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第6話

翌朝。


「………眠い」


 ユーリはぼそりと呟いた。


 本来ならば、こんな言葉は彼の口から出ない。不眠Ⅲというスキルのおかげで睡眠時間は少なくても平気な体質だ。だが今回は別だった。


 迷宮攻略。

 大白蛇との死闘。

 爆発。

 瓦礫。

 借金増加。


 疲れが取れたとはいえ、精神的な疲労は残っていた。


「ユーリ様、おはようございます」


 となりのベッドから声がした。


 銀髪の少女、シル・フォルディスが綺麗に姿勢を正して座っていた。すでに身支度も終わっている。


「……早いな」

「ユーリ様が起きるのを待っていました」

「いや起こしてくれていいんだが」

「ユーリ様が寝ていたので」

「そうか」


 この少女、妙なところで律儀である。

 ユーリは大きく伸びをしてベッドから降りた。


「それじゃ行くか」

「はい」


 2人は宿を出た。



 王都ソルテーラ。


 世界でも最大級の都市であり、大迷宮が存在している迷宮都市でもある。

 その北部にはモジャール大森林があり、南部にはユーロン大山脈がある。つまり大規模な自然に挟まれている都市なのだが、大迷宮から発掘される魔石が都市運営を担っている。

 また王都周囲には大迷宮から派生した眷属迷宮、またの名を小迷宮がポツポツと存在している。王都には世界有数の権力者もおり、彼らを迷宮から発生する大氾濫から守るために魔石の値段は他都市よりも高くなっている。つまり、成り上がり、大金を手にするにはうってつけなのだ。そしてそんな王都の冒険者ギルド本部にて、


「此処だ」

「此処でございますか………」


 ならず者たちの総本山。とも呼ばれる建物の正門、その前にユーリとシルは立っていた。高くそびえ立つこの建物は周囲に日光関係の苦情とか来ないのだろうか。


「でっけえな」

「王都ですから」

「そういうもん?」

「そういうもんです」


 多分違うが、そんな自信満々に言うなら多分そうなのだろう。

 冒険者ギルドの正門の上には朱色をベースとした剣と杖が交差してマークが描かれていた。


「この正門の上にあるマークが冒険者ギルドの印だ。このマークがある建物、組織は大体ギルドの息がかかっている」

「ええ、その通りです」


「知っていたのか」とユーリが口にする。その目線の先には剣と杖がクロスしている。観光気分はユーリだけだったようだ。


「それじゃ、入るぞ」

「はい、お邪魔します」


 ユーリが両開きの扉を開けて、シルが続く。騒いでいたガラが悪い冒険者たちは一際美しい少女と目つきが悪い少年の登場に静まり返る。いやおそらくシルだけを見ている。ユーリのことは彼らの目には入っていないだろう。


「……なんというか静かだな」

「そうでございますね。あら」


 シルが何かに気づいたように口を開けて手のひらを当てる。その視線の先にいたのはメガネをかけている線が細い男性だった。彼はやけにびっくりした様子でワナワナと震えていた。


「し、シルちゃん!!」

「シルちゃん?」

「お久しぶり……というわけでは無いですね。おはようございます。ベンジャミン様」


「知り合いか?」と意味を込めてシルに視線を送る。彼女はこくんと頷き肯定した。ベンジャミンと呼ばれた男性は顔を真っ赤に染めて右手と右足を同時に出しながらこちらに歩いてきた。


「や、やあ。シルちゃん。久しぶりだ、だね。ぼ、僕が送った魔術巻物マジックスクロールは、や、役に立ったかい?」

「ええ、とても。ありがとうございます。ベンジャミン様」

「こ、ここ、ここにいるってことは冒険者になるんだよね?も、もし良かったらぼ、ぼぼ、ぼくと」

「申し訳ございません。ベンジャミン様。もう組む方は決めております。行きますよユーリ様」


 ゴニョゴニョとするベンジャミンを置いてシルがユーリの手を引いて歩き出した。


「おい、いいのか?つーか誰?」

「いいのです。以前魔術巻物をいただきましたが………なんというか、その」

「そう……お前がいいならいいんだけどさ」


 ユーリは自分にささる大量の視線を自覚している。大方、嫉妬の類だろう。その中でも一際強い視線は先ほどのベンジャミンと呼ばれる男から向けられている。


「はあ、面倒ごとの予感だ」

「なにかいいましたか?」

「いいや、なんでも無い」


 そんな会話をしながらようやく受付嬢のところまで辿り着いた。受付嬢は周囲の状況に呆れながらこちらに口を向ける。


「冒険者ギルド、王都ソルテーラ本部へようこそ。今回はどのような要件でしょうか?」


 彼女の問いにユーリが口を開く。


「冒険者登録がしたい。勇者ステラから推薦が来ているはずなんだが、知らないか?」


 本来なら丁寧な言葉で話すべきなんだろうが舐められるかもしれないから丁寧さを無くす。そんなのは神も嫉妬する容姿をもつシルだけで十分だろう。


「ーーーっええ。推薦状が今朝届いていました。お二人はユーリ・シズナリカ様とシル・フォルディス様でお間違いないですね?」

「ああ、間違いない」

「私も、ユーリ様とおなじく」


 受付嬢は手元の資料をよく見る。念写の魔術で描かれた似顔絵もよく似ている。なら、間違いないだろう。受付嬢は確信した。この2人が冒険者ではないのに迷宮に潜った大馬鹿者なのだと。


「まあ、いろいろ言いたいことはありますが、今はいいでしょう」

「今は?」

「ええ、今は。ひとまず性能の確認をお願いします」


 受付嬢はひとまず登録へと入ることにした。ユーリとシルは言われるがままに右手の甲を出しその言霊を告げた。


「「【我が性能を示せ】」」


 すると右手の上に文字が浮かび上がる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《身体能力》

lv.Ⅰ


《スキル》

剣術Ⅰ

敏捷Ⅱ

暗視Ⅱ

不眠Ⅲ


《魔法》


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《身体能力》

lv.Ⅰ


《スキル》

魔力Ⅲ

感知Ⅱ

聴覚Ⅳ

復讐Ⅶ


《魔法》

【|この命、貴方のおかげで《ウィータ・メアペルテ》】

・魔断結界

・結界内回復効果あり


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なるほど」


 受付嬢は性能を見て呟くとすごい速さで手元の紙に写し出した。


「シズナリカ様に魔法は無し。性能は普通。フォルディス様には魔法があり、性能は一部以外普通と」


 小声で囁くと記しおわった紙を銀盤に乗せ魔力を込める。紫色に輝くと銀の板をこちらに差し出した。


「こちらがお二人の冒険者ギルド所属の証明となります。身分証としても使えますので無くさないでください」


 その銀の板には名前と正門の上にもあった剣と杖のマークが彫られていた。


「本来ならば試験としてギルドが捕獲している魔物と戦っていただくのですが、お二人には推薦が出ていますので免除となります」

「ああ」

「分かりました」

「さらにあちらが依頼を受ける為の依頼掲示板クエストボードになります。あちらから紙に書かれている依頼を剥がしてこちらに持って来れば依頼受注完了となります。依頼には条件があることもあるので気をつけてください」


 受付嬢はあらかた言い終わるとまっすぐこちらの目を見た。


「それでは、今よりお二人は冒険者です。お二人の成功を冒険者ギルドは祈っています」

「ああ」

「ありがとうございます」


 ユーリとシルは冒険者になった。

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