11/? スローライフは要らん
「いやいやいや。笑って悪かったな小僧。別にお前をバカにしたわけじゃない」
「いえ、バカにされて当然だろうなとは思います。で、俺は買い物させてもらえるんですかね? 闇市ですら買い物させてもらえないとなると、綿密に練り上げた当初の計画が御破算なんですが」
「ああ、うちの系列の店を使えばいい。龍王系列の店と違って、騙しや嫌がらせはなしだ。金さえ払えばキッチリ接客するよう言い含めておく」
「よかったあ! ありがとうございます! ほんと助かります!」
危ない危ない。闇市ですら追い出されたら本気でゲームオーバーになるところだった。闇市に来た俺はある店で買い物をしようと思ったのだが、『虎王の許可証を持ってない奴には売れない。どうしてもうちで買い物がしたいんなら、虎王に会いに行くんだね』と断られたのだ。てっきりこれも原作ゲームにはないこの世界独自のイベントかなんかだと思って虎王に会いに来たわけだが、虎王いわく、それはデストレ野郎を追い出しつつ虎王に嫌がらせをするための龍王派の嘘だったと。酷い! 酷すぎる!
「ああそれと。お前を騙した店の名前か場所を教えてくれ。虎王の名を嫌がらせに使われちゃ迷惑だ。うちの看板を舐め腐った奴らにはキッチリ報復が必要だからな」
「えーと、店の名前は確か……」
虎王。オリエンタルな民族衣装に身を包んだ壮年の白虎獣人で、闇市の半分を支配する闇の犯罪王だ。人間の美女である龍王と敵対しており、プレイヤーは闇市イベントを進めると虎王ファミリーと龍王ファミリーの抗争に巻き込まれていく。で、どっちの味方をするかで闇市が真っ二つに割れるのだが、プレイヤーは龍王にしか味方できないんだよね。何故かというと虎王側は御禁制の違法薬物を取り扱っているから。虎王は違法薬物の流通や人身売買も辞さない悪のヤ〇ザ、龍王は義理人情に厚く薬は赦さない、曲がったことは大嫌いの正義の極道。実に分かりやすい構図だ。
「ま、精々頑張りな小僧。バカは嫌いだが、気骨のある若造は嫌いじゃないぜ?」
「ありがとうございます。頑張ります」
そういう意味では、俺が騙されて向かわされたのが虎王のところで助かったかも。金のためなら清濁併せ呑む虎王とは違い、反社なのに無駄に正義感の強い龍王のところに乗り込まされていたら、それこそ袋叩きにされていた可能性が高いから。あーヤダヤダ。デストレーサーの何が悪いんだか。確かに味方が死ぬほど強くなるパッシブスキルは持ってるかもしれないけれど、でもその本質は自分の生命力(HP)を削って戦うジョブなのよ? それなのに、誰も彼もまるで人殺しみたいに!
「コイツをやろう。これがあれば闇市で騙されることはなくなるだろうさ。入れなくなる店も増えるだろうが」
「ありがとうございます。そういう店を見分けられるようになるだけでも助かりますよ。でも、いいんですか?」
「将来有望な若者への投資って奴さ。男ってのは、バカな夢を見るもんだ」
虎王が弾いて寄越したのは、虎の顔が刻まれた白いコインだった。ボスメダルならぬ、虎王メダルとでも言おうか。それと、白のスカーフ。原作だと闇市イベントを終わらせた後で龍王メダルと龍王スカーフというレアアイテムをもらえるのだが、それの虎王版だろう。
龍王メダルは龍王を仲間にできるようになった証だが、同時に所持していると闇市の一部の店で普段は買えない特別な商品が並んだり、値引きしてもらえたりするので、これも効果は同等の筈。龍王スカーフは装備すると魔法防御力と魔力が上がるほか、炎と風の属性防御を得られる。
それと、これはフレーバー的な要素なのだが闇市では店先に緑か白のスカーフを括るのが一般的だ。緑のスカーフが揺れる店は龍王派の縄張り、白いスカーフが揺れる店は虎王派の役割。熱心に派閥争いを行う者たちは、カラーギャングよろしくそれぞれの陣営のシンボルカラーである緑か白を率先して身に着けている。
「忠告しといてやるが、龍王派には注意するこった。あの女は潔癖すぎる」
「ですね。これからは虎王さんのお店以外怖くて使えたもんじゃないです」
「ククク! 俺を信用しすぎるのも危険だぜ? 油断してると、後ろからガブリ、だ」
「街を追放されてあの塔を諦めて死ぬのと、攻略途中で裏切られて死ぬのだったら、まだ後者の方がよっぽど救いがありますよ! 少なくとも、俺にとっちゃね!」
まったく、ゲーム外の要素で余計な手間かけさせないでほしい。俺がやりたいのはあくまで好きなゲームのリアルRTAであって、異世界転生セカンドライフではないのだから。でもまあ、特大のロスだと思った今回の虎王のお宅訪問イベントも、結果だけ見るならそれなりのリターンを得られたわけだから、逆によかったと思おう。




