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文無し主人公(仮名)ちゃん

 怒りに任せて、強奪した救急車に、主人公(仮名)ちゃんと、ガベジくん、メルポメネーを載せたまま、ひた走るアタシは、手賀沼沿いの道から、田園地帯を抜ける道路へと向かったわ。

 行く先は、人気のないところだけど……救急車みたいな目立つ車、どうすればいいのかしら?

 

 「ね、ガベジくん。

  この辺で、何時間か、誰も通らないような辺鄙な場所知らないかしら?」

  

 血まみれの主人公(仮名)ちゃんの体を、どうにか手当てしようとあたふたしていたガベジくんは、あわててる人特有の、妙に光る目つきでアタシを見たわ。

 

 「むん……ゴルフ場のそばか、公園のはずれですかね。

  でも、どこに行くんですか? 先輩。いまは病院に行かないと、主人公(仮名)はどう見ても、重傷ですよ!

  と思う」

 

 「そうですわ、お姉さま。

  今は、とりあえず病院ですわよ」

  

 ガベジの意見に賛同するメルポメネー。

 

 まったく、どいつもこいつも、ちょっとぼけてんじゃないかしら!

 

 「あのね、主人公(仮名)ちゃんのようすを、よくごらんなさいな。

  それが、助かるようなケガかしら?

  いいえ、むしろ、まだ生きているの?」

  

 「むん……わからないけど、まだ、息はしているような。と思う」

 

 ガベジくんは、一縷の望みにしがみつき、ありえない希望的観測を言ってるわ。

 必死の形相で、主人公(仮名)ちゃんの頭部や、胸部を、血だらけになるのもものともせず、手探りしてたりするの。

 

 さすがに、メルポメネーは無言で、白けた表情をみせつつ、そんなガベジくんを眺めているわ。

  

 「ま、助かるとは到底思えませんけれども。

  頭の横から、脳組織が出ているし、胸部はろっ骨が折れて、へこんでいますから、肺挫滅しているようですし、腹部の急速な膨張は、複数の臓器が破裂したことによる内出血でしょうかね。

  両手足も見たまんまで、複雑骨折していますし、これはどうにもなりませんわねえ。

  病院に到着しても、お医者さんに死亡確認してもらうのが、関の山ですわね」

  

 「大事なのはそこよ」

 

 合点のいかないメルポメネーに、あたしはまどろっこしいな、いい加減にしろよ、とイラつきつつも説明。

 

 「死亡確認されたら、主人公(仮名)ちゃんの死が、この世界でますます確定されちゃうじゃないの!

  どうして、メルポメネーの、非現実的な目くらましを、無茶を承知で、多数のギャラリーに見せたと思ってるのかしら?

  主人公(仮名)ちゃんが、車にひかれたという現実を、あやふやな幻覚のひとつだと、認識させるためなのよ。

  つまり、主人公(仮名)ちゃんの死体があるという事実を、アタシたちは、絶対に他の人に知られちゃいけないわけ」

  

 「ですが、死んだのは事実でしょう?

  それを覆すことなどできるわけありませんわ」

  

 「むん……死んだ死んだって、まだ主人公(仮名)が死んだとは決まってない! と思う!」

 

 アタシとメルポメネーの会話を聞いて、ガベジくんがわめいているけど、うっさいわね、こいつ。

 当然、アタシは、ガン無視よ。

  

 「できるわよ。

  誰にも、主人公(仮名)ちゃんの死が、事実だと知られさえしなければ。

  だからこそ、アタシは、人に見られないような場所を、尋ねてるんだってば!」

 

 怒ったような顔で、アタシを見るガベジくん。

 

 「むん……つまり、先輩は、主人公(仮名)を隠したいということですか? と思う」

 

 「やっとわかってくれた?

  だったら、早くいいスポットを教えてちょうだいな。

  死体を隠せる場所の」

  

 二人は、ドンびきしたようすで、アタシを見つめたわ。

 

 「いや……それって、お姉さま?

  犯罪行為じゃないですか。

  ……死体遺棄ですわよ」

  

 「知ったことじゃないわ、赤の他人が決めた法律なんか。

  アタシは自分がやるべきだと信じることををやるだけよ」

 

 ますます、アタシを異物のように見る二人。

 も~! 何だって言うの?

 

 アタシ、ヘンなことは何一つ言ってないわよね???

 さて、主人公(仮名)ちゃんは、どうしているかしら……

 って、死にかけているのよね。

 

 そして、その魂は、すでに肉体から抜け出して、あの世に行こうとしているわ。

 

 死者が、ハーデース様の治める冥府へ行くには、途中にある河を渡るんだけど、そこで冥府の渡し守、カローンにお金を払わないといけないのよね。

 

 だから昔のギリシアでは、死者の口の中、ベロの下にオボール貨を入れるなんて習慣があったんだけど、今じゃ、そんなことしてる人なんて誰もいないでしょ。

 ここ、ニッポンは火葬の国だからよけいにそうよね。

 

 ちなみに、お金が無くて、冥界に渡れない人は、一説には二百年くらい、待ちぼうけを食らわせられるというから、ひどいモノよ。

 そういえば、カローンは、そういう川岸に溢れている人を使って、大規模に渡河ビジネスを展開しているといううわさを聞いたことがあるわ。

 そこでは、円が使えるのかしら……?

 ドルなら、両替してもらえそうだけどねえ。

 

 主人公(仮名)ちゃんは、いきなり、おかしなところにいる自分に気が付いたわ。

 濃霧に包まれて、なんかお線香とかの匂いが立ち込めたそこは、うすら寒くて、どうにも居づらい場所だったのよ。

 

 (あれ……なんだろここ。

  わたし、たしか鳥の博物館から、ガベジが出てきたとこまでは覚えてるんだけどな……)

  

 ふらふらと歩きだす主人公(仮名)ちゃんだけど、不慮の死だから、残念ながら、一文無しよ。

 

 でも心配しないで。

 

 アタシがきっと、生き返らせてあげるから!

 春だから、雨が降ったりすると急に温度が下がるわよね~! 日中は、雨がしとついていても、日焼けしないし涼しいから、ラッキーと思っていたけど、夜はちょっと冷えるわ。

 ところで、次回の主人公(仮名)ちゃんは、どーなっちゃうのかしらね……?


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