第42話:新婚十日目の朝。……殿下、一日中ベッドから出ない公務(サボり)なんて、私の辞書にはありません!
「……はぁ。状況把握、開始。時刻は午前十時。新婚十日目の朝。一晩中続いた、マッサージ効果の全額回収(夜の猛総攻撃)がようやく終了。私は今、夫の太ももを枕にし、頭を優しく撫で回されている。状況、完全に自立不可能な駄目人間(捕獲完了)ね」
部屋中に漂う、甘いラベンダーのオイルと二人の体温の残り香。それが、昨夜のバトルの凄まじさを物語っている。
私はシルクの毛布に包まったまま、ルファード殿下の膝の上で完全に骨抜きにされていた。マッサージでHPを全回復させられた結果、昨夜はいつも以上の高負荷な実技演習を朝までみっちり履修させられ、私の自衛官としてのプライドは跡形もなくとろけ去っている。
ふと見上げると、シルクのナイトガウンを緩く纏っただけのルファード殿下が、宝石のような紫の瞳をこれ以上ないほど愛おしげに細めて私を見つめていた。その長い指先が、私の髪を優しく梳いていく。
「おはよう、アルティナ。……フッ、今朝は壁際への戦略的後退(死んだふり)をしないんだね? ずっと俺の胸に顔を埋めて、可愛いことこの上ないよ」
「……状況把握、完了。現在、私の身体機能は一時的な出力低下(重度の気だるさ)を起こしています。殿下のホールドから脱出するコストが非常に高いため、このまま『ただの抱き枕』として機能することを承認(妥協)しているだけです」
顔を真っ赤にしながら、蚊の鳴くような声で抗議する。
いつもなら「今すぐ公務へ!」と追い出すところだが、今日ばかりは私の高性能レーダーが別の情報を掴んでいた。
「ところで殿下、状況把握を。本日は週に一度の『国政完全休館日』のはず。つまり、殿下も私も、今日は丸一日公式な任務が存在しない、完璧な休日です。今すぐその男の色気をスリープモード(理性稼働)にしてください」
よし、今日こそは殿下の包囲網を潜り抜け、一人で静かに引きこもりスローライフを――。
「うん、知っているよ。だから、今日の俺たちの予定は、このままベッドの上から一歩も出ずに『一日中、愛し合うこと(合同サボり)』に決定した」
ルファード殿下は妖艶に微笑むと、私の腰をぐっと引き寄せ、再び私をベッドの真ん中へと押し倒した。
至近距離から注がれる本気の独占欲と熱量に、私の心臓は朝一番から最大戦速(大バクバク)のアラートを叩き出す。
「ちょっと待ってください、殿下! 一日中ベッドに引きこもる公務(残業)なんて、我がスローライフ憲章の規律違反です! 身体は軽くなりましたが、精神的な防衛体力が持ちません……っ!」
私が必死に胸板を押して抵抗するが、殿下はその手を優しく捕まえ、指先に熱いキスを落とした。
「拒否する。一週間死に物狂いで働いた俺への、これは最高の報酬なんだよ。ほら、大人しく俺に独占されておいで、アルティナ」
(だから、その圧倒的な愛の重さで私の休日を24時間体制でフルインフレ(侵略)するのをやめてください、この肉食獣上司ーーー!!)
そう心の中で叫んだ直後、余裕の笑みを浮かべた殿下の熱い唇が、逃げる隙を一切与えない深さで、私の唇を再び深く塞いだ。
こうして、新婚十日目の休日は、皇太子殿下の「公認・ベッド引きこもり総攻撃」によって、朝から盛大に第2ラウンドの幕を開けるのだった。元自衛官令嬢アルティナの、週休六日のスローライフへの戦線は、夫の底なしの溺愛によって、今日もベッドの上で甘く甘く溶かされ続けている。




