エドワード視点11
マコトから、レイチェルが吐いていたと聞いて、居てもたってもいられずに、マコトとの話を中座してレイチェルの部屋に走って来てしまった。
レイチェルは無事なのだろうか。
焦る気持ちを押さえながら、レイチェルの部屋のドアをノックし、中に入る。
「レイ。調子はどうだい?マコトからレイに会ったときに吐いていたと聞いて、心配して飛んできてしまった。マコトももっと早くレイのことを教えてくれればいいものを・・・」
レイチェルは何か考え事をしていたのか、ノックの音には気づいていなかったようで、驚いてこちらを見てきた。
レイチェルは驚くと目がまんまるになるのが、とても可愛い。
思わず、撫でてまわしたくなるほどだ。
ソファーに座り込んでいるレイチェルが、慌てて立ち上がるのが見えたので、私はさっと、レイチェルの隣に腰かけた。
「妊娠中には良くあることですわ。私が吐くたびにいちいちこちらに来ていたらエディの身が持ちません」
女性が妊娠すると具合が悪くなるというのは聞いたことがあった。
それでも、レイチェルはこんなにも美しく、天使のような女性なので妊娠しても具合が悪くなるだなんて思ってもいなかった。
妊娠というのは、女性に負担を強いることなのだと改めて気づかされる。
私は私のエゴで、レイチェルと早く結婚したいがために、レイチェルを妊娠させたが、こんなに苦しんでいるレイチェルを見ると不安になる。
私は、間違っていたのだろうか、と。
「そうなのか。この子はレイを苦しませているのか?」
レイチェルのお腹に手を当ててみるが、まだ、ここに私とレイチェルとの子がいることを感じることができない。
それほど小さな小さな命なのに、生きようと一生懸命に存在感を訴えて、レイチェルの体調を悪くさせる。
そうすることで、母体に気づかせているのだろう。
自分はここにいる、と。そうして、だから無理をするなと。
「そういうものなんですって」
「・・・ふむ」
理屈ではわかっているのに、やはりレイチェルが苦しんでいるのは見ていられない。
「レイが苦しんでいるのは見ていられないな・・・」
小さく呟けば、レイチェルはその言葉を拾ってしまったようだ。
眉根をよせて、こちらを見つめてきた。
「なにかおっしゃいましたか?」
その不安気に揺れる瞳もかわいいと思ってしまうのはいけないことだろうか。
「いや、なんでもない」
つわりで苦しんでいるレイチェルに私はなにをしてあげることができるのだろうか。
レイチェルのお腹の子に語りかける。
元気に生まれておいでと。
そして、君がそこにいることにはレイチェルも私も気づいているのだから、レイチェルを苦しまさせずに、産まれるまでゆっくりとしていてほしいと。
「エディがそばにいるとこの子も落ち着くのかとても気分が良いです」
レイチェルがお腹を優しくさすりながら言う。その表情は菩薩のようにも見えた。
「じゃあ。私はずっとレイのそばにいなければね」
「ダメですよ。執務はしてくださいね。皇太子殿下が率先してサボってはなりません」
「ふふっ。執務よりもレイの方が大切だからね」
おどけて言えば、レイチェルもほんのりと色づいたように微笑んだ。
そうして、落ち着いたのか安心したのか、私の肩にそっとレイチェルの重みがかかる。
「ご自分のこと、この国のことも大切にしてくださいね」
レイチェルの頭を優しく撫でながら、「もちろん。」と返事をした。
でも、一番はレイチェルだから。
国も自分のことも二番目にしかならないんだよ。と言うことは告げずに胸にしまいこむ。
言ってしまったら真面目で優しい天使のようなレイチェルは眉をしかめるだろうから。




