一話 熱い夜のデート
久しぶりの更新です!
これから、また更新を続けたいと思います!
このイグニスの街も日本と同じように四季がある。
春夏秋冬、その季節によって街が姿を変える。
まあシルフィが雨季を冬にしたので、春冬夏秋冬というはたから見れば頭のおかしい世界になったけど……。
そして、只今の季節は夏である。暑い。湿気がやばい、クーラーがある部屋に飛び込みたい!
自室では空気の流れが悪く蒸し蒸ししていた為、ベランダに出てきたのだが。
「あーつーいー……『コールド・ウィンド』ぉ……」
外は無風で、冷風魔法で手のひらから顔に向けて風を起こした。
あー涼しー……!
……しかし魔法の効果はすぐに切れる。長時間魔法を使っていると気分が悪くなってくる。
「風の女神様、仕事してくれよ……。こんな暑いのに無風はないって……」
俺は、今もこの空の上で世界を見守っているだろうレアに愚痴をこぼした。
異世界転生して数ヶ月、『風神の従者』が直接役に立った試しが無い。
……うう、暑い。シルフィに頼んで氷でも貰おうか。
頭を掻きながらベランダから出ようとドアノブに……、
——ガンッ!
「イブキ……ってそこにうずくまってどうしたんですか? 邪魔ですよ」
「お前が勢いよく開けただからだよ! 痛たたた……!」
俺の手は、ガブリエルが勢いよく開けたドアによって痛打した。
そんな俺をしけた顔で眺めるガブリエルが言った。
「シルフィが呼んでますよ。何でも『一緒にクエストに行こう?』との事です。
■■■■■
——去年の夏、一人の男が死んだそう。
場所は街外れの湖。死因は溺死。
しかしその理由がしょうもなくて……。
「まさか美女の水着を拝む為、湖の中で待機してたら足がつってそのまま溺れるなんてなあ。確かに水着が見たいのは分かるけど、同情できねぇ……」
一時の欲求で人生を棒には振るいたくない。
その人には悪いかもしれないが反面教師にしよう。
「で、ガブはどうした。あいつも一応パーティーメンバーだろうが」
「何か用事があるって言ってたよ。あと、それガブリエルに言わないでね……。あの子結構ヘコみやすいから」
そうかい。
今日のクエストはその湖の調査。要するにアレが出るのか出ないのかを調査する……。
ちなみに時刻は真夜中。やっぱり幽霊といえば夜。
夏の夜は暑い。熱帯夜とはこの事だ。自然と頬に汗が滲む。
この暑いままでクエストを終えたいな。
「それでイブキ……。聞きたいことがあるんだけど」
そう思ってるとシルフィが薄暗い道中でこっちを向いた。煌びやかな銀髪が月光が反射していてとても幻想的だ。
「ん、どうした? 今更怖くなったのか?」
「いや、別に違うけど……何でずっと手を握ってるの?」
そう、俺は教会から出てからずっとシルフィの手を握っていた。
「あ? 怖いからに決まってんだろ?」
その瞬間、シルフィがバッと手を振り払った。
「ああちょっ……! 分かったよ、我慢するから……」
別に怒ってる訳ではなく、からかってるようだ。分かりにくいがそんな表情をしている。
「そうそう、帰りは手を繋いであげるから、行きだけは我慢しようね」
「あーい……」
そんな感じで二人で話していると当の湖が見えてきた。
野宿時代に使わせてもらったこの湖だが、夜に訪れたことは無かった。
夜の湖は特に幽霊的な感じは出しておらず、月の光をその水面で揺らしている。
しかし暗い。だからこそ怖い。
すると右隣のシルフィが手を握ってきた。
何だよ、シルフィも怖がってるじゃんか。意地っ張りなところもかわいいもんだ。
何故か変な自信が湧いて来た俺は元気よく言い放った。
「よし、クエストを始めようか!」
■■■■■
「あ、あれは……ただのスライムか……」
「イブキ! あれ見て! ミミュートが交尾してる!」
「ちょ! 女の子がでっかい声で交尾って言うんじゃありません! あんまり聞きたくない!」
——その後は湖をよく観察したり、湖畔に座り何か起きるか待ってみたりしたが。
