表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
8 九月の章
87/129

今後の見通し


さすがに5倍は厳しいか・・・。


児玉さんがOKしてくれた翌日、図書室利用者数の実績に今後の見込みを入力してみて分かった。

ほんとうに厳しい。



去年の実績は延べ4千人弱。

5倍ということは、約2万人ということだ。


8月までの実績は5千人ちょっと。5か月で、まだ四分の一。

6月から伸び始めた実績は、8月だけを見れば、去年の4倍近くになった。

けれど、4月と5月が伸び悩んでいたので、平均すると2.4倍にしかならないのだ。


残り7か月で1万5千人?

しかも、年が明けると3年生は自由登校で来なくなる。


これからの授業での利用は延べ1,700人くらい。

その生徒たちが昼休みや放課後に、資料探しやレポート作成のために来てくれる予想も入れてみた。

夏休み明けも増えている机の利用も見込んでみた。

本を借りに来る生徒数も、甘めに予想した。


それでも足りない。

4.5倍くらいにはなるけれど・・・。



今朝のことを思い出す。


児玉さんに会って笑顔を見たとき、このひとが自分のことを想ってくれているんだと思ったら、ものすごく誇らしかった。

このひとをずうっと幸せにしてあげようと、心に誓った。

なのに・・・。



このままではダメだ。

今までみたいに控え目な作戦じゃなく、攻勢に転じないと。

しかも、なるべく早く。



だけど・・・何ができる?


授業での利用は、校長先生のお達しで、すでにどの先生も検討した。その結果が1,700人だ。

おはなし会は評判は良かったけど、高校生相手に定期的に開くようなものではないし。

図書委員会が11月に読書推進の取り組みをするって言ってたけど、去年の実績を見ると、効果は薄そうだ。

それに、イベント的なものよりも、日々の利用者を増やす方が効果が高いことは、今までのデータを見ると分かる。


よく考えなくちゃ・・・。




「雪見さん?」


顔を上げると伊藤先生だった。

授業の空き時間に寄ってくれたらしい。


「はい、なんでしょう?」


伊藤先生は図書室の中を見回しながら司書室へ入って来ると、いきなりにっこり笑って


「やっぱりそうだったんだ?」


と、嬉しそうに俺の肩を押した。


「・・・何がですか?」


伊藤先生に嬉しがられるようなことをした覚えはない。


「やだなあ。児玉先生のことだよ。」


え?!


「児玉先生の・・・って、あの・・・?」


俺に話しに来る児玉さんのことと言ったら、きのうのこと以外に思い付かない。

児玉さんとは学校には内緒ってことで打ち合わせたはずなのに。

伊藤先生は特別なのか・・・?


「あれ? 違う? 俺、また早とちりか? 黒川の話を聞いて、てっきりそうだと・・・。」


「あ、黒川さん・・・ですか?」


そうか。

そっちのルートがあったか。


「うん。あいつが児玉先生とやり直したがってるって話したよね?」


「はい。」


あの日から一気に事態が進んだんだっけ。

先週の金曜日のことなのに、もうずいぶん経ったような気がする。


「いや〜、実は、それを雪見さんに話したことを千尋ちゃんに怒られちゃってさあ。」


ん?

なんとなく話題がずれた?


「ああ・・・、そうでしたか。」


“千尋ちゃん” とは横川先生のことだ。

伊藤先生はのろけ話をするとき、この “千尋ちゃん” を連発する。


「『余計なことを言って、逆にうまく行かなくなったらどうするの?』って。それに、よくよく考えてみれば個人情報だし・・・。」


「はあ、そう・・・ですね。」


「それに、部外者が口をはさむようなことじゃなかったんだよねー。」


伊藤先生はよっぽど失敗したと思っているのか、しきりに頭を掻いている。

たしかに俺が疑心暗鬼になったことは間違いないけど、そのおかげで、児玉さんの気持ちを確かめることができたんだから、ありがたいとも言えるんだよな・・・。


「まあ、それは置いといて。昨日の夜、黒川から連絡があったんだよ。」


「はあ。」


「『断られた。』って。俺は同じ職場だから、報告しておくって。」


そうか。

伊藤先生が、児玉さんと黒川さんが上手くいってると思って話しかけたりするとまずいから。

気が利く人だなあ。言いづらいことだっただろうに。


「でね、そのときに、児玉先生が『手料理を食べさせてくれるひとがいる。』って言ったって言うから、雪見さんのことだろうと思って。」


「あ。」


それは。


「だろ? 前に千尋ちゃんから聞いたもん。雪見さんが児玉先生を招待したって。」


うわ・・・恥ずかしい。

そんなところからつながって来るとは思わなかった。


もう隠しきれない。

口で否定しても、態度を見れば・・・っていうか、たぶん耳まで真っ赤だ、俺・・・。


「な〜、やっぱり♪」


「はい・・・。」


「いや〜、嬉しいなあ、職場恋愛仲間ができて。まだ秘密なんだよね?」


「そうです・・・。」


「そうだよな? のろけ話がしたくなったら、俺が聞くからね〜。」


「はい・・・。」


たぶん、しないと思います。

俺は心の中にしまっておく方が好きですから。


それにしても、恥ずかしい!

他人に言われるのが、こんなに恥ずかしいものだとは!


「困ったことがあったら相談してよ。フォローできることもあると思うからさ。」


「はい・・・。よろしくお願いします・・・。」


「じゃあね〜♪」



はあ・・・。


思わぬところから伝わったなあ・・・。



まあ、伊藤先生と横川先生なら大丈夫か。

あの二人ってそろそろ3か月になるけど、全然ウワサになっていないもんな。

特に伊藤先生はあんなに話すのが好きなのに、先生たちも生徒も、誰も何も言わない。

よっぽど隠すのが上手いんだな。



そういえば、俺、分かりやすいって・・・。



そうだった。

きのう、児玉さんに言われたんだよな、「顔に出る」って。

特に嬉しそうな顔が分かりやすいって。


つまり、児玉さんと一緒にいるときが一番危ないってことだ。



・・・あれ?

今までずいぶん一緒に打ち合わせとかしてきたけど、どうだったんだ?

仕事の話のときは自分でも気にならなかったけど・・・。



いや、それじゃない。

思い出してみると、かなり見破られてる気がしてきた。

弁当箱を返しに行ったときとか、内緒ばなしをされたときとか。

堀内先生は、ずっと前から気付いてるし・・・。



あ、もしかして・・・?


俺が一方的に児玉さんに惚れてるってことになってるのか?

それは・・・。


まあ、それはそれでいいのか。

秘密なのは、俺たちが結婚を前提にした関係だってこと。

俺が児玉さんに憧れてると思われているだけなら、今まで何も言われなかったんだし、いいんだな、きっと。


うーん・・・、俺の気持ちだけが知られてるっていうのは、やっぱり恥ずかしいけど。



そうだ。

伊藤先生のことを児玉さんに言っておかなくちゃ。



あ〜、それにしても、5倍だよ!

いったいどうしたらいいんだ?!


こんな状態になると、なりふり構わず、 “用がなくてもいいから図書室に寄ってくれ!” って言いたくなってくる。


あ。

今の伊藤先生もカウントしておこう。

児玉さんのお父さんには、 “生徒の” とは言わなかった・・・はずだ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