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悲劇と狂乱の都市 ――歪みゆくココロ――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第3章 誕生の復讐騎 ――財閥連合・パスリュー本部――
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第19話 壊れゆく心

 誰も救えなかった。私はあの“平和の生贄”とされた街から、封印された街から脱出できた。でも、最悪の結末だった。仲間は死に、テトラルシティは消され、消滅の原因となった財閥連合は罪に問われなかった。


 私は必死にテトラルの真実を伝えた。人間ベースの生物兵器。違法な軍用兵器の軍団。犯罪者を雇った傭兵部隊の横暴。

 しかし、国際政府と財閥連合は全力で否定した。私の発信した真実を、本当の事を、全て。情報は操作され、嘘が世界を巡る。世界中の人間は政府の発表を信じ、私の真実は否定された。


 アリナスとヒューズが一緒だったら真実を伝えれただろうか? 3人と一緒だったら伝えられただろうか? みんなと一緒だったら否定されなかっただろうか?

 私のような16年しか生きてない子供の言う事、誰も信じてくれるワケなかった。よくよく考えれば分かる事だ。

 私だってあんな経験しなかったら政府を信じるだろうし、16歳の子供が1人で「政府の発表はウソだ!」なんて言ってても信じないないだろう。


 氷覇本部では暗殺されそうになり、テトラルシティでは脚撃ち抜かれ、捕まって、ハンターA型に殺されそうになり、ヘリポートでは仲間を失い……。

 悲劇ばっかだった。何も成せなかった。何も出来なかった。市民を守るのが軍人なのに、率先して戦うのが特殊軍なのに、私は何1つ出来なかった。

 そして、最大の悲劇がついに私の身に降りかかる。それは6月も終わる頃だった。



◆◇◆



 【財閥連合 パスリュー本部】


 “不老不死”、“驚異的な生命力”、“無制限で使える魔法”……。あらゆる条件を兼ね備えた最強の人間。誰もが夢見る人間。その夢の現実のために実験体となるのはテトラルから逃げ出した女、フィルド=ネスト……。


「研究部隊、集結完了しました」

「研究室の準備、完了しました」


 2人の黒い服を着た幹部が俺に報告を入れる。若くしてサイエンネット計画の犠牲になるとは哀れだな。だが、なって貰わねば俺が困る。俺の計画に必須なのだ。

 彼らと変わるようにして両脇を抱えられた実験体のフィルドが連れて来られる。


「クッ、放せッ……」


 憎悪のこもった黒い瞳。コイツ捕まえるだけで苦労したらしいな。まぁ、コイツが“いい結果”を出してくれれば、自軍の兵士が何人死のうと構わんさ。


「誰だ、お前ら……! 財閥連合か……!?」


 俺は両腕を掴まれ、動けないその少女に近づく。美しい顔だちをした少女だった。普通に暮らしていれば幸せな人生を送れただろうに、な。

 だが、俺に同情はない。この女が実験で死のうが、異形の生体に変異しようが構わん。すべては俺の計画の為だ。俺の為に犠牲となれ。無限の苦痛の果て、お前がどうなるか楽しみだ。


「俺はパトフォー。まぁ、自己紹介なんか意味ないがな」

「……私を殺す気か! 最後の真実を知る者としてッ……!」

「いや違う。お前は実験体となってもらう。人類の夢を叶える“サイエンネット計画”の為」

「サ、サイエンネット計画……!?」


 うん? 知っていたのか? ……まぁ、いい。どっちにしろコイツは今日で人生を終える。無限の苦痛の果て、終焉を迎えるハズだ。


「連れて行け」

「はい、パトフォー閣下」


 両腕を抱きかかえられたフィルドは何かを叫ぶ。「私をどうするつもりだ!」とか「お前ら後で覚えてろ!」などど喚く。好きなだけ喚け。もう口を開く事もなくなるだろう。

 兵士は彼女の叫びを無視し、暴れる彼女を無理やり、引きずるようにして連れて行った。非人道的かつ残酷な、それでも人類の夢を叶える研究室に。



◆◇◆



 【パスリュー本部 サイエンネット研究所】


 私は無理やり手術室のような部屋に入れられた。そこで着ていた衣服を全て脱がされると、手術台のような台の上に大の字に寝かされ、手足を固定される。固定具は金属製なのか手足に冷たい感触が伝わってくる。


「……なにを、する気、だっ?」

「何をするかって? 大体予測つかないか? なぁ、オイ」


 黒い装甲服を着て、頭部にフードをかぶり、サングラスをした男が台の横にあった机からメスを取り出す。それを私の腹部に当てながら言った。


「お前の体を切り、改造するのさ。史上最強の生物兵器に、な」


 生物兵器!? あんな怪物に、意志も感情もない怪物に、私は変えられるのか……!? ハンター=アルファのような生物兵器にされ、奴隷のごとく使われるか!?


