第14話 姉さんの哀歌2
大人と子供の違いは何だろうか
精神、肉体、経験、責任感、他にも色々ある
そして全てを満たさなくても大人にはなれる
ドーム状の部屋の奥には大きな扉があった。
扉を前に秋、バルブレア、スキャパの3人は顔を見合わせていた。
「ジロジロ見ないで下さい」
「さっきまで命令口調だったではないか。
何故、敬語に戻るのだ?」
「……それも姿に似合ってる」
秋は変な気分になっていた。
そう、2人がお姉さんになったように感じるのだ。
「なんか、こう威圧感が強いというか」
「レンバ殿、こう言っては悪いが、目に動揺・恐れが出てしまっている。
確かに衝撃的な出来事ではあったが、武人としてそれを出すのは良くない」
「だから武人じゃないです」
たじろぐ秋の肩をスキャパが掴む。
そして至近距離でじっと秋の顔を見詰めた。
「……動くな」
「?!」
「……ふーむ」
「何か分かったのか死霊使い殿!」
「……肌が綺麗だ。
……怯えて青くなっているのもいい」
無言でスキャパに飛び掛かるバルブレア。スキャパはそれを予見していたかのようにスケルトンでバルブレアを遮る。
秋は2人のやり取りに思わずため息をついた。
「……冗談だ。本題に入ろう」
じと目で睨むバルブレアを無視し、スキャパが説明をはじめる。
「……到達者は吸うと言った。
既知のスキルに体力や魔力を吸うエナジードレインやマナドレインがあるが、どちらも違うようだ。
むしろレベルを吸ったり……ある種の経験を吸ってしまうと推定される」
「私にはよく分からんぞ死霊使い殿。具体的にどういうことなのだ?」
「……レンバは縮んだのではなく13~14歳の少年になったのだ。
……聖騎士との会話から判断すると、我々との記憶は失っていない。だが、大人が持っている筈の人生経験が失せ、子供が我々に接しているように見える」
「つまり、“お姉さんの言う通りにしていればいいのよ”という接し方をすればいいということか?」
「……全くブレないのはある種尊敬に値する。
だが重視すべきは強敵ひしめく“終わりのダンジョン”で、今のレンバは全く頼りにならんということだ」
秋は目を見開いていた。
実際そうなのだ。技が失われた訳でも槍が持てない訳でもない。
だが、スキャパの言う通り、柱とすべき何かが無くなったようで全く自信が持てないのだ。
「……不思議なのは聖騎士だ。
……レンバと同じように吸われていた筈なのに、何も変わったように見えない」
「それは私がエルフだからであろう。長命種なので、少々吸われたところで容姿は変わらん」
「……ふーむ。そういうことではないのだが、本当にハートが強いな」
「まあ私のことはいい。まずはレンバ殿を元に戻す方法を探さなければ」
途端に秋の顔が明るくなる。
思わず秋を抱きしめるバルブレア。
「おおレンバ殿! 本当に子供なのだな!
このお姉さんに任せるがいい」
「……お楽しみのところだが、まずは軽く戦闘だ。
……弱いモンスターでいいからレンバに相手をさせ今の実力を測ろう。
それを見て戦術を練らなければならない」
スキャパは周囲をスケルトンで護衛しつつ、扉を開けた。
「……私はこれまで骨スキルに特化してきた
……だが、このままではそうもいかない。スキル構成とチームプレイを検証し、このパーティーの最大値を求めよう」
ダンジョンの深部を目指し3人は歩を進めていった。
◇
瓦礫の中から腕が伸びる。
その肌からは膿が出て腐肉が崩れ落ちていく。
瓦礫から修験した腕は一本ではない。
二本、三本、四本と無数に腕が伸ばされる。
腕は次々と瓦礫を押しのけ、中から十体を超えるゾンビが湧き出てきた。
「ブハー・・・」
ゾンビに助け起こされて男が息を吹き返したように声をあげた。
死呪士だ。
秋に突かれた鳩尾をさすりながら、辺りをねめつける。
誰もいないのを確認すると死呪士は、ぶつぶつと呪文を唱えはじめた。
その陰気な声に合わせるように、小さな醜い精霊が湧き出て死呪士の周囲を回りながら踊りはじめる。
やがて踊りの輪は大きくなり、その中心に禍々しい瘴気が集まってくる。
いや、沸いて出てきているのかも知れない。
「さあ、今度の主人は俺だ。
あのふざけた死霊使い達に目にもの見せてやろう」
瘴気が膨れ上がったかと思うと、そこには“死セル勇者”の姿があった。
だが、到達者が操っていた時とは様子が大きく異なる。肌からは腐肉が溢れ目には光がない。
死セル勇者と言うべきか。
「そこの得物を使え」
死セル勇者は死ノ騎士が残した三日月斧を掴むと、無造作に振るった。
轟音が響くと、石畳に亀裂が走り、衝撃波は壁まで豆腐のように切り裂いた。
「ほほう! ほうほう!! いいねえ。勇者の呪文は使えないだろうが、力と耐久力は倍以上になっただろう。そして俺の呪力でさらに・・・」
死呪士は満足そうに笑みを浮かべた。