我、君ヲ想フ/二人用(男女比1:1)ラブコメ風
清水:女性
係長:男性
台本置き場、ボイストランドへも掲載
清水:ちょっと、飲み過ぎちゃったみたいだから風に当たってくるね
清水:(N)そう言って私は、課の飲み会を抜け出した。ふと空を見上げると、綺麗な細い月が夜を照らしていた
係長:月が綺麗ですね
清水:あ、係長
係長:「あ、係長」じゃなくない?
清水:係長は係長ですよね
係長:じゃなくてさ、せっかくお洒落な感じに話しかけたのに
清水:あー、月が綺麗ですねって
係長:そうだよ
清水:昨日、雨で空が掃除されたんでしょうね。今日の月はいつもより輝いてる気がする
係長:あー、そうですか
清水:もしかして、漱石が言ったという逸話の方ですか
係長:そうだよ。英語の教師の時に「I love you」の訳を「我、君ヲ愛ス」と答えた生徒に「日本人なら『月が綺麗ですね』とでも答えなさい」ってやつ
清水:あぁ、それって当時だから成立する話ですよね
係長:当時って事は明治とか大正とか?っていうか、漱石いつ死んだの?
清水:知らないけど、明治くらいに生きた人じゃないですか。そんなことより、私の話の続き聞いて下さいよ
係長:あ、はい。お話邪魔して、すいません
清水:本当ですよ。それでね、その位の時代だと、電話も無い。って事は、「月が綺麗ですね」って伝えられるって事は一緒に眺めていた。という事だと思うんです
係長:確かに、そうかもね。それ前から思ってたの
清水:そうですね。前からそんな風に考えてました。でも、話す機会無かったし。この説、係長が初めて聞けるんですよ。喜んでください
係長:ウン、ヤッター
清水:心無い言い方ですね。
係長:仕方ないよね。俺、漱石なんて学校で習った『こころ』しか読んだことないもん
清水:そう来たか―
係長:そう来たよ。で、清水さんは漱石読んだことあるの
清水:私も『こころ』だけです。しかも授業で習う所って。確か、主人公と友人と三角関係のもつれで、友人が自殺するあたりでしたよね
係長:そうそう。俺その襖に血が飛び散ってる感じ、本気で想像しちゃって怖かったー
清水:授業中に何考えてるんですか
係長:汚れた襖の事?
清水:ふふふっ
係長:やっとご機嫌になってみたいだね
清水:私はいつもご機嫌ですよ
係長:そうかなー。最近なんか落ち込んでいたように見えたけど
清水:気のせいですよ
係長:そっかー、気のせいか。疲れているから飲み会から逃げたのかなーとかも
清水:もしかして、心配掛けていたんですか
係長:仮にも上司ですからね。えっへん
清水:「えっへん」って可愛い子ぶる上司もなぁ。でも、ありがとうございます。気遣ってくれて
係長:良いよ良いよ。俺の半分は優しさで出来てるから
清水:お薬ですね
係長:そうそう、用法用量を守ってご利用ください
清水:何に?
係長:何にって?
清水:用法用量を係長の何に対してですか
係長:優しさ?
清水:半分が優しさで出来てるんですもんね
係長:そうですよ。えっへん
清水:残りの半分は、何で出来てるんですか
係長:あー、そっち聞いちゃう?
清水:いや。割と、どうでも良いです
係長:さっきも言いましたけど。俺、仮にも上司です
清水:はい、知ってます
係長:さっき清水さんが言っていたことの続き。俺も考えちゃった
清水:どの話ですか
係長:当時の「月が綺麗ですね」
清水:あぁ。はい。それがどうかしましたか?
係長:きっと、恋人……せめて婚約者とかじゃないと一緒に見られないよね。じゃないと、女性の名誉に傷がつく
清水:きっと、そうですね。なので現代に感謝してください
係長:え、なんで
清水:現代だから係長は私と一緒にこうして今、月が眺められるんです。あ、でも!!
係長:ん?どした?
清水:その逸話、文献に残ってないから事実かどうか分かんないんですって
係長:へー、そうなんだ
清水:とは言え、別にその時の生徒さんが嘘つく必要無いですもんね
係長:うん、そんな嘘つく必要は無いね。漱石に教わった事自体が逸話として強いし
清水:ですよね。なら別に事実でも良いのか
係長:そうだなぁ。誰かが捏造したのかも
清水:何のための捏造ですか
係長:そんなの、「漱石っぽさ」だよ
清水:漱石っぽさの捏造……?
係長:想像力と国語力の高い、文学の人。って感じへ見せようとする人の思い付きって言うか
清水:そんなことで捏造するかなぁ
係長:じゃさ。俺との関係、捏造して付き合っちゃおっか
清水:全然、話が見えないです
係長:現代じゃなくても、ずっと一緒に眺められるように。だよ
清水:いや、それはいいかな
係長:えー。俺、頑張ったのにー
清水:さっき係長、私に言ったじゃないですか。落ち込んでるように見えたって
係長:うん、言ったね
清水:……。……失恋したんです
係長:うん、なんとなく気付いてたよ
清水:そっか。そんなに私、分かりやすいですか
係長:うーん。俺だから分かったのかも
清水:係長だから、分かった?
係長:清水さんの事、よく見てるから
清水:係長は皆の事、よく見ていてくれるのは知ってます
係長:そうじゃなくて。清水さんの事は、特別って事
清水:なんか、それって。告白に聞こえちゃいますよ
係長:そうだよ。振られて傷ついている好きな女性の味方をするフリして、付けこもうとしてるんだよ
清水:うわ、最低の発言聞いちゃった
係長:わーい。俺、最低だってー
清水:喜ぶ場所じゃないですよ
係長:最低な時に伝えたのは事実だからね。でも、前向きに考えて、俺の気持ち。すぐじゃなくて良いからさ
清水:なんで、こんな時に
係長:うーん?そろそろ戻ろっか。じゃないと、他の奴等に何か疑われちゃうー
清水:あ。なんかあると思われたら困りますもんね。係長、さっさと戻りましょうか。先に行きますねー!!
係長:(ぼそりと)今日の月も綺麗だね




