血は恐いので、無かったことにしました
読みに来て下さって、ありがとうございます。
前話までは、聖女って何?それおいしいの?なお話でしたが、マルガレーテも、やる時は、ちゃんとやりますとも!
あー、ダメダメ。無性に肉まんが食べたくなってきた。
「お嬢聖女様、そのお顔は!はっ!何を御用意すれば、宜しいですか」
今の私がどんな顔をしているのかは知らないけれど、クレア、あなたの顔は判るわよ。
期待に膨らんだ鼻、目は爛々と輝き、口はどこまで横に広がるのかと言う程伸びて口角が上がる満面の笑顔。
「と、取り敢えず、蒸し器が欲しい。後、竹で蒸籠を作るからマッコイさんを連れて来てちょうだい。特別手当と試食で、釣ってきてね」
マッコイのじーさんは、私の蒸し器(蒸籠)を檜で作ってくれたけれど、竹でも作ってくれないかな?ちょっと期待しておこう。
「聖女様!こんな事もあろうかと」
サッとエルダが差し出したのは、私の蒸し器だった。
あなた、まさか。こんな物を王家の馬車に積み込んでたの!?
「え?食材ですか。何しろ、こんな修道院ですから。大した物は、ありませんよ。
お肉屋さんが寄付してくれた豚肉の屑肉が少しと、畑で取れた玉ねぎ。え?お酒ですか?消毒用に置いてあるものが少し」
孤児院の修道女が、渋りながらも色々と用意してくれる。その間に、エルダがサッサとパン種を作って濡れ布巾をかけて寝かせて発酵させる。
修道女には、その間に玉ねぎのみじん切りをお願いした。
「痛っ!」
「何っ!」
「いえ、ちょっと指を切ってしまって」
血、血がっ!?ひいっ!
「こんなの日常茶飯事ですので」
けっ、結構、切ってるわよ!血、血がダラダラと垂れてる垂れてる。いやーっ!!
私は、慌ててハンカチを取り出し、修道女の手にあてるも、ハンカチはどんどん血に染まる。
ダメダメダメーっ!神様、仏様、め、女神様!女神様!どーにかして下さいっ!
修道女の指を押さえる私の手が、ピカッと光り、ファンファーレが鳴った。
眩しっ!うるさっ!
「あら、痛くなくなりましたね」
血濡れのハンカチを取ると、あーら不思議。そこには傷一つないキレイな指が……。
「おい、どうした。凄いラッパの音が鳴ったが」
ジョルジオ殿下が手に何かを持ったまま、お兄様と護衛騎士達を引き連れてやって来た。
「せ、聖女様の奇跡ですっ!!」
修道女は自分の指を開いて掲げ、一方の聖女たる私は、血染めのハンカチを握りしめている。
何か、ちょっとわけが判んない場面かもしれない。
「私が、指をザックリ切りましたら、聖女様が一瞬で治してくれました」
ホラホラホラと指を掲げてお見せする修道女に、流石のジョルジオ殿下も怯んで一歩下がる。護衛騎士が、殿下と修道女の間に慌てて入る。
「そうなのか!凄いな、マルガレーテ。流石、聖女だ」
「……血、血とか、痛そうなのとか見てるだけで駄目なので、女神様に、無かった事にして貰いましたっ!」
誉めてくれた殿下や皆がキョトンとする中、お兄様がしたり顔で頷いた。
「あー、うん。マルガレーテだものね。うんうん」
だって!本当に、怪我とか駄目なのよーっ。見てるだけで、私まで痛くなってくるから。
それにしても、私、ちゃんと治療魔法使えたのね。あー、ビックリした。
サッと私から血濡れのハンカチを奪ったエルダは、私の手を水道に持っていって洗わせる。
「血がダメなんですから、サッサと手をお洗い下さい。気絶しちゃっても知りませんよ聖女様」
エルダに渡されたキレイなハンカチで手を拭いてホッとしていると「失礼します」と言いながら、ピンクの髪を2つに結んだ可愛い女の子が修道女の元に駆け寄った。
「メグ修道女様、ダメですよ。最近は、目がよく見えなくなってきたのに、包丁なんか持つから。私が代わりますね」
女の子は、メグ修道女の代わりに包丁を握って玉ねぎを微塵切りにしだした。
それにしても、メグ修道女。目がよく見えないのに、包丁なんか持ったら駄目だよ。危なくって仕方ない。
と言う事は、これからも包丁を持つ度に怪我をするって事で。イヤイヤイヤイヤ、痛すぎる。もう、想像するだけで痛すぎる。
『じゃあ、マルガレーテがメグ修道女の眼を治してあげれば?目がハッキリ見えたら、良いのよね?』
女神様の声が、私の頭の中に響いた。
え、でも、私が?
『聖女なんだから出来るわよ。丁度いいから練習、練習。メグの目蓋に手をかざして』
お、おっけーおっけー。や、やってみますとも。
「め、メグ修道女。ちょっと、目を瞑って下さい」
「え、は、はい」
何の事か判らないだろうに、メグ修道女はギュッと目を瞑った。
私は、彼女の両目蓋に手をかざす。
『目がよく見える様に、と祈ってちょうだい』
目、目ね。そうね。目が良くならないと、また、包丁で指を切ってしまって血塗れに。ひいぃっ!
目が良くなります様に。目がよくなります様に。目がよくなります様に!女神様っ、お願いします!
「でも、いつか私がメグ修道女の目を治してあげって、え!?何」
玉ねぎを切っている女の子の声が聞こえるけど、いつかじゃ駄目なのよ!また晩ごはんを作る時に包丁で切っちゃうでしょ。
女神様、今すぐ、今すぐお願いします!
目を瞑る私でも眩しい程の光がピカッと光り、再びファンファーレが鳴った。
「目が、目がハッキリ見えます!」
眩しさが薄れて私が目を開けると、今までショボショボと開いていた目をメグ修道女はカッと見開き、涙を流している。
「ありがとうございます!ありがとうございます聖女様!さあ、ミンティア。退いてちょうだい。玉葱の微塵切りなんて、ドンと来いですよ」
え!?……ミンティア?
これって、ひょっとして、ヒロインのイベントなの!?
「え!?何?素早っ!聖女の奇跡イベントって、もっとこう、キラキラって光って美しいスチルじゃなかった!?」
「うむ。流石、我が婚約者マルガレーテ。ピカッと光って、ラッパのファンファーレで、一瞬の治療だったな」
「傷の治療だけでなく、目の治療まで。流石、我が妹」
「「「うぉーっ!聖女様、万歳っ!(騎士一同)」」」
「えー?ちょっと、ちょっと。これって、私のイベントだったのに。何で!?」
はい、ヒロイン出てきました。はい、ようやく、マルガレーテが聖女のお仕事をしました。
肉まんは、まだ出来てません。あしからず。
聖女の初めての治療イベント発生によって、攻略対象者ジョルジオ王子、公爵令息マーチンの好感度が上がりました。
ぴろりろりーん。




