第12話 亡き勇者の遅拍子3
死んでも仏になれないから教えを説いた筈なのに
本邦では死んだら仏になるのだという
それは許しの思想なのだろうか
秋は内心焦っていた。
死セル勇者の戦闘力に驚き、思わずスキャパに救援を求めてしまったが、バルブレアとスキャパも余裕がある訳ではないだろう。
ひょっとすると自分以上にピンチかも知れない。
早くこいつを片付けなければ。
だが、どう攻略すればいいのか。
立ち向かったスケルトン達は軽々と死セル勇者に切り伏せられてしまった。
だが、何体かは壊されながらも足に絡みつき、抵抗を続けてくれている。
キンッ!
キンッ!
秋の稽古槍の連突を死セル勇者は大剣で受け、辺りには木製の槍とは思えない金属音が響く。
前から思っていたけど、この槍はどうなっているのか。
石畳に軽々と突き刺さるし、そのまま持ち上げても“しなる”ものの折れることがない。あの重そうな剣を叩きつけられても切られない。ひょっとして、こっちの槍の方が頑丈なのだろうか。
「見た目に惑わされてはいけないということか」
秋は、手にした槍はオリハルコンやミスリルなんだと自分に言い聞かせた。
戦法を変えないと長期戦になる。負けるかも知れない。そうなると、いずれにしてもバルブレアとスキャパは助からない。
「そう、これはアダマンタイト的なものに違いない。ならば無茶してもいいだろうさ」
秋は死セル勇者の突きに合わせ、思いっきり槍を引いた。
「ぃええええい!!!」
鎌が大剣の上側を走る。
金属の刃であるにも関わらず、竹製の鎌はその刀身を軽々と削っていった。
信じられない光景ではあったが、秋は意識をシャットアウトし、そのまま大剣を引き落として石畳で叩き折った。
シュン!
見えない剣激が秋の顔を掠める。
動揺することなく秋は、引いた姿勢から、そのまま全力で突きを放った。
躊躇なく疲れた稽古槍は、死セル勇者のプレートメールを突き破り、胴体にも穴を開ける。
「ᛔᛦᚥ ᚱᛟ ᚵ 」
聞き取れない声を発する死セル勇者。
「……色々と言いたいことはあるが、死んだら仏様だもんな。ゆっくりと眠ってくれ」
もともと死者だったかな。
そう思いつつも秋は優しく声をかけ、頭部に槍を突き入れた。
ザザザザザザー・・・。
途端に砂のように死セル勇者の身体が崩れていく。
後には黒い砂と防具が残されるだけだった。
◇
秋が振り返ると、2人は瀕死のピンチに陥っていた。
バルブレアは死ノ騎士の三日月斧に盾を砕かれ、プレートメールまで切り裂かれてている。
スキャパは死呪士が操るゾンビ兵に群がられ、身動きがとれない状態になっていた。
よくもまあこの状態で、オーラやスケルトンの支援を続けてくれたものだ。
二人のプロ意識(?)に感心しつつ秋は、どう助けるべきかと考えた。
「スキャパ! スケルトンをバルブレアに飛ばせ!」
一瞬の思考の後、秋は大声でスキャパに声をかけた。
言いながら槍の穂先に、死セル勇者の盾を引っかけ、しなりを加えてバルブレアに飛ばす。
「バルブレア! 盾持って耐えてろ!」
「おう! レンバ殿!
呼び捨てられるのはいいものだな!」
バルブレアの周囲にスケルトンが湧き出て、死ノ騎士の攻撃を阻害する。
その間にバルブレアは秋が飛ばした盾を受け取った。
どんなピンチでも変わらないバルブレアに感心しつつ、秋はスキャパの元に走った。
もう姿が見えないぐらいゾンビに群がられ、悲鳴をあげている。
◇
「非破壊属性・・・さらには武器破壊か。
どちらも持っていないものだ。実に面白いね」
敵軍の指揮官はその青白く長い指をうねうねと動かした。
秋たちとの戦闘を楽しんでいるらしい。
「もっと吸えそうだ」
指揮官は赤い舌で自分の唇を舐めた。
◇
これはやばい。
スキャパはゾンビに捕まれながら、そう思った。
凄まじい力で動けない。いつ手足を千切られるかという恐れもある。
それよりスキャパとしては、一番は気持ち悪さの方が先にあった。
ゾンビの肌は膿と血が浮き、ボコボコとしている。
腐肉がこぼれ落ちるなど、見た目がよろしくない。
何故、バンパイアのような美形に取り囲まれないのか。
スキャパはそんな理不尽な思いを怒りに変え、スケルトンによる攻撃の手をゆるめなかった。
だがこのままでは殺されてしまうだろう。
「スキャパ! スケルトンをバルブレアに飛ばせ!」
そんな時、レンバの声が聞こえた。
私よりあの聖騎士を優先するというのか。こんなになるまで戦っているのに…。
そうした思いも沸いたが、それでも言うことをきくのは“健気”でポイントが高いのではないかと思えた。レンバのことは何とも思わないが、聖騎士に勝つのは気持ち良さそうだ。
「バルブレア! 盾持って耐えてろ!」
おいおい、こっちはほったらかしか?
ちょっと恨めしい気持ちになったが、今さらスケルトンを自分に回したところで間に合わないだろう。
もうゾンビだらけで何も見えなくなっている。
スキャパは自分が涙を流していることに気付いた。
痛みももう感じない。
嫌な死に方だと思った。
ザン・・・!!
全身に衝撃が走る。
あ!
終わったと思った。
だが、視界が晴れ、次々とゾンビが引きはがされていく。
「よく頑張ったな。 ・・・あ?!」
レンバが笑顔を見せてくれた。それが、驚きの表情に変わる。
私が泣いているのに気付いたらしい。
「ごめんな。
スキャパなら大丈夫だと思って」
「……許さない。
……責任とって」
レンバはすぐ真っ赤になった。
なんだ、可愛いじゃないか。
……当分、いじめることにしよう。
レンバのことは何とも思っていないが、それぐらいは楽しませてもらおう。