第五十章『雪山の亡者』
『みこォォォォッ!!』
雪山へ、
無数の絶叫が響き渡る。
白い怪物たちが、
雪を巻き上げながら襲いかかってきた。
その数は異常だった。
山肌を埋め尽くすほど。
騎士たちの顔から血の気が引く。
「こんなの……!」
「数が多すぎる!!」
ノクスが前へ出る。
赤い瞳が冷たく光った。
「下がってろ」
次の瞬間。
黒い魔力が爆発する。
轟ッ――!!
地面が砕け、
黒炎が怪物の群れを飲み込んだ。
悲鳴。
焼け焦げた肉の臭い。
だが。
怪物たちは止まらない。
身体を燃やしながら、
なおも這い寄ってくる。
レオンハルトが剣を抜く。
黄金の光が雪を裂いた。
「騎士団、迎撃!!」
騎士たちも応戦する。
鋼の音。
怒号。
雪原は一瞬で戦場になった。
ガブリエラは息を呑む。
怪物たちの瞳。
虚ろなのに。
どこか苦しそうだった。
助けを求めているみたいに。
その時。
一体の怪物が、
ガブリエラの目前まで迫る。
裂けた顔。
崩れた身体。
それでも。
その口が震えた。
『た……す……け……』
ガブリエラの瞳が揺れる。
「っ……」
ノクスが怪物を蹴り飛ばす。
「迷うな!!」
轟音。
怪物が雪へ叩きつけられる。
ノクスの表情は険しかった。
「こいつらはもう戻れねぇ!」
分かってる。
頭では。
でも。
ガブリエラは拳を握る。
こんなの、
あんまりだ。
人間を壊して。
怪物にして。
捨てるなんて。
その瞬間。
塔の上から、
笑い声が響いた。
『素晴らしい』
ガブリエラが顔を上げる。
黒い塔の頂上。
あのローブの人物が立っていた。
吹雪の中でも、
金色の瞳だけがはっきり見える。
『これほど適応するとは』
まるで。
研究成果を見るような目。
ガブリエラの胸に怒りが湧く。
「あなたが……!」
ローブの人物は笑った。
『彼らは失敗作ですが、
貴重な礎でした』
騎士たちが顔色を変える。
人を。
命を。
ただの“材料”として扱っている。
ノクスの殺気が膨れ上がる。
「殺す」
ローブの人物は楽しそうに目を細めた。
『やれるものなら』
次の瞬間。
塔から黒い光が放たれる。
雪山全体が揺れた。
怪物たちが一斉に絶叫する。
『アアアアアアアッ!!』
その身体が膨れ上がる。
暴走。
神性と魔力が、
無理矢理活性化されている。
レオンハルトの顔色が変わる。
「まずい!!」
怪物たちが、
見境なく襲い始めた。
騎士にも。
仲間にも。
全てを壊そうとしている。
ガブリエラは歯を食いしばる。
まただ。
また苦しめられてる。
終わらせないと。
彼女は雪原へ飛び出した。
「ガブリエラ!!」
ノクスの声。
だが。
ガブリエラは銀黒の翼を広げる。
吹雪が渦巻く。
怪物たちが、
一斉に彼女を見る。
ガブリエラは両手を広げた。
胸の奥の力を解放する。
神性。
魔力。
その二つが、
静かに混ざり合っていく。
レオンハルトが息を呑む。
「……何をする気だ」
ガブリエラは怪物たちを見る。
苦しそうな顔。
壊れた身体。
叫び。
涙。
全部、
終わらせたい。
助けたい。
せめて。
これ以上苦しまないように。
ガブリエラは静かに呟いた。
「眠って」
その瞬間。
銀色と黒の光が、
雪山全体へ広がった。




