カーティス3
良く手入れされた庭園の中で、キラキラと何かが光っていた。
そこになにがあるのか。なにか宝物でもあるのではないか。
余りにも幼い発想に捕われ、意気揚々とそこに足を踏み入れたわたしは。
そこで両足を抱えて座り込む『その人』を見つけた。
自分と同じ歳か、少し上くらいの子供。前髪が異常に長くて顔の半分が隠れてしまっているので、性別がわかりにくい。が、身につけているもので判断するならば男、だ。
キラキラと光っていたのは彼の銀色の髪。
そう思って、いやそうではないと気がついたのは一拍おいてから。
光っているのは髪じゃない。
もっと内側。あふれ出る魔力がキラキラと光っている。
たまにこうやってキラキラ光る魔力を持った人間を見たことがあるが、ここまで美しい光を放つ人間は始めてみた。
キラキラキラキラ。
まるで宝石みたいな輝きを放つ『その人』が余りに綺麗で。
わたしは、顔も良く見えない『その人』に完全に魅入られていた。
住み込みで働く使用人の子供?
そう思って、いや違うとすぐに自分で自分の考えを否定した。
これまでも使用人の子供であろう子らを幾人か見かけたが、『その人』は彼らとは明らかに違った。
身につけているもの、服、靴、タイピンに至るまで。全てがわたしの目から見ても一級品だった。
けれど決してそれだけじゃない。
身につけているものがたとえ襤褸だったとしても、『その人』はきっと特別に見えた。
なぜなのか、とか。どこがどう違うのか、とは説明しづらい。
いうなれば、存在感が、とでもいうのだろうか。
その人の周りだけやけに空気が濃い。発せられる魔力が、すごく綺麗で目が離せない。存在そのものに魂が強烈に惹きつけられる。
────・・・この人は特別な人だ。
ドキドキと、物凄い宝物を発見をしたかのように胸がときめいた。
『この年にしては落ち着いている(子供らしくない)』『物怖じしない(感情の起伏が乏しい)』と評されていた当時のわたしにしては、とても子供らしい感情だった。
誰だろう?
すぐに興味を惹かれた。知り合いになりたいと思った。名前を聞きたいし、名前を知ってもらいたいと思った。なのにこんなに近くにいても、かけられた強力な隠遁術のせいで認識してもらえない。
それがひどくもどかしかった。
目の前に座り込む、この人は誰なのか。
屋敷の主である老夫婦の孫だろうか? けれど彼らに子供はいないと言っていた。
では自分と同じように、余所から来てこの屋敷に世話になっている誰か・・・?
そこまで思って、すぐにピンと来た。
『その人』の綺麗な銀色の髪。
これほど綺麗な銀髪はそうそういない。
自国でも、銀髪はクロス公爵だけ。
ここには兄も来ていると言っていた。そしてその兄が、母を捨て逃げ込んだ先が、クロス公爵家だったはず。
であれば、この人は・・・。
『アッシュフォード クロス公爵令息』
きっと、そうだ。間違いない。
何度か遠目に姿を見たことがあったが、彼も確かこんな綺麗な銀の髪をしていた。
『凄まじく優秀で何をしても同年代の誰よりも頭一つ分秀でている』という噂を何度か耳にしたことがある。
この強烈なまでの存在感。魂が透けて見えるような綺麗な魔力。
間違いない、彼は・・・・・そこまで思ったとき出発前に聞いた母の言葉が、ちらっと頭を過ぎった。
『自分の目で兄上をよく見てくるのですよ』
・・・・兄上・・・?
一度も会ったことのない兄の存在を思い出した瞬間、無意識に眉がより顔が不機嫌にしかまった。
違う、この人は兄ではない。
嫌われ者の兄は、死鳥のような真っ黒で汚らしい髪色をしていると聞いた。
なにより『この人』の身体からあふれるキラキラと輝く魔力。魔力は魂と深く結び付いている。
誰からも嫌われ憎まれる兄が、こんな綺麗な魔力を、そして魂をしているはずがない。
だから『この人』は絶対に兄ではありえない。
この人はアッシュフォード クロスだ。
そうしてわたしは、強烈に惹かれた『その人』。
髪を銀色の染めたルーナルド兄上を、クロス公爵令息のアッシュフォードだと思い込んだまま。
幾日も彼の後を付き纏った。
本編では描写がありませんでしたが、カーティスは慧眼を持っていて、それにより普通は目に見えない魔力(魂)が視えます。
それをいかして、ルーナの助けになりそうな軍人さんのところに自ら出向きその人の本質を見分けていました。
ルーナは、魔力の違いにより魔力だけで人を判別出来ます。




