杏が心配そうに私を見ていた。
「大丈夫?」
「大丈夫…じゃないかな」
「病院行こ?」
「今日杏レッスンでしょ?私1人で大丈夫だよ。」
「でも…」
「大丈夫」
「分かった…」
しょぼんとしながら杏がレッスンに出かけて行ったわたしも病院に行く準備をしなくては。
実家の近くに小さい頃から行きつけの内科がある。さてどうやって行こうか。立ちあがろうとしても立ち上がれなかった。私は苦肉の策を使うことにした。
「風邪だって?大丈夫?」
「すいません、立ち上がれなくて。」
すると持田さんがしゃがんで私に声を掛ける。
「どうせ車までだから。」
そう言って私をおんぶした。この年でおんぶははずかしいがら背に腹はかえられない。
「はい。後部座席で寝てな。ポカリとウイダーあるから飲んでいいよ。」
「ありがとうございます。はぁ…」
「熱は辛いよな、分かるよ。」
「重篤じゃなきゃいいな…」
診断は重篤な気管支炎だった。強力な抗生物質を2本点滴し、強力な抗生物質を2週間飲むことになった。
「気管支炎は歌うのを仕事にしてる結依ちゃんには辛いよな。」
「さっき高山さんに相談したら、1ヶ月休んだ方がいいって言われました。1ヶ月は長いですけど。」
「まぁそれくらいはいいんじゃない?ゆっくり休みなよ。」
「ありがとうございます。休みます。」
自宅に着き、着のみ着のままの姿でベッドに倒れた。
「着替えなきゃ。また杏が心配する…」
無い力を振り絞ってパジャマに着替えベッドに入る。持田さんが買ってきてくれたウイダーを飲み、薬を飲む.1日1回3日間飲むだけで7日間効果が持続するという画期的な抗生物質と、強力な抗生物質。1日1回飲めばいいらしい。
薬を飲んでしばらくすると眠気が襲ってきた。
「おやすみ」
誰に届かない言葉を呟いて、私は目を閉じた。
「ん…」
何かが肌に当たる感覚。見ると、杏が私の汗を拭っていた。
「帰ってきたんだ」
「ただいま。結依の姿見てたらとっさに近くにあったタオル持ってた」
「それ、ぞうきん…」
「え、あ、ほんとだ。ごめんね。」
「まぁ、ありがとう?」
「何て言われた?」
「重篤な気管支炎だって。入院が必要なレベルだけど難しいなら強力な抗生物質飲んでもらうって。」
「おととい雨に濡れて帰って来たでしょ。それだよ。」
「そうかな…そうかも…」
「とりあえず寝てなね。」
そう言って杏が私を撫でた。たまにはわがまま言ってみようかな。
「ねぇ、」
「うん?」
「寝付くまで手ぇ繋いでて」
杏が私をニヤリと笑いながら、手を繋いで横になった。少し位甘えていいよね。
「ん…」
「あ、起きた?ポトフ作ってるから。熱測ってみなー」
「あら36.9℃だ。かなり下がったね。鎮痛剤強いのにするって言ってたからなぁ。」
「はい、ポトフ。胃に優しいと思うよ?」
「そうだね、いただきます…うん、美味しい。」
「ほんと?やった!」
体が温まってきた。お風呂に入ってもう寝るとしよう。
「杏、一緒にお風入る?」
「入る!」
私が頭を洗っていると、今日の出来事を事細やかに話しだした。高山さんにキレたこと…毎日キレてんな。浅倉さんがダンスが上手くなってきたこと、大森さんは相変わらずなこと。楽しそうに話しているあいだに頭と体を洗い終え、杏とバトンタッチだ。私の話も少しして、2人してお風呂から出る。
私が使っていたヘアオイルが減っている。杏使ったな。
杏の頭をドライヤーで乾かしながら櫛を通す。やっぱり私のヘアオイル使ってるな。
私も頭を乾かし、抗生物質以外の薬を飲んでふとんに入る。杏はまだ起きてるようだ。
「おやすみ、杏」
「おやすみ」
杏が私の額にキスをした。そのまま私は眠りに落ちた。




