逃避
2話です。
一話を読んでくれた方へ感謝を。
感想を頂けると私が喜びます。
彼の笑いは10秒程度続いていた。周りが静かすぎるのもあって、それぐらいに感じられた。
私はその間、呆れた顔をして見ていただろう。
笑いを急に止めると、倒れている大男の側に彼は近付いていった。
しゃがみ込み、慣れた手つきで脈と瞳孔を確認した。
大男が事切れたという事実は、私にも理解できた。
安全を確認したところで、彼は貴重品の物色を始めた。
その時、私のスマホがバイブした。学校が休校したことの連絡だった。
そんなことよりも、私はさっきから起きている出来事を彼に聞きたかった。
彼の方に目を向けると、まだ物色を続けているではないか。
彼は見たことのない硬貨や時計などをポッケに入れていた。
その時だった。遠方から警察官が一人、こちらに歩いてきているのを見つけた。幸い、こちらにはまだ気づいていない。
彼も少し遅れて、警察官の方を一瞥していた。
その眼は鋭く、何かを考えているように見えた。
警察官がこちらを見た。
彼は依然、死体の横にいる。
警察が口を開こうとした時には、私は彼の手を取っていた。
「あ…えっと…逃げるよ!」
彼の手をぐいっと引っ張り、走り出した。
「…え、ああ…そういうことか…分かった!」
彼は状況を理解できていないのか、うわ言のような声を出したが、すぐに察したようだった。
彼も遅れて走り出したが、すぐに私を追い抜きそう
だった。
私達の行動を見て、警察も状況を理解したのか、「何をしている!!」と声をかけてくる。
どうやら、大剣と大男の死体を見ての判断だろう。
その声色は本気だった。
「君!ちょっといいか!?」
彼はそう言うと、私を下から抱き上げた。
俗に言うお姫様抱っこというやつだ。
「ちょっ!」
変な声が出た。
私を抱き上げた彼は、グンっと加速した。
原付並みの速度だった。しかも、人を抱えたままである。
警察の方を見ると、無線に連絡を入れ、銃に手を掛けようとしているように見えた。
追いつけないと判断して、私達を撃とうとしているように思えた。
その時であった。彼は急に方向を転換した。
路地裏だ。
やはり、逃走に慣れているのか?
「よしっ……上だな…」
彼が何かを呟いた。
その時、私の目線が地面から離れていく。
少しの浮遊感の後、重力が押しかかってきた。
「…えっ…?」
彼は壁の換気扇やひっかかりを蹴って、上へと登り始めたのだ。
上がる度に、私の内臓がぐるぐると揺れる。
一つ一つの足場を力強く蹴って、ビルの谷間を登頂したのだ。
しかも、私を抱えながらである。
本当に、何なのこの人。
彼は私の方を見て、「危なかったな、大丈夫か」と声をかけてきたが、むしろ本当にこの人は大丈夫なのかと思ってしまった。
安心するべき場面なのに、私の中では安心感の他に、別の興味のようなものが湧き出していた。
私が息を整えている間に、彼は周囲の警戒を行っていたのだろう。
私は息と共に、思考も整えようとした。
私を襲った大男は死んだのだろう。あいつが死んだのは、私にも要因がある。それに、警察からも逃げてしまった。
そして、彼とは価値観が違うことも、行動を見て理解できた。
周囲にサイレンが鳴り響き、今は日常ではないことを実感した。
私の息が整ったのを見て、彼は喋り始めた。
「こういう場だが、自己紹介をしよう!俺はマギア。マギアと呼んでくれ!」
彼は自分の名前を言ったのだろう。私も応えた。
「カンナ……加羅木鉋…カンナでいいよ」
彼は私の名前を聞き、少し間を取った。
「カンナか!宜しくな!」
彼はにこやかに、私の名前を復唱した。……マギア。私が言うのもあれだが、変な名前だ。
「マギア……色々聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「何だ?俺に答えられることなら、何でも」
それでは、お言葉に甘えて。
「……じゃあ……あの大男は誰?」
マギアは少し考えてから、口を開いた。
「彼の素性については分からないが、指名手配されていたのは確かだな。俺はそれを追っていた」
指名手配犯?追っていた?彼は警察?……そうだ。ヒビについても聞こう。
「ヒビは?……マギアも、あいつも、あのヒビが割れて出てきた!それは知らない?」
この質問への返答は早かった。
「……すまないが、俺も奴を追っていた際に、奴が穴に入っていったから付いていっただけだ。穴についてもヒビについても、知っていることは何もない」
少しがっかりしたが、分からないものは仕方がない。
「そっか……」
穴に関して思うことはいくつかあるが、考えても答えは出ないので後回しだ。
そうだ……
「あいつがさ……腕を磁石みたいにして、瓦礫を纏っていたよね……あれは?」
マギアは少し驚いた様子だったが、答えてくれた。
「そうか……フフ……あれはヒューマ能力だ」
ヒューマ能力?何だそれは?
「……何それ?」
「なに?ヒューマ能力を知らないのか?」
「知らない……」
私と彼とでは、やはり常識が違った。
少しの沈黙が流れた。
「じゃあ……マギアは、そういうのは持ってるの?」
マギアは即答した。
「俺はノーヒューマだ」
言い切るような口調だった。また、知らない単語が現れた。ノーと付くのだから、無いという意味だろうか。
マギアが口を開いた。
「さっきの奴らが増えてきたな……場所を変えようか。何かいい場所はあるか?アジトとか」
さっきの奴らとは警察のことだろう。それに、アジトと言った。やはり普通ではない。
だが、彼の言う通り、こんな場所でじっとしていてもどうにもならない。
学校も休みになったし、家に帰ろう。
そういえば、彼はどうするのだろうか。
「マギア、私は家に帰るけど、一緒に来る?」
「いいのか?そうなら、是非だ」
「いいよ。家にはおじいちゃんだけだし」
私とマギアは、私の家に行くことにした。
そこで、ゆっくりと話そうと考えた。