特に何も起きなかった。
だが、その間はずっとシルフィの手を握っていたから怖さよりも楽しさの方が上回った。
たまには夜の湖デートも悪くない。
「結局何も無かったな。ちょっと拍子抜けしたけど、何も無くて良かった。よし、帰ろう」
「いやいや、仕事はちゃんとしないと。今回のクエストは調査クエストだよ。慎重なくらいじゃないと……。じゃあ最後は二手に分かれて確認しようか。十分後にここで落ち合おうね」
「……え」
……嫌なんだけど。
「もう、そんな目しないでよ。それぐらい我慢しないと流石に情けないよ……」
ぬうう……。カッコいい所(?)見せるか……。
「分かった……。じゃあ何かあったら大声だせよ? 俺が駆けつけてやる」
そんな強がりもシルフィは分かってるだろう。
分かった、と言って彼女は向こうに言ってしまった。
俺はシルフィとは反対方向を確認しに行く。
「……暗い、怖い、歩きたくない……」
知ってるだろうが、俺は暗い場所が苦手だ。
独りは慣れているのだが暗いと足がすくんでしまう。特に理由は無いが怖いものに理由など無いのだ。
自ずと彼女の手を握る力が強くなる。
——十分後。
「特に何も無いな……。よし、すぐに戻ろう」
俺は集合場所に戻ろうと踵を返した。コオロギらしき鳴き声が小さく響く中、進んできた道を引き返す。
その時、ずっとシルフィの手を握っていたことに気づいた。
それに気がつくと割と恥ずかし……
……………………え?
今、シルフィは居ない……よな?
——俺は、さっきから誰の手を握ってんだ?
今、隣には誰も居ないはず。しかし、この右手の感触は何なのか。このやけに冷たい手は『氷雪の魔女』であるシルフィでは無いのか。
……嫌だ。
嘘だ嘘だ嘘だ……!
しかしこれはクエスト、確認しなければ……。
冷や汗が頬を伝うのが分かる。ゾクリと身震いもする。
暑いと思ってたこの空気も今はとんでもなく寒く感じる。
心臓の鼓動も凄まじく速くなっている。
頑張れ俺! 幽霊なんかにビビってたら異世界で生きてけねえぞ!
俺はビビりながらも、おずおずと右を向いた。
俺の右手に繋がってたのは……!
「ぎゃああああああーーーっ!!!!」
だらんと伸びる、生気の無い白い手だった。
——もう心霊現象を調査するクエストは行かないと誓った、夏のとある日。
■■■■■
翌日。
「お、おはよう……」
昨日は無事に帰ってくることが出来たが、俺はすぐに自室に閉じこもった。
気がつくと朝だったが、引きこもってても別に何もないし、リビングにやって来た。
「あ、おはようイブキ、いい朝だね。……それにしても大丈夫? 昨日慌てて帰ってきてから、自分の部屋に閉じこもってたけど……」
「いやさあ……シルフィと一緒とはいえ、幽霊なんてもんを見ちゃったから、大丈夫じゃねえよ……」
あの、白くて生気の無い手は、確実に幽霊だ。手の先には何も無かったし……。
しかし、シルフィはぽかんとした表情で。
「……え? 私、昨日はこの教会にずっと居たけど……」
……………………は?
「……はははっ! 何言ってんだよシルフィ、お前が冗談言うなんて、め、珍しいなあ! ……な、なあトレニアさん?」
俺は冷や汗ダラダラになろながら、トーストを頬張っているトレニアさんに尋ねた。
「本当よ」
即答だった。
………………じゃ、じゃあ昨日のシルフィは……?
昨日、一緒に湖に行った氷雪の魔女は……。
「え、じゃあイブキは、誰と行ったの……?」
シルフィは不安そうにこちらを見る。
——知らない知らない知りたくない!!
——なあ、この世界を作った奴……! 教えてくれ!
俺は誰と……誰と夜の湖デートしたんだよッ!!!
幽霊です。イブキ、ごめんね!
ちなみにシルフィも幽霊が苦手ですがイブキはまだ知りません。
と、言うわけで。
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