第13話 姉さんの哀歌1
真理。それは普遍・完成されたものから、
相対的かつ発展途上なものをも包含するという。
まあ、出来の良い取説と家電のようなものだ。
『……酷い顔』
スキャパに罵られた死呪士は怒りに震えていた。
元々容姿にはコンプレックスが強い。だから隈取りを施しているのだ。
お前、俺の素顔を見たことないだろう。
顔は綺麗だが頭は腐ってるんじゃないか。これだから女は嫌だ。
腹は立てつつも死呪士は、スキャパの容姿に魅入られていた。大量のゾンビで捉えつつも、ボディーラインがよく見えるよう隙間は開けている。
死霊使いなのにムチムチな健康美とはどういうことだろうか。こいつは実にけしからん。
最初はイナゴや蛙、蜘蛛で責めたてようと思っていたが、ここは俺自らが手を下すとしよう。
邪悪な笑みを浮かべつつ死呪士は、荷物袋から巨大な怪奇面を取り出した。これを被ることによって恐怖のスキルを発動しスキャパを思うままにするという訳だ。
くっくっくっ・・・漏らすに違いない。
妄想に震えながらマスクを被ろうとした瞬間。鳩尾に鈍い痛みが走った。
「・・・・・・」
声も出ず倒れる死呪士。
『よく頑張ったな』
遠くでそんな声が聞こえたような気がした。
◇
スケルトンが間に入ってくれた!
死霊使い殿め、なかなかやるな。
秋が飛ばした盾をなんとか受け取り、バルブレアは両手でそれを構える。そこに死ノ騎士の三日月斧が振り下ろされたが、バルブレアは何なくそれを受けきった。
「いける! この盾のせいだろうか。
なんだか強くなったような気がするぞ」
右に左に振り下ろされる三日月斧。そのたびにスケルトンが砕けていくが、バルブレアはその攻撃を受けきる。さらには一歩、また一歩と前進する余裕さえあった。
「どうした死ノ騎士! そのような攻撃、私には通用せんぞ!」
バルブレアは声を張り上げた。攻撃手段はないが、挑発で優位に立とうという作戦だ。
じりじりと相手との距離をつめるなか、背後で秋の槍の音が響く。あの音がするたび、不思議と力が注ぎ込まれる感覚があった。
「まるで霧が晴れたかのようだ! レンバ殿が何かしてくれたに違いない」
溢れる力が右手に集まる。新たなスキルが解放された予感だ。
「邪悪なる魂よそこに跪け!
天の裁き!!」
ゴロゴロゴロ‥‥ カッ!!
掲げた拳から天に光が放たれると、死ノ騎士に落雷が直撃する。
ドオオオオオオン‥‥
あまりの衝撃に動きを止める死ノ騎士。死セル勇者の雷撃のような範囲攻撃ではないが、十分な効果があったようだ。
黒い鎧から煙が立ち昇る。
それでも死ノ騎士は、ゆっくりと三日月斧を振りぬく。
だがその動きは緩々としていて精彩がない。
「天の裁き!!
・・・天の裁き!!」
バルブレアは刃が届く前に、二度目、三度目の落雷を当てる。
やがて前のめりに倒れる死ノ騎士。やがて中身が崩れ、鎧と武器だけが残された。
「やったぞレンバ殿! 我々の勝利だ!」
振り返ったバルブレアが目にしたのは、救援に駆けつける秋の姿だった。
だが、どこかがおかしい。
「レ、レンバ殿?」
バルブレアが目にした秋は、1回りも小さくなっている。
よくよく見ると顔も少し幼い。
180㎝あった秋の身長は160㎝ぐらいに、その容姿は13~14歳ぐらいに見える。
「おおう! 可愛い!!」
バルブレアの胸はきゅんと高鳴った。思わず顔が紅潮する。
「……喜ぶ気持ちは分かる。
……だが、異常事態に警戒すべき」
スキャパの言葉にはっと我に返るバルブレア。
そうだ。喜んでいる場合ではない。これは一体、いかなる魔術か。
「えっと・・・。体が縮む魔法かこれは?
槍がえらく長く感じるし、服も合わなくなった。力もなくなったようだ」
「レンバ殿、縮んだというより、若返ったようだぞ!
これは恐ろしい魔術だな!」
肉食獣のような笑みを浮かべるバルブレアに困惑する秋。
「確かになんか恐ろしい」
「……前を見ろ。
……敵だ」
いつの間にか男が3人の前に立っていた。
ルーンが刻まれた黒い豪華な衣装。若く見えるが敵軍の指揮官のようだ。
「君たちの勝利だ。
なかなか面白かったよ」
指揮官は右手を高く掲げ、パチンと指を鳴らす。
そうすると、敵軍は音もなく後退をはじめた。
「我が名は聖騎士バルブレア。
貴殿が将とお見受けするが?」
バルブレアが2人を庇うように正面に立った。何かあれば盾にも鉾にもなるという考えだろう。
「よく知っているよバルブレア君。死ノ騎士を屠ったのは見事だった。
やはり凄い魔力をしているね」
「はて、貴殿とは初対面だと思うのだが?」
指揮官はにっと笑うと、大仰に両手をあげた。
「初対面? いやいや初対面ではないよバルブレア君。
君がここに来た時からずーっと知っているよ。
面白そうなパーティーだったからずっと吸わせてもらっていた」
「……吸うとは何だ?
……何を吸うというのだ?」
「では、自己紹介をさせてもらうよ。
私は到達者。この“終わりのダンジョン”の真理に到達した者だ」
「……このダンジョンの支配者ということか?」
一瞬驚いたような顔を見せる指揮官。いや自称到達者というべきか。
「支配者か。面白い概念だね。
そうかも知れない。
いやいや、真理の一つに到達したに過ぎないかも知れない。
君には注目していなかったのだが、スキャパ君も実に面白いね」
ぐっと親指を立ててウインクする自称到達者。動作の全てが大袈裟だ。
「ここは不思議に満ちているね。
バルブレア君達から吸ったのは私だよ。勇者君もみな、なかなかのものだった。
吸うのをやめた途端に、バルブレア君がレベルアップしたので驚いたよ。
これはレンバ・アキ君が得る経験値があまりにも多いからかな」
自称到達者は秋に目を向けて笑みを消した。
「なかでも君は一番不思議で不可解だよ。
今度は君から吸わせてもらうことにしたよレンバ・アキ君。
これからも私を楽しませてくれないか」
秋は無言で槍を突き出す。
だが、槍は全く届かない。
「レンバ殿! 下がっていてくれ」
「……レンバ、この男は危険だ」
バルブレアとスキャパは秋をガードするように前に出る。
くそ・・・。
秋は歯噛みするが、縮んだ身体の感覚が掴めない。
服も靴も合わないので、動きようがなかった。
「では諸君、ダンジョンの深みでの再会を。
ご機嫌よう」
笑みを浮かべつつ自称到達者は姿を消した。
この男はどれほどの力を持っているというのか。どんな心理を掴んだというのか。
3人はしばらくその場に呆然としていた。




