第五十二章『偽神』
雪山が揺れる。
地下から現れた“それ”は、
あまりにも巨大だった。
白い肉塊。
無数の腕。
蠢く目玉。
そして。
胸部には、
巨大な黒い核が埋め込まれている。
騎士たちは恐怖で後退した。
「ば、化け物……」
「こんなものが……!」
だが。
ローブの人物は、
うっとりしたように見上げていた。
『美しいでしょう?』
狂気だった。
ガブリエラは息を呑む。
違う。
これは神なんかじゃない。
苦痛の塊だ。
無理矢理集められた神性。
魔力。
人間の魂。
全部が混ざり合い、
歪に膨れ上がっている。
怪物の無数の目が、
一斉にガブリエラを見る。
その瞬間。
頭の中へ、
大量の悲鳴が流れ込んできた。
『苦しい』
『痛い』
『助けて』
ガブリエラが頭を押さえる。
「っ……ぁ……!」
ノクスが即座に支えた。
「聞くな!!」
でも。
聞こえてしまう。
あの怪物の中には、
まだ“人間”がいる。
何人も。
何十人も。
レオンハルトが剣を握る。
蒼い瞳が怒りで冷えていた。
「こんなものを、
神と呼ぶのか」
ローブの人物は笑った。
『犠牲なくして進化はない』
その言葉に、
ノクスの殺気が爆発する。
「死ね」
黒い魔力が雪山を裂いた。
轟音。
巨大な黒炎が、
偽神へ直撃する。
だが。
怪物の肉が蠢き、
傷が瞬時に再生していく。
ノクスが舌打ちした。
「再生かよ」
偽神が咆哮する。
雪山全体が震えた。
無数の腕が、
騎士たちへ振り下ろされる。
「避けろ!!」
レオンハルトが叫ぶ。
轟ッ――!!
地面が砕け、
雪が爆発する。
騎士たちが吹き飛ばされた。
悲鳴。
血。
一瞬で地獄になる。
ガブリエラの瞳が揺れる。
まただ。
また誰かが傷つく。
その時。
偽神の核が脈打った。
黒い光。
ガブリエラの胸も、
同時に熱くなる。
共鳴。
ガブリエラが息を呑む。
「……まさか」
ローブの人物が笑みを深める。
『気づきましたか』
金色の瞳が細められる。
『その核には、
あなたの神性が使われています』
静寂。
ノクスの空気が凍る。
レオンハルトも目を見開いた。
ガブリエラは血の気が引く。
「……嘘」
ローブの人物は愉快そうに続ける。
『あなたが神を殺した時、
散った神性を回収しました』
ガブリエラの身体が震える。
あの時。
世界へ散った銀色の光。
まさか。
利用されていたなんて。
『あなたは鍵です』
『その力があれば、
完全な神を創れる』
ガブリエラの胸に、
怒りが湧き上がる。
こんなために。
苦しんだ人たちを、
また利用するなんて。
偽神が咆哮した。
無数の目から、
白い光線が放たれる。
「危ない!!」
騎士たちが逃げ惑う。
雪山が消し飛ぶ。
ノクスが黒炎で相殺するが、
完全には防ぎきれない。
レオンハルトがガブリエラを庇う。
爆風。
吹雪。
混乱。
その中で。
ガブリエラは偽神を見つめていた。
聞こえる。
苦しみ。
泣き声。
助けを求める声。
そして。
その奥で。
微かに。
『ころ……して……』
誰かが、
泣きながら願っていた。




