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命の天秤5

魔法の話を聞くのが好きだった。

色々な魔法が使われているのを見るのが好きだった。

新しい魔法を覚えるのが好きだった。


────・・・ずっとずっと魔法が大好きだった。


その魔法を手放さなければ長くは生きられない。

そんな現実を突きつけられたのは、ユーフェミアが六歳の誕生日を迎えたすぐの頃。


父が、兄が、ユーフェミアを助けるために手を尽くすと言ってくれた。

魔力を無理矢理封じることによる術者への跳ね返り。

そのリスクを全て理解したうえでなお、一度も迷うことなくユーフェミアを助けるために動いてくれた。

けれどそれを受け入れなかったのはユーフェミアの方。

魔法が大好きだった。生きがいだった。それをなくすのは絶対に嫌だと頑なに拒否をした。

押さえ付けてさっさと事を済ませてしまえばもっと楽だったはずなのに。もしくは面倒なユーフェミアなど見捨ててしまえばよかったのに。

なのにユーフェミアの兄、イシュレイは一度としてユーフェミアを見限らずただ静かに待ってくれた。

ユーフェミアが、大好きな魔法を捨てる覚悟を決めるまで。

大好きな魔法を捨ててでも生きたいと思えるほどの『何か』を見つけるまで。

ただひたすらにその日を信じて待ってくれた。

魔力は成長と共に増えていく。日が立てばそれだけユーフェミアの魔力もまた成長してしまい、封じるのが難しくなるのに。自分に返ってくる力も大きくなって、より大変になるのに。それでもイシュレイは、環境のいいブランフランにユーフェミアを送り、その身の安全を守りつつずっと待ってくれた。


そこでユーフェミアは【エト】に出会った。


彼と過ごす時間がとても楽しかった。

彼と一緒に見る世界がキラキラと輝いて見えた。

こんなに楽しい時間がずっと続けばいいと思った。

世界はこんなにも綺麗で。他にもたくさんの美しいものがあるのなら、それを自分の目で見てみたいと思った。


───・・・エトに出会って、ユーフェミアは大好きな魔法を捨てでも生きたいと思えた。


ルーナルドはユーフェミアのことを『恩人』だと言ってくれたけれど。

そうではない。ルーナルドこそがユーフェミアの『恩人』なのだ。

彼のしてくれた何気ない行動に。

彼にかけてもらった沢山の言葉に。

どれだけ助けられたわからない。

あの時彼に出会えなければユーフェミアはきっとここにはいなかった。


───・・・だからルーナルドの助けになりたい・・・。


ユーフェミアはちらりと視線を動かし、ルーナルドを見た。

真っ青な顔でユーフェミアに向かって何かを言っている。

こんなに近くにいるのに爆発音がひどくてよく聞き取れない。


ピシっと肌が裂けた感覚がする。

身体にかかる負担が大きい。もうこの身体はあと数分ももたないだろう。

ユーフェミアが想像していたよりも、残り時間は遥かに少ない。

であれば、今やるべき事を速やかに行わなければいけない。


ユーフェミアはゆっくりと視線を動かし、先ほど自ら名乗りをあげたブランフラン国王ゼノをみた。

こちらもユーフェミアに向かってなにか叫んでいる。

ひどく顔を歪め、焦ったような表情をしているから、きっとユーフェミアに文句を言っているのだろう。

けれどそれをわざわざ聞いてあげる義理もなければ時間もない。


ピシッっと音を立てて、ユーフェミアの口腔内が切れた。

それとほぼ同時に、ゼノの頬にも亀裂が入った。

自ら『ブランフラン国王だ』と名乗っていた。

けれど恐らくあの体はゼノのものではない。他人のものだ。だからゼノは平気でいられる。

あの身体は今のユーフェミアと同じ。

強すぎる魔力に身体が耐え切れず、壊れつつある。

ユーフェミアよりもそのスピードはずいぶん遅いけれど。

あのまま身体のどこかにはめ込まれているという魔法具を発動させつづければ、命を落とす。

けれどあれはゼノ本人の身体ではないから。

だから例えあの体が壊れたとしても痛くも痒くもない。自分の体ではないのだから。

そしてだからこそ、ゼノはわざわざ他人の体を使って魔法具を発動させた。


他人の身体に、他人からかき集めた魔力。

何の覚悟も信念も持たない、そんな偽物だらけの人間に・・・・。


「負けません!!」


タンと音を立てて、地面を蹴る。

自分に強化魔法を重ねがけし、ゼノとの一気に距離を詰めた。

そして・・・。

今のユーフェミアにははっきりと視える。

ゼノが乗っ取ったその身体の腹、中心よりも少し右上。そこから魔力が吹き出している。

つまり、あそこが埋め込まれた魔法具の場所。


────・・・ゼノは知っているだろうか。


ゼノが使ったのは、他人の身体に自分の意識をうつす魔法だろう。

身体を乗っ取り、安全な場所から莫大な魔力を使おうと、そう画策したのだろうけれど。

意識を完全に移した状態で、媒介になっている魔法具を破壊されると、自分の精神も一緒に破壊されてしまうと。

ゼノは知っているのだろうか?

安全なところから人を操る、そんな都合のいい魔法など存在しないことを。

どんな魔法でも必ずリスクが伴うということを。

果たしてあのゼノは、知っているのだろうか・・・?


ゼノが顔を真っ赤にしてユーフェミアに叫んでいる。

ふざけるな、とか。ありえない、とか。

そんな汚い言葉を尽きることなく叫びながら、必死で攻撃を繰り出してくる。

その全てに同じ質量の魔法をぶつけ相殺しながら、ユーフェミアは右腹にある魔法具へと狙いをすませる。

元の身体が極力傷つかないように。けれどゼノが魔法を解除する前に、迅速に魔法具を壊さないといけない。


確かにその魔法具は強い魔力を発している。けれど今のユーフェミアなら簡単に壊せる。

そしてそうなればゼノの精神は破壊され、ゼノの身体は眠ったまま二度と意識が戻ることはない。

それは人を殺すのと同じ事。

けれど・・・・。

覚悟はもうとっくにできている。

ルーナルドにばかり汚れ役をさせたりしない。


そうしてユーフェミアは強力な魔力を発しつづける魔法具にむけて、自身の魔力をぶつけた。








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