「わ、私がハンター=アルファを、殺した報復、か?」

「……ハンター=アルファはただの生物兵器。あんなヤツ、すぐに量産できるさ。お前にはサイエンネット計画の完成体になって貰いたいのだ。いや、近づいて貰いたいのだ」

「完成体……?」

「やれ。この女を使い、サイエンネット計画を進めるのだ」

「はい、閣下」

「了解しました」


 部屋にいた数人の白衣を着た人間。彼らに命令を下すと、パトフォーとかいう男は数歩後ろに下がる。代わりに私の寝かされる台を囲むのは白衣の連中。彼らは何も言わず、メスを取り出す。

 私は思わず顔を背け、目を強く瞑る。鋭い痛みが腹部を走る! 凄く痛い! 麻酔なしでッ……!? なんで!? 麻酔っ、ぐッぁ、ぐぐッ!


「ぐッ……痛いッ……痛い、痛い、痛いッ!!」

「悪いが麻酔の成分が実験結果を左右させるんでな」

「うぁぁッ!」


 パトフォーの声。そんなのはどうでもよかった。彼の声を聞いている間も体の痛みは増えていく。今度は右腕に鋭い痛みが走る。太い管が差し込まれていた。


「うわぁッ! やめろッ!!」

「パトフォー閣下のサイエンネット計画は『ラグナディス計画』の中心に当たる。お前はパトフォー閣下の役に立つのだ。光栄に思え」


 白衣の男が言う。その手には半透明の緑色の液体が入った注射器。それが私の手首に打ち込まれる。また痛みが走る。

 パトフォーの『ラグナディス計画』……? 意味が分からないが、そんな計画の為に私はッ、イヤだッ!


「クッ! 離せぇッ!!」


 今度は切り開かれた腹部に何かを刺しこまれる。金属の長い棒で腹の中を弄られ、何かが刺さる。きっと注射器みたいな物だろう。限度を超えた痛み。耐えきれないッ……! そこで私は気を失った。





 ぼーっとする頭。どこかで男性の声がする。この声はパトフォーの声だったっけ?


「被験体名は2002年の時点で16歳女性、政府精鋭兵。ここでの記憶を消せ。そして、生かしたままグリードシティに帰せ」


 グリードシティに帰せ? どういう事だ? いや、そんな事はどうでもいい! 私が気絶している間に何をしたんだ! 私の体に何を流し込んだんだ!!


「……グ、グッ、私に何を、した……! 気持ち悪いっ、フラフラするっ……!」


 意識がはっきりしてくると、今度は目の前がフラフラとぼやけ出し、気持ち悪くなってくる。それに伴って激しい頭痛も起こる。


「お前は素晴らしい結果を残してくれた。これで残りは数年待つだけ。サイエンネット計画の英雄だ。生物兵器以上、完成体以下の“出来そこない”、よ」


 ふざけるな! なにが素晴らしい結果! なにがサイエンネット! なにが英雄! お前らが勝手に私の体を改造したんじゃないか! 人をなんだと思っているんだ!!

 頬を伝い、熱い涙が流れる。なんとなく分かった。気絶していたケド、なんとなく何されたか分かった。私はもう――


「そう、被験体の、名前は……」

「体に、力が……入らないっ……!」

「政府特殊軍精鋭部隊所属……」

「……財閥、連合っ、絶対に、許さ、ない……! 覚えて、ろっ……」

「フィルド=ネスト」


 何度目だろうか? また意識を失った。でも、心には激しい憎悪が宿り始めていた。私の体を勝手に使った者達への激しい憎悪と怨念が確かに宿っていた。

 もう私は“人間じゃない”。望みもしない力を与えられた。無理やり、強制的に……。いつか復讐してやる。許さない。どんなに謝っても許さない。絶対に、絶対に復讐してやる……!

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