らぶトモ 第69話 【手伝いに来たよ】②
森山翔子の作業場。隣街の駅前にアパートを借りてるとのことだった。
高校生で結構いいアパートを借りていた。3LDK。寝床、作業場、荷物置き場、キッチン、トイレ風呂別。
お金持ちなのか?
「この部屋は、これまでの同人活動の賜物ですよ」
「まじか?」
「ほほう、それは立派な仕事と言っていいレベルだな。手伝うのも気合が必要だな」
「そんなに有名な作家さんなんだ〜。森山さんってすごいね」
「商業にいかないのでしょうか?」
「俺もそう思う」
「まだその領域には・・・。コアなファンならなんとかなってますけど商業はハードル高いです」
「そう言うもんなんだ。意外と冷静なんだな。ここまで売れたら天狗になってもおかしくないのに」
「そうやって言って、沈没した作家は無数にいますから」
「なるほど。で?俺たちにそろそろ指示してくれ。何が俺たちにできる?」
そうですね〜。と自分の机を見て作業工程を考えている。
作業場には3つの机があり、向かい合わせになってる。森山の机の前その隣、その机の前。
まあ四角を4等分した配置だ。少し斜めの下からライトが光るテーブル。デスクライト、鉛筆や漫画用ペン、
墨汁、カッターなど各机に綺麗に整頓されている。が、4席中3席はPCモニターが設置されていた。
「ねえ森山さん」
興味津々に森山に質問する奈々。完全に目が蘭々だ。
「漫画ってパソコンで描くの?難しそう」
「大丈夫ですよ。ペン入れって言って、私が原稿に鉛筆で下書きする。見てて」
素早いっ作業と説明をテキパキこなす森山。作業中の森山は別人だ。
「おお、キャラが動いているように見えるな」
「うん、こんなにぱっぱって描いてるのに活き活きしてるね」
「感心するのは早いですよ。私よりすごい人はいっぱいいるから。で、この下書きを、スキャナーで取り込んで」
「おう〜!コピー機もありますか〜!揃ってますね。スキャナー付きですよ」
「それでこのスキャナーでPCに取り込んだら、ぽちぽちっと」
「見て!モニターにさっき描いたのが出てきたよ」
「それで、ペンの形のマウス・・・これはペンタブレットって言うんだけど、鉛筆ツール、このボタンを
押すと矢印と」
「あ、鉛筆の形になった。うわ〜本当に鉛筆で描いてるみたいになってる」
「これはペン入れっていうんです。実際に鉛筆で書いた原稿だと灰色に見えててくっきりしないでしょ?
これをPC用の濃い黒でなぞれば・・・はい。ペン入れ完了」
「ほほう、原稿と違って、キャラがくっきり浮き上がって見えるな」
「それで、重なってる元の鉛筆の跡を、この消しゴムツールで消していく」
「うわ〜、綺麗に消えてくよ」
「なるほど。今の工程をすると、始めの下書きのみ消しゴムのカスが出る。その後の作業は、
ゴミを出さずに行えるのか。部屋が綺麗なのも合点が行く」
「クリーンな職場は従業員の仕事意欲を高めますね〜。クリーンな仕事いいことですね〜」
「その後はどうすんだ?」
「今度はキャラにスクリーントーンを貼るわね。このトーンのツールを使って、クリック&ドロップで」
「わ〜、どこにもはみ出さずに髪の毛のとこが灰色になった。なんかちゃんと色ついてるみたいだね」
「それで、ちょいちょいちょいちょ」
「おお、そのスクリーントーン楽しそうですね」
「これだけじゃなくて、消しゴムで擦ると」
「今度は擦ったところが消えて、影みたいに見えるようになった」
「そうやって黒のとこを塗りつぶして・・・はい出来上がり」
「一通り作業はわかったよ。奈々ペン入れしてみたい」
「私はスクリーントーン」
「私は仕上げを」
「俺は」
「ご飯」
「え?」
なに・・・この流れ・・・。
「腹が減っては戦はできぬ。みんなのためにご飯やお菓子お茶の用意をお願いします」
「なんだと?漫画手伝うんじゃなく、料理だと?」
「だ、だって・・・ここ数日何にも食べてなくって・・・ヒックヒック」
「あ〜わかったわかった、泣くな」
結局俺はこういう役回りか。まあいいけど得意だし。
「というわけで皆さん、ご協力お願いします」
「それで?〆切はいつなんですか?」
「今週の日曜日」
「5日後だって?」
「いえ実際は、3日です」
「無理だろ?」
「印刷所へはアップロードで大丈夫なのですが、その分〆切は伸ばせないんです。どうかよろしくお願いします」
「お兄ちゃん奈々たち頑張るよ」
「ここまできて帰るのも気がひける」
「平等院家として難関を乗り越えてみせますよ〜」
「みんなが良ければいいけど」
「ありがとうございます皆さん。それで・・・」
「なんだよ・・・」
ハアハアした顔でクローゼットから執事の服を持ってきやがった。
「着ないぞ!!ぜ〜ったい着ないぞ!」
「ええ〜?協力してくれるんですよね?」
「しかし格好は関係ないだろ?」
「いえいえいえ!この格好で給仕をしてくれれば作業効率が上がりますから!」
「お前の趣味だろただの!」
「お、お兄ちゃん・・・奈々・・・見たい」
「奈々まで・・・そんな目で見るな!」
なんというキラキラした目で見てんだ!」
「おほん、兄上、我は興味ないが・・・兄上がその執事服を着るのは・・・いいと思うのだが・・・」
「ちょっと泉水ちゃんまで」
チラチラこっちを見て楽しみな顔してる〜!
