らぶトモ 第82話 【決闘だよ③】
「今日はありがとうございました、お兄さん。そ、それで、一つお願いが・・・」
「ん?」
「お兄しゃん」
「はい?」
「親愛の想いを込めて、お兄しゃんと呼んでもいいですか?」
「あ、ああ別に構わんが・・・お、お兄しゃん?」
「ふむ。生まれ育った言葉で呼びたいのであろうな」
「そういうことか。ああ、どう呼んでも構わないぞ。それに親愛の意味だし」
「は、はい・・・うううう」
「泣くほど嬉しかったのか?喜んでもらえてく嬉しいよ」
「よかったね、園子ちゃん」
「は、はい・・・うれじいデフ・・・」
園子・・・最後の最後でマイナスだな。
まさか自爆するとは。
兄と慕うための大義名分は取り付けたものの、それに親愛とつけてしまったら、後で苦労するぞ・・・。
それにしても兄上・・・まさかの傷を抉る【親愛】を復唱するとは。
「ヨシヨシ、園子ちゃん」
「奈々ちゃ〜んうえええええええ」
ーー放課後ーー
「お兄ちゃ〜ん」
「おお奈々」
「じゃあ大吾〜。奈々ちゃん、またですね〜」
「太助さんバイバ〜い」
「ねえお兄ちゃん、ペルシャちゃんからメール来てるんだけど、今日商店街いく?」
「行く予定なかったけど、どうするか」
「ペルシャちゃんに会いに行く?」
「ああ、そうだな。たまには買い物ついでじゃなくコーヒー目的だけでもいいか」
「うん。たまには」
「よしじゃあ、決まりだな」
「ねえお兄ちゃん、泉水ちゃんも誘っていい?」
「いいぞ」
「ちょっと待っててねお兄ちゃん」
「ああ」
断りきれなかったな。
本当ならさくらに頼むところだったが・・・。
【泉水ちゃん行こう。お兄ちゃんも行くってさ】
ま、まあ奈々も一緒だし、良かろう。
さくらは明日にでも頼もう。
「ペルシャちゃんね。何とお料理にチャレンジしたらしいんだ〜」
「そうなのか〜?すげえな」
「ふむ。ペルシャの努力はホントに頭が下がるな」
「ねえ。私ももっと自分の可能性を広げなきゃ。本気でお料理練習しようかな」
「まあそしたら俺も楽チンだな」
「あ、そっかそうなるよね〜。お兄ちゃんの手料理食べる回数減っちゃうのか〜それは嫌だな〜」
「作りがいがあるな。ここまで気にいってもらえたら」
「確かにそうだけどさ。飯と味噌汁くらいはできたほうがよくないか?」
「ご飯はレンジ。お味噌汁はお湯注ぐだけでOKな時代だよ」
「これだよ」
「ふむ。奈々は本当に料理ダメだな。他は大抵できるのにな」
「難しいよ〜お料理〜」
他愛なく話しながら並んで歩く・・・。笑顔の奈々。奈々をからかう兄上・・・。
「どうした、泉水?」
「え、い、いや何でもない」
な、何だ・・・これまでこんなことなかったのに・・・。胸が・・・。
「着いたよ〜。ペルシャちゃん、ロバートさん、透子さん、来たよ〜」
「あ、いらっしゃいませ〜。お兄さん、奈々さん、泉水さん」
「おう!三人とも」
「ククク、闇の眷属どもよよくぞ来たな。待っておったぞ」
「お兄さんいつものでいいですか?」
「おう頼むよペルシャ」
「はい。お二人はどうしますか?」
「そうだな〜。今日は、マルシェフラペーニョで」
「ククク、それは私が作ろう。特別製にしてやろうではないか」
「やった〜ラッキー」
「では我は、ロイヤルアフォガードで頼もうかな」
「おお、お目が高いね〜泉水くん」
「ふむ。コーヒーのアフォガードはよくあるが、ここのアフォガードは、濃いロイヤルティもあるから楽しみだ」
皆が知っているアフォガード。
アフォガードとは、元々はイタリア発祥のデザートだ。イタリアといえばバニラのジェラートだ。
ジェラートだけでなくアイスでも構わないのだが、簡単に言うと【飲み物をかけて食べるスタイルのデザート】
のことだ。実際イタリア語では[溺れる]を意味する言葉だ。
外国ではカシス、コーヒーリキュールをかけて食べることが多い。日本ではコーヒーが主流だ。
この店では、ロバートさんのアレンジが効いている。
シリアルが先に皿に敷いてありその上にアイスやジェラートを乗せる。そして熱々のコーヒーや紅茶をゆっくり
かける。香りが混ざり合い絶妙な味わいを醸し出す。
甘めを好む者は、シナモン、蜂蜜、生クリーム、ビスケットなどを加えて、味変でも楽しむことができる。
アレンジは無限にあると言っていいだろう。
我はそんな柔軟な変化を楽しめるアフォガードが大好きなのだ。
「はいお待たせ」
「ふむ。今日もとても可愛いロイヤルアフォガードだな」
「お褒めに預かり光栄ですよ。泉水くん」
やはりロバートさんは一流のマスターだ。美味い。
「それでペルシャちゃん。今日はお料理にチャレンジしたんでしょ?」
「はい。何度も失敗しちゃいましたけど何とか透子さんに手伝ってもらって」
「ククク、私がサポートすることにより、ペルシャの料理の腕前は上がる一方だぞ」
「それはすごいな。前から練習してたんだ?」
「はいお兄さん。全部とまではいきませんけど、一箇所でも私ができるところがあればチャレンジしたいんです」
「ペルシャ。偉いぞ。よしよし」
「ふひゃあああ」
ペルシャめ、やりおる。
