第十七話 新たな手掛かり
〜届いた知らせ〜
山々を越え、三人は旅を続けていた。
木々の間から差し込む陽光が、山道に淡い模様を描いている。風が吹くたび枝葉が揺れ、乾いた葉が道の端を転がっていった。
先頭を歩く緋月桜花は、いつもと変わらぬ落ち着いた足取りで進んでいた。その後ろを白峰こはくが歩き、白夜は二本の尾を揺らしながら、辺りをきょろきょろと見回している。
「ねえねえ、次の集落って、もうすぐなの?」
白夜が尋ねた。
「もう少しだと思います。日が暮れる前には着けるでしょう」
「やった! あたし、そろそろ休みたい!」
「白夜、先ほども休みたいとおっしゃっていませんでしたか?」
「えっ? そ、そんなこと言ったっけ?」
白夜は視線を逸らした。
こはくが小さく笑う。
「ふふ。ずっと歩いていますから、疲れるのも無理はありませんね」
「でしょー? こはくは分かってるね!」
そんな二人のやり取りを聞きながら、桜花も穏やかな表情を浮かべた。
旅は続いている。
牛鬼や女郎蜘蛛との戦いを経て、三人は再び紅残光 一刀流の歴史を追っていた。
前に訪れた山寺。そこに残されていた記録には、別の場所にも資料が保管されている可能性をうかがわせる記述があった。
しかし、それが何を指しているのか、保管場所がどこなのかは分かっていない。
「桜花さん。あのお寺で見つけた記録のことですが……」
こはくが口を開いた。
「はい」
「もし本当に別の場所に資料が残されているのなら、そこには今まで分からなかったことが記されているかもしれませんね」
「そうですね。ただ、記録が存在すること自体、まだ確かではありません。今ある情報だけで結論を出すことはできませんね」
桜花は静かに答えた。
「うーん……。もっと簡単に見つかればいいのに!」
白夜が頬を膨らませる。
「焦らずにいきましょう。今は、手掛かりを一つずつ集めていくことが大切です」
桜花はそう言って、再び前を向いた。
やがて、山道の先に集落が見えてきた。
三人は日が暮れる前に集落へ入り、旅の疲れを癒やすため、ひとまず休息を取ることにした。
〜烏天狗が届けた手紙〜
休息を取っていた三人のもとへ、一羽の烏天狗が訪れた。
黒い翼を持つその妖怪は、三人の姿を確認すると、手にしていた封書を取り出した。
「こちら、緋月桜花殿へのお届け物である」
落ち着いた声でそう告げ、烏天狗は封書を差し出した。
桜花は両手で受け取ると、表書きを確かめた。
そこには、送り主の名が記されていた。
宝山栄二。
「……栄二さんからですね」
「えっ、お寺のおじいちゃんから?」
白夜が身を乗り出す。
こはくも手紙へ視線を向けた。
「何か、新しいことが分かったのでしょうか?」
「その可能性はありますね」
桜花は烏天狗へ丁寧に頭を下げた。
「届けてくださり、ありがとうございます」
「確かにお届けした。では、これにて失礼する」
烏天狗は翼を広げ、空へと飛び立った。
その姿は、あっという間に遠ざかっていった。
八千代の国では、烏天狗たちが郵便業を営み、人間にも妖怪にも手紙を届けている。飛行能力と妖怪としての強さを備えた彼らは、広い地域を結ぶ存在として親しまれていた。
そのため、遠く離れた山寺からの手紙も、こうして桜花たちのもとへ届いたのだった。
「すごいね! 空を飛んで手紙を届けるなんて、やっぱり便利だね!」
白夜が空を見上げる。
「そうですね。遠く離れた相手にも、こうして知らせを届けられるのはありがたいことです」
桜花は手紙へ視線を戻した。
寺を出る際、栄二は関連する記録について何か分かったら知らせると言っていた。
その栄二から、わざわざ手紙が届いたのだ。
何か新しい情報が見つかったのかもしれない。
桜花は封を開き、中の便箋を取り出した。
そこには、栄二からの挨拶と、手紙を送ることになった経緯が記されていた。
