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八話 美人聖職者トレニアさん

朝眠たくて、夜眠たい、楓乃颯です。



……新キャラ!


「——嫌だ! あんな女神信用できるかああああーっ!!」


 レアニスト教会の前で、俺の叫びが響き渡った。


 逃げようとする俺をシルフィとガブが物理的に引き留めてくる。


「そんなこと言わずに! イブキは風神の従者というスキルを持ってるんです。何か女神レアと関係があるんでしょう? 教団の人たちが助けてくれるかもしれませんよ?」


「そう、レア様だよ! 可愛くて神聖なレア様だって!」


 ……?!


 正直言って、全く信用ならないのだが。


 いや、レアはあれでも神様なのだ。

 このいわゆる下界にはいないはず。


「……よし、わかった。だけどな、話を聞いた後何かクエストに行くぞ。まだお金は少ないんだからな」


「はいはい。まあ、クエストなら私に任せてよ。……でもどうしてお金がすぐに無くなるのかな?」


 それは、シルフィが思ったより食うからだけど?


 俺はそう思いながら教会のドアを開けた。


「……あのー、来てくれたとこ申し訳ないんだけど誰か私にお恵みを……。……! あっ、ちょっ、閉めないでー!」


 聖職者のような女性が倒れてるのを見て、俺はゆっくりとそのドアを閉めた——



■■■■■



「そういえば、イブキとレア様はどんな関係なの?」


 異世界転生してから、数日。

 俺たちのパーティはその日その日の生活をしていた。


 毎日何かしらのクエストをこなし、稼いだ金で一日過ごす。

 冒険者とは本来こういう職業らしい。


 自由に生きたいと思っていた俺にとっては天職だ。


 ……と思っていたのだが、自由にするのにもある程度のお金が必要だ。


 やはり異世界だからと言って、甘やかしてはくれないみたい。


 そう思っていたらシルフィが、ミミュートのステーキを綺麗に切り分けながら、俺とレアの関係を聞いてきた。


「関係も何も、ものすごく不本意だけどアイツの従者だ。一回会った事があるよ」

「うわあ、その顔。ホントに嫌なんだね……」


 そう言うと金髪赤眼の盗賊、ガブが驚きの声を上げた。

 今のガブは珍しく長めのスカートなんて物を穿いている。


「レアと会った事があるのですか? というか、なんでレアはイブキなんかに祝福を与えたんでしょうか? こんな髪がボサボサのだらしない男ではなくて、もっと良い人がいなかったんですかね?」


 ガブがなんかムカつく事を言うので、


「『リード・ウィンド』」

「あああああああああ!!!!」


 俺は魔法を放った。


 リード・ウィンドとは、自分で風を意のままに操る魔法だ。


 指定した空間に風を起こす『ウィンド』とは違い、こちらは《風》そのものを操る事ができるので汎用性が高い。


 そのリード・ウィンドで、ガブのスカートの下から風を吹かせたのだが………、

「チッ、スカート抑えるなよ」

「抑えるに決まってるじゃないですか!! この変態変態!!」



 ガブが顔を赤く、その赤い目をギラつかせて俺を罵ってくる。


 ……別にご褒美ではないぞ。


 しかしガブは間一髪の所でスカートを抑えた。よって俺の目には綺麗な太ももしか見えていない。


 という訳で、

「おい、どうだ? ……何色だ?」

 俺は後ろで俺たちを見ていたであろうダイスに声をかけた。


「黒だな。見た目通り、その色が好きなよう……」

「貴様! 殺してやる!!」


 口調が変わるほど怒りをあらわにしたガブが後ろのダイスに飛びかかった!


「ダイス、逃げろおおお!!」



■■■■■



 ——雨季が近いのだそう。


 雨季とは日本の梅雨のようなもの。

 冒険者は毎年この一ヶ月ほどの雨季を宿にこもってやり過ごす。


 雨季になるとミミュートなどの動物やモンスターが活動しなくなり、必然的に冒険者の仕事が減ってしまうからだ。


 真面目なものは様々な店でアルバイトをしたりするが、冒険者という輩にそんな真面目はいるわけがない。


 だから冒険者は雨季の前にお金を貯め込み、この雨の一ヶ月を乗り切るのだ。


 しかし俺たちにはそんなお金は無い。そして俺たちは野宿生活をしているのだ。雨季なんてものに入られたらたまったもんじゃない。


 その事を先程ギルドで仲間に相談したら、『風神の従者』である事を理由に、レアニスト教会に連れてこられたのだ。何かあるかもしれない、と。


 閑静な住宅街の一角に位置するその教会に、俺たちは足を踏み入れようとしたのだが………。


「……よしクエストに行こう」

「いやいや、人が倒れてたんだよ? 助けてあげないと!」


 シルフィがそう言いながら再び教会のドアを開けると、顔だけを向けながら話しかけて来た。


「……あっ、どうも〜。この教会の聖職者であるトレニア・シーリンオルトでーす。……レアニスト教会へようこそ。信仰ですか? 入信ですか? それとも懺悔ですか?」

「まずあんたを懺悔させたい」


 倒れているのはラベンダー色の髪を伸ばした美女だった。


 自分で聖職者と名乗ったその人——トレニアは未だに倒れていて、起きあがろうとしない。


 と、シルフィがトレニアの横にしゃがみ込む。

「まず何で倒れてるの? さっきお恵みとか言ってたけど、もしかしてお腹が減ったとか?」


「ご明察! 私はお腹が減って力が出ないのよ。……という訳でここで会ったのも何かの縁。一緒にご飯でもどうかしら。あなた達のお布施でね♪」


 なんて厚かましい。俺は自然と苦笑いになってしまう。


 しかし、教会の中を見渡してもこの人しか居ないみたいだ。仕方がないが、話を聞くために何かを食べさせるしか……。


「んじゃ、そこの喫茶店にでも行くか。安いもんで良いなら色々あるし」

「良いの? やったわ! ありがとう、貴方!」


 彼女は思いっきり立ち上がった。


「え?」

「え、じゃねえだろ。立てるの? 立てるんだったら俺たち要らねえよな。それじゃ」


「まってえええ!! 今月金欠なの! お願いだからご馳走してええ!! ほら、貴方って黒い髪がイケてるって思うの!」


 俺が踵を返そうとするとトレニアが泣きながら抱きついてきた。


 何故この世界は、帰ろうとすると抱きついてくるのが多いのだろうか。

 というか、普通に良い匂いがするのでやめて欲しい。


「ああ、鬱陶しい! わかったから離せ! せっかくの美人が台無しだ!」


「今美人って言った? わかってるわね! このイグニスで一番の美人聖職者と呼ばれるトレニアさんを見つけるなんて、貴方はレア様のご加護がついてるわ!」


「それ絶対自称だろ! いいから離せ、コノヤロー!」


「喫茶店に行くなら早く行きましょう! 周りの目を集めてますよ!」



 ……レアニスト教。やっぱダメだ!


イブキ君はシルフィと出会った事で、女運は使い切ってます

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