18 複雑怪奇
日が、昇る。
夜が、明ける。
私が、こわれる。
「アハッ、キャハハっ!」
自己同一性、アイデンティティーが崩れ去る。つまり私はここにはもういない。南条静乃は死んだ。ここにいるのは心が死んだプログラム。人間などではない。
「これで、自由だ。自由はこの手の中にあるっ!」
コマンドというチカラも手に入れた。私は神なんだ。この世界の神様なんだ。だから生きてるんだ。生かされてるんだ。死ぬことも許されずに。
楽しい。
苦しい。
つらい。
それとも、あれか。
絶対的なまでの優越感というやつか。私は神なのだから。
神に悩みなどあるはずがない。でも、しいて言うのであれば……
「私は、誰なの?」
それが知りたかった。名前しかわからないこの器に入っていたものが知りたかった。私は私であって私ではないのだから。
「私はどこに行けばいいの?」
今いるのは壁のすぐそば。この向こう側の世界が見たかっただけなのかもしれない。ただ、答えが欲しかった。この壁の向こう側にあるであろう答えが。
だから川を渡った。だから壁をのぼった。答えが欲しかったから。この場所であれば、存在するのは東京のはず。
東京ならば間違いなく人間がいるというのはわかっている。誰かと話すことが出来れば、何かが変わるかもしれないという期待を抱いて。
でも、なにもなかった。
壁の向こう側には、なにもなかった。
なにも、見えなかった。
どうしてか、わからなかった。
私には、どうしたらいいのかわからなかった。
どうするのが正解か、わからなかった。
だから叫んだ。私が私を取り戻すために。私が私を見つけ出すために。失われた私を奪い返すために。いや、どれも違う。私は、それしか知らなかった。だからそんなことしか出来なかったのだ。
「……なにも、無いの?」
なにも、無かった。
「どこに行けばいいの?」
行くあてなどあるはずか無い。
「私は、どうすればいいの?」
そんなこと、聞かれたって困る。人間という生命体は絶滅したのだから。私が、滅ぼしたのだから。
究極にして終焉。無駄というものが全て省かれた最高の世界。ああ、ここには善も悪も何もない。存在するのは私と、人間以外の生物。
思考というものが入るスペースはどこにも無く、私は一人孤独の中でわめき続ける。何もない虚空、その中心で。
「もう、飽きた」
たったの三時間も経っていないのに。全能感などいらない。私が求めていたのは何だ。思い出せない。わからない。
それでも、逃げられない。試しに壁から身投げしても、何も起こらなかった。水面はノーダメージというのはゲームの中だけのお話だし、そもそも私が落ちたのは河川敷の砂利の上。
「もう、嫌だ」
誰か、この地獄を終わらせてはくれないだろうか。
そう願いながら私は眠りにつくことにした。
ただひたすらに狂い咲く花。




