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プロローグ

雨の匂いがした。


夜空を裂くように雷鳴が響き、

帝都ルミナスの街並みを白く照らしていく。


ガブリエラ・エヴァンスは、

震える指先でドレスを握りしめた。


「……どうして」


その声は、

豪奢な舞踏会場の喧騒に呑み込まれていく。


シャンデリアの光。


香水の甘い香り。


貴族たちの嘲笑。


すべてが悪夢のようだった。


中央には、

愛する婚約者――レオンハルト皇太子。


そしてその腕に寄り添うのは、

義妹セレナだった。


「ガブリエラ・エヴァンス」


冷え切った声が響く。


「お前との婚約を、ここで破棄する」


会場がざわめいた。


ガブリエラは目を見開く。


「……殿下」


「言い訳は聞きたくない」


レオンハルトの金色の瞳は、

かつての優しさを失っていた。


床へ投げ捨てられる数枚の書類。


そこには、

国家機密の流出記録と、

複数の男性との密会記録が記されていた。


すべて、偽造だった。


ガブリエラには分かっていた。


だが――。


「お姉様……どうしてこんなことを……」


涙を浮かべるセレナ。


その姿に、

貴族たちは同情の声を漏らす。


「最低だわ」


「皇太子殿下を裏切るなんて」


「昔から完璧ぶっていたものね」


違う。


違うのに。


喉が震える。


声が出ない。


その時だった。


セレナがそっと耳元で囁く。


「全部、私がもらうね。お姉様」


ぞくりと背筋が冷えた。


ガブリエラは義妹を見る。


そこにいたのは、

無垢な少女ではない。


獲物を食い殺す獣だった。



雨はさらに激しくなる。


舞踏会を追い出されたガブリエラは、

一人馬車へ乗せられた。


窓を打つ雨音。


暗い夜道。


御者の顔は見えない。


ガブリエラは震えながら、

胸元のネックレスを握る。


レオンハルトから贈られたものだった。


――君だけを愛すると誓う。


かつての言葉が、

胸を切り裂く。


「どうして……」


涙が頬を伝った。


その瞬間。


馬が狂ったように叫んだ。


馬車が大きく揺れる。


「きゃっ――!?」


車輪が浮く。


崖。


落下。


衝撃。


ガラスが砕ける音。


身体を貫く激痛。


赤。


真っ赤な血。


ぼやける視界の中、

誰かの声が聞こえた。


「やっと終わったわね」


セレナ。


そして――義母。


「この子がいる限り、

あなたは永遠に二番目だったもの」


ガブリエラは、

薄れていく意識の中で理解した。


事故ではない。


殺されたのだ。


家族に。


愛した人に見捨てられながら。


冷たい雨が、

血を洗い流していく。


暗闇が近づく。


――悔しい。


――許さない。


その感情だけを残して、

ガブリエラの意識は深い闇へ沈んでいった。

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