「大吾〜!執事のことならお任せあれ」
「おお、太助代わってくれるか」
「私がお教えさせていただきます」
「二条城さん!いつの間に」
「お〜〜!まじですか?本物の執事〜〜しかもベテランの雰囲気を醸し出してますね〜。お髭も威厳があるし〜!」
あかんやつや!もう逃げられないやつや〜!
結局俺は執事の格好をすることになった。
「おお〜!素晴らしい・・・はあハアハア」森山ハアハアしながらよだれ垂らすな。
「お、おにいひゃんの・・・お兄ひゃんの執事・・・うほうほうほ」奈々そのうほうほ止めなさい顔が変だよ。
「あ、兄上・・・。ちょっと失礼・・・」まさかの鼻血・・・。泉水ちゃんあなたの趣味はこっちなの?
「大吾〜〜〜!君は僕の思った通りの男だよ〜。なんと似合うことか。早く僕の会社で働いて欲しいよ」
太助・・・引き入れるな。リゾートの忙しさは覚えてるぞ。どんだけこき使う気だ。
「木村様、見事な着こなしでございます」二条城さん、本物のあなたが褒めたら肯定せざるを得ないのですが・・・。
始めの方は作業のやり方、PCの説明などで進行は遅かったが、徐々に作業スピードが上がっていった。
この3人の器用さは折り紙つきだしな。もともと能力高し。
「あ、あの森山さん・・・こ、ここ・・奈々恥ずかしくて見てられないんだけど・・・」
「どれ?あ、これかごめんごめん、泉水さんは大丈夫?」
「ああ、我はその程度で臆せんよ」
「え?奈々苦手なのあったのか?ーーどれだあああああああああああ!」
なんと目の前には、美男2人がくんずほぐれつなシーンで、シンボルマークが・・・とってもリアルに!
モザイクつけんのかい!まじか?これが女性向けなのか?奈々には刺激が強すぎなのでは?
「ふわああ、こ、これ・・・あああ・・・そんな・・入っちゃうの?・・・」
「ダメダメダメ〜〜〜!森山!別のシーンを頼む!奈々には早い」
「了解です。奈々さんには刺激が強かった見たいね」
「待って!」
「奈々?」
「ここで迷惑をかけるわけにはいかないよ・・・はあはあはあ・・・。奈々頑張る」
「無理しなくていいんだぞ」
「大丈夫だよ」
「お、おう」
「じゃ、じゃあお願いね」
奈々を心配して見てたら、大汗、真っ赤に、頭を抱え、目を覆い、たまに魂が抜けたようになるが・・・。
頑張ってる・・・。奈々ファイトだ!お前の大好きな海老マヨいっぱい食わせてやるからな。
「大吾〜。見て〜」
「なんだ太助!おおおおお」
「仕上げが一番リアルになった原稿を見ることができますよ〜」
「ゴクリ・・・まじか・・・バラとか鼻がメッチャ散りばめられてる!」
「大人の女性向けですが、仕上げていくとわかります。クオリティが半端無いです」
「確かに一枚一枚が、美しいな」
「森山さん、将来化けますよ」
森山は集中してすごい勢いで描きまくってる。これが好きなことを仕事にしているやつのオーラなのか。
内容が内容だけに表立って褒められたものじゃ無いが・・・。漫画に対しての向き合う姿勢は、尊敬に・・・。
「お、お兄ちゃん・・・奈々・・・頑張るよ」
「ああ、無理するなよ」
いや、尊敬はしないぞ!立派だけど尊敬はしないぞ!!
昼間は学校、その後作業・・・。繰り返しの繰り返し・・・。みんなすげー頑張ってる。
「アップロード・・・」
マウスをクリックして、アップロードメーターが30・50・80・・・。
「100%!!できた〜〜〜〜!」
「「「「「おめでとうございま〜す」」」」」
「やった〜ありがとう〜」
「森山さんよかったね〜」
「ふむ、結構楽だったな」
「フィニッシュですね〜」
「皆様おめでとうございます」
みんな頑張ったな。本当に頑張った。
一先ずゆっくり休みな。
しかし・・・。男同士で・・・え、エッチいなほんと・・・。
漫画家さんは昔から大変ですよね。
でも・・・女性向け・・・男性でも使えるのも多いって聞きます・・・。
いえ愚問でした。
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