第20話 憎悪に取り込まれし少女
雨の音が私を悪夢から現実に戻す。暗い部屋。でも、すぐにここがどこなのか分かった。自分の家だ。見慣れた自分の部屋だった。
私はフラフラする足取りで窓に近づく。体の至る所が痛い。特に右腕と腹部は酷かった。でも、それ以上に全身がだるい。なんだか、自分の体が重かった。“なんでだろ?”
それでも、なんとか窓に近づくと、エメラルドグリーンのカーテンを払いのけるようにして開ける。外は酷い嵐だった。見えるのは窓から流れ落ちる雨水。涙のように落ちる雨水だけだった。
「パトフォー……パトフォー……」
頭の中に残る記憶。氷覇支部での戦い、テトラルシティの悲劇、真実を否定された事……。なぜだろうか? その後の事が……いや、ぼんやりと、バラバラに思い出せる。
拷問に等しい痛み。腹部にメスを入れられ、そこから液状の何かを入れられた。それが何かは分からない。ぼんやりとした記憶。思い出せない。アレは、夢だった?
「…………」
いや、違う。アレは夢じゃない。自分の腕に残る大きな傷。ハッキリとした記憶のある最後の日付からかなり進んだカレンダー。今は7月の半ば。6月の終わりじゃなかった……?
この2つがあの出来事が夢だったという事を否定していた。私は実験体にされた。実験体にされ、体を改造された。人でないモノに作り変えられた。
「パトフォー……財閥連合……サイエンネット……」
フワフワし、あまりにもぼんやりとした記憶から思い出せる単語。単語以外に思い出せるのは、あまりの痛さに何度も気を失った自分自身。そんな私を実験用の動物でも見るような目で眺めまわす白衣の集団。その奥にパトフォーという男。
私は偶然の完成体? いや、生物兵器以上、サイエンネッター以下の出来そこない。苦痛の最中、そう言われたような気がする。そして、完成に数年を有するとも……
「世界は、私を否定した……。財閥連合と連合軍は私を利用した……。否定され、利用され……」
心にどす黒い感情がムクムクと湧く。抑えられない黒い感情。それは簡単に心を染めゆく。今までの楽しかった日々や、温かい記憶を一瞬にして壊していく。
私を否定した世界! 私を利用した財閥連合! お前たちがその気なら、その気なら……!!
「アリナス……ヒューズ……」
アリナスとヒューズ。初めて出来た“仲間”だった。でも、彼らは殺された。アイツらは私から仲間を奪った。そして、私だけが残された。残った私はこの体を実験に使われた。人を人として扱わない者達によって……。
テトラルの事件は確実に私を変えた。心を破壊し、大きく歪ませた。連合軍と財閥連合への恨みと憎しみ。それだけが残った。怨念。私の心は怨念だけ。
悲劇は何を生むんだろう? ――歪んだ心だけを生む。捻じ曲げられた心だけを生む。悲劇を与えたヤツには絶対に分からないだろう。
テトラルの傭兵がもたらした悲劇。それは市民の怒りを爆発させ、戦争をもたらした。そのテトラルの悲劇は私の心を歪め……。
人でなくなった私に残るのは怨念と憎悪。それだけだった――……。




