第9話:影を試す者
第9話:影を試す者
夜。
学園の廊下は――
静まり返っていた。
マヒト・ユキ:
「……やっぱり、おかしい」
足を止める。
(ユキの心の中)
(昨日のあの感覚……)
(普通じゃない)
(Shadow……)
「……ユウト……」
小さく呟いた瞬間、
ユキは首を振った。
「……ありえない」
「考えすぎよね……」
だが――
違和感は、消えない。
(ユキの心の中)
(もしShadowが本当に存在するなら……)
(どうして私は……)
(あいつに会った気がするの?)
翌日。
ユキは一人で調査を始めた。
図書室。
記録室。
噂話。
だが――
何も、出てこない。
「……嘘でしょ」
(ユキの心の中)
(ここまで痕跡がないなんて……)
残っているのは、ただ一つ。
“Shadow”
それ以外は――
年齢不明
外見不明
身元不明
能力不明
「……まるで最初から存在しなかったみたい」
背筋に、冷たいものが走る。
(ユキの心の中)
(違う……)
(痕跡がないんじゃない)
(……消されている?)
場面転換――前夜。
荒れた建物。
リマ。
セダ。
クイントス。
そして――ツカサ。
ツカサ:
「……昨日の続き、ってわけか」
リマ:
「……二年間、Shadowを追っていたのはお前か」
ツカサ(笑う):
「そう。やっと会えた」
セダ:
「……ここに来たのは間違いだ」
クイントス:
「……簡単には帰れないぞ」
ツカサは――剣を抜く。
「三人か……悪くない」
衝突。
目で追えない速度。
(ツカサの心の中)
(こいつら……)
(全員、強い)
(でも――)
「……まだ足りない」
その瞬間。
空気が――変わる。
影が、降り立つ。
リマは静かに膝をつく。
「……Shadow」
セダは息を呑む。
「……来た」
クイントスは、目を細める。
ツカサ:
「……やっと来た」
黒い外套。
Shadow:
「……」
ツカサは、笑う。
「面白いね」
「じゃあ――試させてもらうよ」
(ユウトの心の中)
(……強いな)
(下手に受けたらまずい)
ツカサが――踏み込む。
斬撃。
首元、すれすれ。
(ユウトの心の中)
(……危な)
(……今の動き、なんだ?)
(考える前に――体が動いた)
次の瞬間――
背後。
Shadow:
「……遅い」
ツカサの速度が、上がる。
連撃。
連撃。
さらに連撃。
だが――
当たらない。
(ユウトの心の中)
(動きはいい)
(……でも)
(読める)
ツカサが止まる。
「……お前、普通じゃない」
Shadow:
「お前が未熟なだけだ」
ツカサは、笑う。
「なら――これはどう?」
魔力が膨れ上がる。
(ユウトの心の中)
(……悪くない)
(……少し、試すか)
Shadowが手を上げる。
黒い欠片が、集まる。
カード。
空中に、浮かぶ。
ツカサ:
「……魔法?」
Shadow:
「……ただの応用だ」
カードが――放たれる。
ツカサは回避。
カードは地面に落ちる。
静寂。
……何も起きない。
ツカサが眉をひそめる。
その瞬間――
Shadow:
「Black Card:Silent Collapse」
爆発。
遅れて――
連鎖する。
ツカサは距離を取る。
(ツカサの心の中)
(直撃すれば危険……)
(タイミングをずらしてるのか)
「……なるほど」
「……従う気はない」
「でも――お前は、面白い」
(ユウトの心の中)
(え、入らないのか?)
(まあ……別にいいか)
クイントス:
「……本当に、あの女を入れるつもりか?」
リマ:
「判断はShadowに委ねる」
セダ:
「……強い……」
リマ:
「申し訳ありません」
「全員は集められませんでした」
「現在、他の者はERを調査中です」
Shadow:
「……構わない」
(ユウトの心の中)
(……あれ?いつの間にこんな増えた?)
クイントス:
「規模は拡大しています」
影は広がる。
静かに。
確実に。
翌朝。
ユウトは街を歩いていた。
「……何食うかな」
足を止める。
(ユウトの心の中)
(そういえば……元の世界で見たな)
パン。
(ユウトの心の中)
(バインミー……だったか)
(ベトナムの料理……)
――一瞬、思考が止まる。
(これは……知識だ)
(この世界には存在しないもの)
ユウトは小さく笑う。
「作ってみるか」
(うまくいけば……金にもなる)
(リマに任せれば……広がるか)
一つの発想。
それは――
ただの食べ物では終わらない。
やがて。
人を動かし、
街を変え、
流れを塗り替える。
そんなものになるとは――
この時のユウトは、まだ知らない。
End 第9話




