らぶトモ 第35話 【初めましてするよ】
急展開です
「さて、奈々の好きな海老マヨもできたし、帰ってくるのを待つだけだな」
その日はヤケに寒く。突風も時折吹いていた1日だった。
今日は泉水ちゃんの家に学校終わってから勉強するとのことで、帰りを待っていた。
携帯が鳴る。
「もしもし、木村ですが」
「兄上か?」
「泉水ちゃんか。奈々がお邪魔してるよね」
「実は兄上にすぐに来て欲しいところがあるのだ。奈々が今ピンチな状況にいる報告なのだ」
「どういうこと?」
「今奈々は、ベッドの上で寝ておる」
「え?なにそれ?」
「兄上に・・・私は謝らないといけない。早急に来ていただきたいのだがよろしいか?」
「いくよ!奈々がどうしたの?それに謝るって?」
「話は来てからという事で。場所は」
「待ってメモる!うん・・・うん・・・町外れの・・・・わかったすぐいくよ!」
俺は、両親に連絡をし、タクシーを呼んで泉水ちゃんが指定した場所へ向かった。
この時のタクシーを待つ時間ほど、イラついたことはなかった。
--タクシーが来て乗る--
「どちらまで?」
「町外れの・・・ここまで」
「はいよ」
「急いで!!!」
いったい何の展開だよこれ! 奈々が、病院にいて、俺は病院に向かってて!
ありきたりのドラマじゃあるまいし!こんなの現実な訳が無い!
病院に着いたら「うそでした〜」ってたちの悪いいたずらだって、丸く収まるんだろ?
なあ、そうだろ?!
タクシーが病院に到着し、受付に怒鳴りつける俺。今思えば申し訳ないほど取り乱していた。
「木村大吾と言います!妹の奈々がこちらに運ばれたって!?」
受付の人が場所を教えてくれ、走ってはいけない廊下を駆け上がる。
「はあ、はあ、泉水ちゃん!!」
「お待ちしておりました」
「奈々は無事なんですか?先生は?」
「あなたが木村さんの身内の方?」
「はい」
奈々を担当して治療してくれた先生が現れた。
先生は一言。【身内の方が一番落ち着かないといけません】と告げる。
まずは会って説明します。という。
ドアを開ける泉水ちゃん。表情はとても暗い。
「奈々!!」
「はい?」
ドア閉める泉水ちゃん。その場で動かない。
「奈々大丈夫か?痛い所無いか? 心配したぞ」
「はい、あのその」
「奈々良かった〜〜、元気そうだ」
「すみません・・・どなたですか?」
「は?何言ってんだ?冗談はよせよ」
「あ・・・・その・・・」
「奈々?」
「ごめんなさい・・・わからないんです」
「え?わからないって」
「言葉の通りです」
「先生・・・」
「お兄さん、少しこちらによろしいか?」
「はい」
俺は先生に連れられて、別室へ向かった。
「娘さんや。騒がせたな、許せよ」
「いいえお気になさらずに」
「私は、先ほどの男性と話がある故、1人にしてしまうがよいか?」
「はい、大丈夫です」
「そうか、すぐ戻る」
ドアを静かに閉め、俺がいる別室に移動した。
「あの・・・木村さんの身内の方ですか?」
「あなたは?」
「彼女に助けていただいたこのコの親です」
先生が別室に連れて来て来た理由は、この親子に会わせるためだった。
「このコを助けた、奈々が?」
「はい、なんとお礼を言って良いやら・・・。本当に有り難うございました。
ですが、奈々さん・・・。記憶が無いと聞いて・・・。
本当に申し訳ありません」
泣きながら頭を下げる母親。
俺はどんな顔をしてあげたらいいかわからない。
「あ、あの、頭を上げてもらえますか? そこまでされると、奈々も困ると思いますし・・・。
僕もなんて言って良いやらわからないので。
とにかくお子さんが無事で良かったですね」
「はい、そういっていただけると助かります。このお礼はまた後日・・・。失礼します」
何かに気づき、奈々が助けた女の子が戻って来た。
「お兄ちゃん、これ」
「なんだい?」
「これ、大事な熊なの。お姉ちゃんにあげる」
「え、いいよ」
「早くお姉ちゃん元気なってほしいもん」
【お兄ちゃん】
女の子が手渡してくれた熊。お兄ちゃんと笑顔で言う。なんと重なり・・・涙が・・・。
「奈々」
「お兄ちゃん?」
「あ、いや・・。わかった有り難くもらっとくよ」
「えへへ。じゃあね〜」
「じゃあね〜」
「兄上・・・」
力なく俺を呼ぶ声。
「泉水ちゃん、奈々は?」
「断りを入れて兄上に話に来た。今は1人で病室にいる」
「そっか・・・」
「兄上・・・・申し訳ありませんでした」
「どうして謝るの?泉水ちゃんのせいじゃないじゃん」
「だって・・・だって・・・奈々を早く帰しておけば・・・。それよりも先に勉強なんて誘わないで、
学校でやってれば・・・。こんな・・・こんなことにはならなかったかもしれない・・・う、うう」
「泉水ちゃんが悔やむことないよ。何も悪くない。誰も悪くない。だから泣き止んでよ」
「ふ・・・う・・・」
なんとか鳴き声を抑えつつ。啜り泣く泉水ちゃん。
俺は頭を撫でて、落ち着かせた。
奈々がこんなことになるなんて・・・。俺に何ができるんだ?
俺は奈々を助けることができるのか?
情けない兄貴だ・・・。兄貴失格だ・・・。バカじゃないのか俺は?
どんなに自分を蔑んでも、奈々の記憶が戻るわけがないのに・・・。
そうでもしていなければ、落ち着かないのだ。自分を取り戻せないのだ。涙が出てくるのだ。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
シビアな部分でした。書いてて、顔が怖くなっていました。