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世界が平和になったら・・・。

「制御は僕が行う。お前は魔力回路を切ることだけに集中しろ」


そう宣言された通り、あれほど不安定だったルーナルドの魔力は更に美しく制御されて。

時間が経つごとに精度と密度を増していく。

それとほぼ同時に、膨大過ぎて圧さえ感じていたユーフェミアの魔力までもがゆっくりとだが確実に押さえ込まれていった。

ユーフェミア自身の力もあるだろうが、それを先導しているアッシュの存在が大きい。

他人の魔力に外から干渉することは相当難しいはずなのに。

アッシュはルーナルドとユーフェミア、二つ魔力制御を同時に、しかも完璧に行っている。

全く、どれほど規格外なのかとルーナルドは感嘆の息を思わず吐き出した。

だが彼のずば抜けた才能は今までにも何度も体験し、何度も助けられた。

そして彼は『やる』といったことは必ずやり通す男だ。

だから任せてもいい。アッシュのことは誰よりも信頼できる。

ルーナルドは制御に回していた意識を完全に手放し、ユーフェミアの魔力回路に全意識を集中させる。

ユーフェミアの魔力が押さえ込まれたおかげで、先程よりも魔力回路(切るべきもの)がはっきりと認識できる。

アッシュに制御されている魔力は、研ぎ澄まされていて一切のブレがない。

これならば問題ない。

ただ・・・。


「ユフィ・・・」


静かに呼びかければ、腕の中でユーフェミアが顔を上げた。

ひどい顔色だ。額は汗でぐっしょり濡れて、頬もあちこち傷ついて。

早く解放してあげたい。

そう思うと同時に、どうしても怖くなる。

誰よりも大事な人だからこそ尚更・・・。

少しでもルーナルドがへまをし余計なところを傷つけてしまえば、ユーフェミアには重大な後遺症が残る可能性が高い。

今こうしてルーナルドの声に反応し動いているユーフェミアが、眠ったまま一生起きなくなってしまうかもしれない。

全てはルーナルドの腕次第。

ユーフェミアの運命はルーナルドが握っていると言っても過言ではない。


「・・・・・・・俺の事を、信じてくれるか・・・?」


今更怖じけづく自分が情けない。

けれどユーフェミアは恐ろしくないのだろうか?

こんなルーナルドに。血狂いと呼ばれ、戦う才能しか持ち得ないような男に命運を握られて。

本当に少しも恐怖を感じていないのだろうか?


そんな不安を消し飛ばすように、ユーフェミアはルーナルドの顔を正面から見つめ、美しい緑色の瞳を細めそして───・・・頬を緩めてふわりと微笑んだ。


「もちろんです」


まっすぐな信頼をのせそう言いきった。


ぐっと腹の底から言いようのない感情があふれてくる。

これはきっとユーフェミアへの深い愛情だ。そしてそんな彼女に無条件で信頼されているという事実に、心が深く満たされ、魂が喜びに震えている。


・・・・ああ、必ず助ける。


こんなにも彼女に信頼されているのだ。これで答えられなければ今まで踏ん張って生きてきた意味がない。

今まで培った経験、取り込んだ知識、今までルーナルドが得たもの全てが、今このためにあったのだ。

今更弱気になるなどどうかしていた。

ルーナルドはユーフェミアの力になるために。そのために日々己を磨きつづけ、力をつけてきたのだから。

必ず助ける。


───・・・だから・。


「世界が平和になったら、俺とずっと一緒にいて世界を見て回ってくれるか・・・?」


あえてあの【約束】を今。あの時別れ際に二人でした大事な約束を、もう一度声に出して告げる。

内容は同じ。けれど今回のそれは、二人で必ず生き残るのだという【約束】をも含まれている。

それを敏感に察したユーフェミアが一瞬驚いたように目を見開いて、すぐに嬉しそうに微笑んだ。


「はい」


その言葉を聞いたと同時に、ルーナルドは最後の魔力回路を切断した。








幾重にも張られた魔法障壁を突き破って遅いかかってきた、凄まじい衝撃。

体がバラバラにふき飛ぶんだかと思えるほどの痛み。ボタボタと体中から生暖かいものが流れる感触。

体中の力が抜け、視界がぐるりと回る。

ドサッと乾いた音がすぐ耳元で聞こえて、自分が倒れたのだと分かった。


「ルーナルド! ユーフェミア! しっかりしろ!」


「兄上! ユフィ王女! くそ、救護班! すぐに二人を回復しつつ城へお運びしろ!」


ユフィ・・・。


ユフィはどうなった・・・?


無事か・・・? なあ、無事なんだろう・・・?


アッシュと、カーティスが。

二人が必死になってルーナルドと、そしてユーフェミアの名前も呼んでいる。

ルーナルドは分かるが、ユーフェミアも?


なぜ?

彼女の容態が悪いのか?


近くにいるはずのユーフェミアを探して、必死で眼球を動かすも、よく見えない

状況を問いたいのに、声がでない。


視界がゆっくりと狭まってくる。

もう目を開けていられない。


ユフィ・・・。


呟いたはずの言葉は音にはならず。

吐息のような弱々しい呼吸をはいたのを最後に、ルーナルドの意識はプツリと途切れた。







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