らぶトモ 第34話 【撮られちゃうぞ】
《こっち視線ください〜》《こちらもお願いします》《このアニメのDVDのジャケットの格好なんですけど》
コスプレイベントが開始された。
はじめは誰も声を掛けてこなかったが、数分後に1人の声かけをきっかけに我先にと撮影の依頼が殺到した。
パッと周りを見る限り、キメキメの女子コスプレがたくさんいたが、奈々と泉水ちゃんの輝きには及ばない。
身内で贔屓目に見てるのもあるが、撮影依頼をされる人数からしたら、文句のつけようがない。
《今度は2人で背中合わせで視線ください》
「こ、こうですか?」
「奈々よ、私の少し後ろから斜め45度から振り向き様のように腕を組め」
「こ、こんな感じ?難しいね」
「ふむ。奈々は腕を組んでいればそれで良い」
《おお!これはナイスですね》《やばいなあの子》《これは眼福だ》
ん?眼福だと?
ぐぬぬう!確かに眼福だな。
しかし泉水ちゃん・・・奈々に腕を組ませすぎではないか?
腕を組めば必然に胸が目立つ。腕に乗る胸なんて、男にとって極上の素材じゃないか。
変な虫が付かないか心配だ。
「泉水ちゃん、疲れたよ〜」
「そうか。では、休憩しよう。ーーーカメラの方々。主役が疲労だ。少し休憩をくれまいか?」
《了解〜!》《今度は俺のも頼みますね》《あ、私もお願いします》《武器屋さんを集中して撮りたいです》
「了解した。では10分後に戻るぞ」
「泉水ちゃんありがとう」
「さて、兄上のところに行くか」
「うん。お兄ちゃん1人でずっと見てくれてたから退屈かもね」
「そうだな」
《なあ、声かけようぜ》《仲良くなって損はないぞ》
「あーいう輩がいるが・・・」
「お、帰ってきたか。お疲れ2人とも」
《なんだ、男付きか》《まあそうだよな、あれだけ可愛いし》
「防御になっている」
「ほんとだ。お兄ちゃんっているだけですごい助かるね」
「ん?俺何もしてないぞ。それにこっちチラチラ見られてるぞ」
「気にするな兄上」
「そうか?」
どうも奈々と泉水ちゃんの人気が凄すぎてみんな気にしてるようだ。
それに加え、俺にも視線が飛んでくる。殺意めいているけど。
「お兄ちゃんのお陰で、変な人に言い寄られないから安心だよ。それに奈々こういうとこ初めてだから、
撮影終わった後、お兄ちゃんのとこくると安心する」
「お、おう」
くうううう。後ろに手を置いて、腰を折り、前かがみポーズでお礼をいう奈々。
可愛いし、その胸がけしからん大きさをより見せつけてくるぞ。
い、妹のくせに!妹のくせに〜〜〜!家に帰って人生相談だ!
い、いかん!落ち着け俺!!
「ふふ、みろ奈々。さっきのお礼のポーズは効果覿面だ。兄上の悶えようがたまらんだろ?」
「ほんとだ・・・。お兄ちゃん奈々のことチラチラ見ながら照れてる。めちゃクチャ嬉しいよ〜」
「コスプレ作戦成功だな」
「うん!」
「あとはしっかり壇上に上がれるようにせんとな」
「頑張るよ」
休憩後も、撮影依頼が止まらず、審査時間終了となった。
「くわあああ。疲れたよ〜」
「食べもん買ってくるよ」
フードエリアのベンチでどかっと勢いよく座る奈々。相当疲れたんだな。
旨いもんあればいいな。
「よく頑張ったな。あれだけ撮影依頼があれば壇上に上がれるだろう。最後までわからんがな」
「奈々もういいよ〜。疲れた〜」
「ここまできたら最後まで頑張るのだ」
「うんそうだね」
「お〜〜〜い、手伝ってくれ〜!」
「うわ!」
「これは大漁だな」
俺は3人分の食料を買い込んで、持ってきた。
あれだけ知らない奴らに笑顔を振りまけば疲れるに決まっている。
しかも初参加で、ルール、マナーも気をつけないといけない。
参加者の言動は軽いものだが、コスプレをしてる人たちには厳しい目を向けられている。
軽く聞いてるだけでも《あいつのコス可愛いのにあの喋り方はないよな》とか《ヤンキーみたいな話し方とか
マジないわ》など、印象1つとっても芸能人に変わらぬ要求をされている。
みんなキャラが大好きだから集まっていると思っていたが、求められるレベルなどは、
人間性までも評価対象になる。ある意味恐ろしい世界だ。
「2人ともスッゲー頑張ってるし、俺にできることはこれぐらいだが、思う存分食べて飲んでくれ。
足りなければ買ってくるぞ」
「ありがとうお兄ちゃん、いっただきま〜す」
「うむ。兄上気が利くな。いただくとしよう」
「俺もついてにいただきます」
なんかいいなこの雰囲気。スッゲー楽しい。
飯を食べて、結果発表の時間になりアナウンスされる。
《コスプレイベントの午前中の集計が出ました。ご参加されている方は、イベントスペースまでお戻りください》
「お、呼ばれたな。どんな結果になってるか見にいこうぜ」
「うん!」
「まあ審査は通っておるだろう」
結果は・・・・。
「「「落ちた」」」
俺たちは、壇上に上がれなかった。
何故だ?
あれだけ撮影依頼があったじゃないか!
どういうことだ?
どんな奴が受かったっていうんだ?
立ち尽くす俺たちが壇上に上がる人たちを見ると、
そこには、とてつもなく光り輝いてるコスプレをした3人の女性がいた。
本当に誰もが認めるオーラがある。
この3人は本当にアニメから出てきたような素晴らしいコスプレだった。
MCの質問にもハキハキ答え、その話し方も人気アニメのキャラの話し方を模しているし、
1つ1つが完璧。
これが本物なのか・・・。
俺たちは圧倒された。
《ここで特別に審査委員特別賞を設けさせていただきました》
《撮影者の皆さん、審査員の多くの方々から、絶対壇上に上げて欲しいと要望が殺到。
会場の台風の目となったことは皆様もご理解をしていると思います。皆さんよろしいですか?》
大歓声の中呼ばれた名前は。
奈々、泉水ちゃんだった。
「え?え?」
「うむ、皆が我らを認めてくれたのだな」
「マジかよ!すげえじゃん!!」
「お、お兄ちゃん・・・本当に奈々いいのかな?」
「ほら見てみ」
《2人とも早く壇上に上がってくれよ》《マジに2人ともやばかったよ!》《アスミやった子!素敵よ!》
「う・・・うううう」
「ほれ奈々よ。泣くのは早いぞ。壇上にいこうではないか」
「うん・・・うん」
「行って来い!!」
《皆様の優しい気持ちが、2人を讃えています。しかも、選ばれた3人の方々にも拍手をいただいています》
2人はこの会場にいる全員に祝福されているように見えた。
すごく照れながら、すごく戸惑いながら、すごく喜びながら。
本当に・・・マジすげえよ、2人とも。
少し目尻が熱くなった。
2人とも、おめでとう!本当に、心から、おめでとう!
知らない人たちが集まっても、心が1つになるって素敵ですね。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
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