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状況把握が早すぎる元自衛官令嬢、婚約破棄を片付けたら皇太子殿下に執着されました  作者: S@Y@


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第6話:最初の任務は、お茶会の警備(サボり場開拓)です

「今日から君の初任任務だ、アルティナ。気負う必要はない、ただのお茶会の警備(留守番)だよ」


 翌朝、ルファード殿下から直々に手渡された任務指令書を見て、私は内心で盛大にガッツポーズを決めていた。


 お茶会。なんて素晴らしい響きだろう。


 前世の訓練に比べれば、ただ突っ立って優雅に紅茶を飲む貴族たちを眺めるだけのお仕事など、有給休暇(実質サボり)のようなものだ。しかも、今回の会場は王宮の広大な庭園。


(……よし、状況把握完了。あのガゼボ(東屋)の裏、ちょうど木陰になっていて死角だね。あそこに潜みつつ、視線だけ周囲に配っておけば、一歩も動かずに勤務時間を消化できる!)


 私は王宮の最高級メイド服(動きやすいように少し裾を改造済み)に身を包み、配属された庭園の構造を数秒でスキャン。最も省エネで任務を遂行できる『絶対防衛サボりライン』を瞬時に構築した。


 お茶会が始まると、色とりどりのドレスを着た令嬢たちが、次期国王であるルファード殿下の関心を引こうと華やかに談笑を始めた。


 肝心の殿下は、外面の完璧な「王子様スマイル」を浮かべながら、時折、木陰に隠れている私の方へ楽しげな視線を寄越してくる。


(殿下、私を見ないでください。サボっているのが他の護衛にバレるでしょうが)


 私は完全に気配を殺し、壁と同化する勢いで直立不動を保つ。


 風が心地いい。鳥のさえずりが眠気を誘う。これなら定時まで何も起きずに――。


 ――カチャリ。


 その時、庭園の給仕たちが手にする、ティーカップが触れ合うかすかな音が耳に届いた。


(……待て。今、銀のトレイを運んできた給仕、歩幅が狭すぎる。あの歩き方、服の下に何か重いものを隠して足元がブレているな。それに、あっちのテーブルに座っている高位貴族の令嬢――殿下に話しかけるタイミングが、不自然に計算されすぎている)


 私のカンストした状況把握能力が、またしても私の平穏を叩き潰しにきた。


 ただのお茶会だ。しかし、人の配置、目線の誘導、給仕の不審な動き。それらを頭の中で一本の線で繋いだ瞬間、私は最悪のワーストケースをプロットしてしまった。


(なるほど。あの令嬢が殿下の視線を釘付けにしている隙に、背後から近づく給仕が、遅効性の気化毒ガスが含まれた香炉をすり替える気だ。第二王子派の残党、夜会で派手に失敗したからって、今度はこんな陰湿な手を使ってくるわけ!?)


 ハァ……、と私は脳内で深いため息をついた。


 見逃して殿下が倒れれば、王宮はパニックになり、私の雇用契約(睡眠時間の保障)も白紙になる。それだけは絶対に阻止しなければならない。


(……しかたない。初日から残業(戦闘)はしたくないし、目立つのは御免だけど……)


「最速、かつ最小限の戦力で、状況を無力化する」


 私はものぐさのプライドをかけ、誰にも気づかれない『隠密作戦』を開始した。


 ス、と木陰から音もなく抜け出す。


 狙いの給仕がルファード殿下の背後に近づく、まさにその一歩手前。私はすれ違いざま、令嬢たちに紅茶を配るフリをして、その給仕の足元へ、ドレスの裾からローキック――ではなく、落ちていた小さな小石を靴の先でパチンと弾いた。


「うおっと!?」


 狙い通り、小石を踏んだ給仕が派手にバランスを崩す。


 彼の手から香炉が滑り落ちる瞬間、私は先回りしてそれを片手でキャッチ。同時に、もう片方の手で用意していた本物の高級香水を、その香炉の空気穴へシュッと一吹きした。


 毒の成分が、強烈な薔薇の香りで一瞬にして中和され、ただの良い匂いの煙へと変わる。


「おっと、失礼。足元が狂いまして。……こちらの香炉、とても素晴らしい香りですわね?」


 私は何事もなかったかのように微笑み、目を丸くしている給仕の手に香炉を戻した。


 給仕は、自分の罠が完全に不発に終わったこと、そして目の前のメイド(私)の目が「騒ぎ立てる前に大人しく退け」と言っていることに気づき、真っ青になって一礼し戦略的撤退していった。


「ふぅ。状況、終了……」


 誰も気づかないうちに、国家を揺るがす暗殺計画を秒で処理した私は、再び定位置の木陰へと戻ろうとした。


「実に見事な手際だったな、アルティナ」


 背後から、低く甘い声が鼓膜を揺らす。


 振り返ると、いつの間にかお茶会の席を外したルファード殿下が、すぐ目の前に立っていた。その瞳は、私の「完璧な隠密仕事」をすべて特等席で見届けていたと言わんばかりに、怪しく輝いている。


「殿下……。お茶会の主役が、こんな死角に足を運ばないでください」

「君が面白い動きをするから目が離せないんだ。……やはり君を側近にして正解だった。誰も気づかない毒殺の罠を、お茶を配るついでに潰してしまうなんてな。君は本当に、俺の最高の『盾』だ」


 殿下は私のメイド服の襟元をそっと整えながら、独占欲の塊のような笑みを浮かべた。


(違うんです殿下。私はただ、自分の睡眠時間を守るために、一番めんどくさくない方法で片付けただけなんです……!)


 どうやら私の「優秀すぎるサボり技術」は、この肉食獣な上司をさらに喜ばせる結果になってしまったらしい。私の有給休暇への道は、果てしなく遠かった。

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