遺書
40話です。
友達に言われて書き方を変えてみました。
そして横のペンの存在を今知る。
椅子に腰掛け、会見が始まるまでにこの男、新官房長官との打ち合わせを行う。
この独特の雰囲気はかつての躑躅森官房長官と話をしていた時に似ている。
あのときは隣にマギアがいた。
「もう一つ頼みがあります」
「次は何だい?」
「私のことを……つまりは“加羅木鉋”を『対特』の特別部隊だったと、会見で公表してください」
新官房長官は驚いたような顔つきで食いつきながら答えた。
「こちらとしてはそれも願ったりだが……君はそれでいいのか……」
「私は構いません……。こんな世界になってしまったからには……、日常には戻れないですから」
官房長官はカンナの言葉に返す言葉も出ない、その場に静寂が響く。
コン、コン、コン
その時、ドアをノックする音が聞こえる。
「失礼します、こちらが今件の資料と……我々政府の機密資料です」
ドアを開けると、資料を載せた台車が入ってくる。
ドサッと机の上にビッシリとファイリングされた資料が積み上げられる。
資料1枚1枚に付箋が貼られており、それがどの項目に値するかが一目でわかるようになっている。
一際目を引くのは、持ち出し厳禁と書かれている資料だ。
「機密資料って……いいんですか」
驚くカンナに官房長官が声をかける。
「構わない、我々は既に一蓮托生……言っただろう、できることは何でもすると」
「ここからここまでが、マギアとその組織についての項目です」
政府側の人間がカンナに資料の束を渡す。
そこに書かれていたことは、マギアがその組織のボスの立ち位置にいるということ。
その組織は様々な半グレグループや、ヒューマの世界で有名だった人身売買組織や武器売買組織の名前もあった。
その中にはヒューマ世界の半分を牛耳っていた“水龍”などの名前もあった。
それらを雪だるま式に吸収して組織を肥大化させている。
彼らは複数のアジトを所有しているが、根城にしているのは、先日の 世界融合でコチラに現れた炎帝のセントラルタワーである。
二日前の調査で構成員は少なく見積もっても3000人以上と書かれていた。
「3000人ですか……素朴な疑問なんですが、その程度なら現代兵器と鍛えられた軍人なら殲滅できるのでは?。」
カンナの質問に苦虫を噛み潰したような表情で官房長官が答える。
「それができればいいのだが……。管理人のせいでコチラの軍備のリソースを減らされた。更に奴らは一人一人がヒューマ使いやその世界で生きてきた者たちだ……」
「そしてボス、マギアの恐ろしさ、強さは君が一番よく知っているだろう」
「そうですね……」
納得しかない答えだ……。
マギアには拳銃やナイフなどの類は効かない。
こちらにはミサイルなどの戦いを終わらせる兵器はない。
私に頼るしかないという状況が生まれてしまったのだ。
官房長官が椅子から立ち上がり、こちらを見おろして言う。
「3時間後に記者を集めて私の名前で会見を行う。――それまでは自由にしてくれてもいい」
「じゃあ、少し……外にいてもいいですか」
「戻ってきてくれるのなら」
「約束します」
「では、私は会見やその他の準備があるので失礼する」
時間があり、外にいける……。
一度見に行こうか。祭角一丁目を。
この家もすっかり静かになってしまった。最初は家族で住んでいて5人……。そこからおばあちゃんが亡くなって4人。両親が亡くなって2人。マギアが来て3人。おじいちゃんが亡くなってマギアも出ていって1人だ。
最近は、おじいちゃんが死んじゃったり、もともと忙しかったりでこの近くでゆっくりできた試しがなかった。
家の仏壇には祖父がすでに入れられていた。誰かが代わりにやっていてくれたのだろう。
家族の仏壇に手を合わせ、別れを言う。
もうここには帰ってこれないかもしれない、そう思い入念に別れを言う。
さて、やることはすでに終えた、戻ろう。
家を出て少し歩くと、権蔵さんの店がある。案の定、店先で暇そうに頬杖立てていた。
こちらを見るといつもとは違う態度で話しかけてきた。
「おー……生きてたか……。――マギアには何かあるのか」
「私は何も知らないよ」
「フッ……」
私の的を得ない答えに何故かほくそ笑む。
「平和の敵に……私たちの日常の敵になるのなら、私が倒さないといけない」
私の答えを聞いて、権蔵さんは以前のように大きく笑った。まるで私を馬鹿にするように。
「フッ……ハッハッハ!――そうか。世間が何と言おうとお前たちが決めたことだろ。俺たちは弱いから見ていることしかできないが、せいぜい後悔だけはしないようにな」
「うん……ありがとう、権蔵さん。心が完全に決まったよ。そういえば、おじいちゃんを仏壇に入れてくれたのは権蔵さん?」
「俺だけじゃねえよ。この街の奴らの大体は佐助さんに世話になってるからな」
「そう。皆んなにも礼を言っとくよ」
「そうしろ」
「もしも会えたらまた会おうね。」
「ああ……会うならまた2人でな……」
そのまま何も言わずに私はこの場を去った。権蔵さんは何も言わない私を静かに最後まで見守っていた。
一時間ほどゆっくりしていたが、ここからは気が抜けない。この会見も私の一つの勝負だ。
「帰ってきてくれたか、会見はすぐに始めれる。何か口裏合わせをすることはあるか?」
会見が始まる前に最後に詰めることはないかと考えるが、特に思いつかない。ここでやるべきことは私を『対特』の人間に見せることだけだ。それ以外はどうでもいいだろう。
「何もないです。始めましょう」
記者会見のように長テーブルにマイクがいくつか置かれている。記者の人数は30人以上はいるだろう。会見の始まりを今か今かと待ちわびている。
会見が始まり、官房長官が話を進めてくれている。立ち上がりは今後の対応や政府からの市民への支給や世界融合に伴った土地欠損などの対応だ。それらの見解を理路整然と答え、更に記者からの質問も問題なく返している。
「次にマギアと呼ばれる青年が立ち上げた組織への対応を答えさせてもらいます。我々政府は様々な軍事的な行動を行いましたが、全て失敗に終わりました。ヒューマの脅威と現代兵器の混合は凄まじく鍛えられた軍隊が壊滅する状況にあります。」
赤裸々に語られる現状のどよめきが溢れる。記者のコソコソとした声が重なりザワザワとしている。
「しかし、我々政府は何もできないわけではない。我々が……いや、躑躅森旧官房長官が作られた『対特』の切り札“加羅木鉋さん”だ。」
紹介の声がかかり、舞台の裾から姿を出す。
裾から出るとカメラのフラッシュが焚かれ、周囲の目が私に集まる。それと同時に“子ども”や“女の子”などとどよめきも上がる。
私は立ったままマイクを掴み、そのまま喋り始める。
「――私が加羅木鉋です。私が全ての日常を取り返します。見ていてください、私の力を」
すると、こんな子供に何ができると声が上がる。誰かが声を上げると同じような声が上がり始める。
しかし、その喧騒を破ったのは一人の記者の声だった。
“管理人を倒した少女”だ。“マギアにいきなり斬られていた少女”だ。
私への不安が期待へと変わった気がした。管理人を倒したという実績。 マギアに斬られたがそれは奇襲であったため、再び戦えばわからないなどという声も上がる。
ここだ。ここで。私の意思も運命も変わる。この言葉でいこう。
「――私が、あなた方の“英雄”になってみせます」
私、“カンナ”はマギアに斬られたあの瞬間に死んだ。
“加羅木鉋”として生きる。