一生懸命な女子は男子にとって、心を射止める要素の一つと聴く。
自信のないものに挑む勇気、そしてそれを達成するための努力。それが嫌味にならないペルシャは強いぞ。
「それでペルシャはどんな料理にチャレンジしたんだ?」
「それは、オムライスです!」
「それ難しいやつだよ」
「ああそうだぞ。俺だってなかなか綺麗にご飯を包められないぞ。ペルシャ大丈夫か?」
「はい。今日は練習の成果をお見せしたいんです。よかったら食べてもらえませんか?」
「ああもちろんだよ」
「楽しみだねお兄ちゃん泉水ちゃん」
「ああ、そうだな」
「それでは少々お待ちください」
そう言ったペルシャと透子は調理場所へ向かった。
カウンターのほぼセンターに位置するところにある。
カウンター越しからでも調理をしているところが見えるのだ。
見ていると中身のご飯を炒めているようだ。
感覚でフライパンの大きさを感じ取っているようで、ご飯を炒めている間に、鶏肉、塩コショウを透子が
振り入れている。手早く炒めるペルシャ。
兄上は、目が離せなくなっている。
「で、ではこれからが皆さんに見ていただきたいところです。透子さん、卵にご飯を置いてください」
「ククク、ついに佳境に来たか。ペルシャよ、気合を入れて作れよ」
「はい頑張ります」
練習しただけあり、少しずつ卵をフライパンの先端に滑らせるように移動させ、木しゃもじなどで包み込むよ
うにして、フライパンを逆手に持って立てお皿に先端をつけるようにして返す。
「やった〜!」
「おおすげーぞペルシャ!」
「ふむこれは本当によくやったな」
「皆さん、ありがとうございます」
驚いているのも早々に、綺麗に整えられたオムライスが兄上の前に置かれた。
緊張しているのかペルシャの手が震えている。
「ククク、では最後の仕上げだ。ペルシャ良いな?」
「はい」
「何するの?」
「そのケチャップはまさか」
「ふむ。これはあれだな」
透子に補助を受けながら、ケチャップの出口をオムライスの中央にハート形を描いたのだった。
「うわ〜〜〜可愛くできたよ〜」
「マジにすげー。本当は見えてるんじゃないかってくらいだよ」
「ふむ。ペルシャ見事だ」
「ありがとうございます。さ、冷めないうちに召し上がれ」
「じゃあいただきます・・・・うわ〜〜〜〜美味いよこれ!」
「本当ですか?よかった〜」
「いいな〜お兄ちゃん」
「ふむ我も食べて見たいぞ」
「ペルシャ、分けてもいいか?」
「はい!」
一口ずつ口に運ぶ。
「本当だ〜美味しいよペルシャちゃん!」
兄上が口にしたスプーンを何の気なしに咥える奈々。
「では我ももらおう」
う・・・また胸が・・・。これまでも間接キスになるようなものはいくらでもあったはずだ。
それなのになんなのだ今回は。
胸が・・・ドキドキと・・・。
「ふ、ふむ。美味いな」
「良かった〜安心しました」
く・・・胸が・・・苦しいくらいに・・・。
「さ〜て〜、味見は終わったな。ククク、奈々、泉水、今度は私が作ったオムライスを食べてもらおう」
「いいの?」
「ふむ。すまぬないただこう」
「これでみんなで食べれるな」
あ、兄上はなんともないのか?
わ、我との間接キスに・・・何も感じないのか?・・・・我はこんなにも・・・・。
「(ヒソヒソ)泉水さん、いかがでしたか?」
「(ヒソヒソ)ふむ、ペルシャ、本当によくやったな」
「(ヒソヒソ)だって私本当にお兄さんのこと大好きなんです」
うう・・・今度は、チクチクと・・・。
「(ヒソヒソ)私、お兄さんのこと考えるだけで、元気が出るんです。出るようになったんです。
こんなに私に元気をくれる人、初めてです。この出会い、大切にしたいんです」
「(ヒソヒソ)そ、そうか。そうだな。ペルシャにとってそれほど兄上は大切なのだな。その想いが
あのオムライスなのだな?」
「(ヒソヒソ)伝わりましたか?私のお兄さんへの想いの強さ」
「(ヒソヒソ)ああ、伝わったぞ」
く・・・なんということだ・・・ズキズキに・・・変化したぞ・・・。なんなんだ一体・・・。
「ふむ。堪能した。ペルシャよかったぞ。これからも励めよ」
「はい、ありがとうございます」
「私はそろそろ先に出るぞ。さくらも待っておるからな」
「そっか〜。泉水ちゃんまた明日ね」
「ふむ。奈々ゆっくりしていくといい」
「泉水。またな」
「ふ、ふむ・・・残さず・・・食べるのだぞ」
「もちろんだ、言われるまでもない」
「良いことだ」
我の胸・・・おかしいぞ・・・ドンドンドンと・・・叩き始めたぞ・・・。
「ではまた明日。さらばだ」
「ありがとうございました」
「泉水くんありがとう」
「ククク、闇の眷属よ。いつでも来るが良い許可する」
我は自分の異変に気付かれぬようにできただろうか。
胸の鼓動が・・・息苦しい・・・。
どうしたらいいんだ・・・我はどうしたらいいんだ・・・。
胸の鼓動の苦しさは、切ないですよね。
いかがでしたか?最後まで読んでくださってありがとうございます。
このお話はもう少し続きます。お付き合いください。
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