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小さな異能者たちの秘密のレッスン ~雪の日の千里眼と約束~

窓の外では、音もなく白い雪が降り続いていた。灰色の空から舞い落ちる雪片が、ルミナリア・リヴィエール家の広い庭園を白銀の世界へと変えていく。

しかし、分厚い石壁と重厚なカーテンに守られた屋敷のサロンは、春の陽だまりのように暖かかった。壁際の大きな暖炉では薪が赤々と燃え、時折パチパチと心地よい音を立てている。部屋の中央に敷かれた柔らかな絨毯の上で、三人の幼い少女たちが静かな時間を過ごしていた。

「空間跳躍(くうかんちょうやく)のやり方を教えるね」

暖炉の柔らかな火明かりに美しい髪を照らされながら、五歳のルシアが目を輝かせて言った。セレスティア親王家の血を引く彼女は、冬の冷たい空気にも負けない凛とした気品と、どこか神秘的な魔力の気配を纏っている。その視線の先には、温かいルームウェアに身を包んだ三歳のココロギが、ちょこんと座っていた。

少し離れた壁際では、同じ五歳のヴィオが静かに控えている。聖都クリスタルヘイムの孤児であった彼女を、ルシアがセレスティアへと連れ帰ってからというもの、ヴィオは小さな侍女として常に主の傍らに寄り添っていた。テーブルに用意された温かい果実茶の湯気を気にかけながら、ヴィオは主であるルシアと、まだあどけなさの残るココロギの様子を、穏やかな眼差しで見守っている。

「くうかん、ちょうやく……」

ココロギは、聞き慣れない言葉の響きを確かめるように、小さな唇でゆっくりと繰り返した。母親のアマンダと共にこの屋敷に預けられたばかりの彼女は、自身の中に眠る強大な異能の力をまだよく理解していない。それでも、暖炉のそばで微笑む美しいお姉さまが教えてくれる特別な「おまじない」に、くりくりとした大きな瞳を期待で潤ませていた。

ルシアはそんなココロギの冷えていないか確かめるように小さな手をそっと取ると、少しだけ得意げに胸を張って微笑んだ。

「いい? 数歩先に行く時はね、自分の身長の二倍か三倍の高さから、お部屋の床を見ているのをイメージするの」

ルシアは小さな人差し指を天井へと向け、まるで空中に見えない絵を描くようにくるりと回した。

「そうして、行きたい点を意識するの。あそこに行きたいな、って。……そこに行くよ! いち、にー、さん!」

軽やかな掛け声とともに、ルシアの足元から雪の結晶のように淡く輝く光の粒子がふわりと舞い上がった。次の瞬間、空間がわずかに揺らいだかと思うと、ルシアの姿はふっと消え、数メートル離れた雪景色の見える大きな窓辺へと、音もなく現れた。

「わっ……!」

ココロギが息を呑み、それからパッと顔を輝かせて小さな両手を叩いた。

「ルシアさま。すごい。すごい! すごーい!」

絨毯の上でぴょんぴょんと小さく跳ねながら喜ぶココロギの姿に、ルシアは満足そうににっこりと笑い、軽やかな足取りで再び暖炉のそばへと戻ってくる。少し離れた場所で控えていたヴィオも、その見事な跳躍に小さく感嘆の息を漏らし、主の誇らしげな横顔に目を細めた。

「ふふっ、すごいでしょ?」

ルシアはココロギの目線に合わせるように絨毯の上に腰を下ろし、さらに大切な秘密を打ち明けるように声を潜めた。

「でもね、遠くに行きたい時は、もっとすごーい高い所からその目的地をイメージするの。お空の上から、雪の積もった町や森をぜんぶ見下ろすみたいにね」

「おそらのうえ……」

ココロギはきょとんとして、窓の向こうに広がる白い空を見上げた。

「だから、行ったことがある所に行くのは簡単だけど、行ったことがない所に行くのは難しいの。頭の中で、その場所の景色が思い浮かばないからね」

ルシアの言葉は、五歳児とは思えないほど理路整然としており、強大な異能を自在に操る者ならではの確かな感覚に裏打ちされていた。

「そんな時はね、千里眼(せんりがん)を使って、行き先をイメージするといいわ」

「せんりがん」

再び難しい言葉に出会い、ココロギは首をこてんと傾げる。その愛らしい仕草に、ルシアは思わずくすっと笑みをこぼした。

「千里眼の練習はね、とっても簡単よ。私がアクアパレスに帰ったら、『ルシアちゃん、今は何をしているのかな?』って、目を閉じて強く念じて練習してみるといいよ」

「るしあちゃん、いまは、なにをしているのかな……って?」

「そう。そうすればきっと、遠くにいても私の姿が見えるようになるから」

ルシアはココロギの柔らかな頬にそっと手を添え、優しいお姉さんの顔で微笑みかけた。寒い冬が来て、離れ離れになっても、またいつでも会える。そんな温かな約束のような言葉に、ココロギの不安げだった瞳がふわりと和らぎ、こくりと力強く頷いた。

暖炉の火が再び小さく跳ね、室内を柔らかな温もりで満たしていく。窓の外では雪が降り続いていたが、偉大な異能者としての道を歩み始めたばかりの少女たちの間には、春にも負けない温かで輝かしい時間が流れていた。

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