三人が寺を去った後、栄二は、彼女たちと調べた書庫の記録を改めて確認することにしたという。
あのとき見つかった記述だけでは、何の記録が別の場所に保管されていたのか分からなかった。
そこで栄二は、関連する資料をもう一度読み直し、記述の前後や、ほかの記録とのつながりを確かめていった。
その過程で、以前は十分に注意を払っていなかった箇所に気づいたのだった。
そして、その内容が桜花たちの調査に関係するかもしれないと考え、知らせることにしたらしい。
「やっぱり、何か見つかったんだ!」
白夜が声を弾ませた。
「はい。私たちが寺を出た後も、栄二さんは調べてくださっていたのですね」
桜花は手紙を読み進めた。
栄二が気づいた記述について、そこには――
【剣を継ぐ者、おのが技を磨き、旅路の中に痕跡を残すべし。】
桜花はその箇所を慎重に読み返した。
「……なるほど」
その表情に、こはくが尋ねる。
「桜花さん、何が書かれていたのですか?」
「栄二さんが、以前の記録を読み直して気づいたことがあるようです。私たちが見つけた断片についても、もう少し詳しく調べられるかもしれません」
「じゃあ、別の場所にある記録についても、何か分かるかもしれないんだね!」
白夜が期待を込めて言った。
「可能性はあります。ただ、今の段階で、何が分かったのかを決めつけることはできません」
桜花は手紙を丁寧に畳んだ。
栄二が気づいた記述は、紅残光 一刀流の歴史を調べるうえで、見過ごせないものかもしれない。
しかし、それが六代目から九代目までの継承者に関するものなのか、独自の技の記録につながるものなのかは、まだ分からなかった。
「栄二さんに、もう少し詳しいお話を伺う必要がありそうですね」
こはくが頷く。
「はい。まずは、手紙に記されている内容を整理しましょう。そのうえで、次に何を調べるべきか考えたいと思います」
「分かった! 今度こそ、もっとすごい手掛かりが見つかるといいね!」
白夜は二本の尾を揺らした。
桜花は穏やかに微笑む。
「そうですね。ですが、焦る必要はありません。一つずつ、確かなことを積み重ねていきましょう」
三人は、これからの調査について話し合うことにした。
〜過去へ続く手掛かり〜
その夜、桜花は手紙を手元に置き、これまでに得た情報を振り返っていた。
紅残光 一刀流の名が記された古い記録。
別の場所にも資料が保管されている可能性を示す断片。
そして、寺を去った後も調査を続け、新たな記述に気づいた栄二からの知らせ。
それらは、まだ一つの答えには結びついていない。
六代目から九代目までの継承者が残した独自の技。その記録が本当に別の場所に存在するのかどうかも、依然として不明だった。
黒衣の男の正体も、桜蕾にまつわる謎も、神々の争いと流派の関係も、分からないままである。
それでも、今回の手紙によって、調査を続けるための新たなきっかけが生まれた。
桜花は、腰に携えた桜蕾へ視線を落とした。
「……過去に残されたものを、もう少し調べてみる必要がありますね」
その声に、近くにいたこはくが頷いた。
「はい。私もお手伝いします」
「もちろん、あたしもね!」
白夜も元気よく答えた。
桜花は二人を見て、穏やかに微笑んだ。
「ありがとうございます。これからも、よろしくお願いしますね」
三人の旅路は、まだ続く。
過去の継承者たちは、何を残したのか。
そして、栄二が気づいた記述は、どこへつながっているのか。
その答えは、まだ明らかになっていない。
しかし、残された記録をたどる旅は、少しずつ次の段階へと進み始めていた。
今回の話はどうですか?
本編について、今回は重要な情報が出たんだと思います。古文が苦手で古い感じの文面を出すのが苦手なんですがどうですかね?
今後とも桜花達の旅路をお楽しみください。
柚子胡椒でした。




