五話
お見合いからしばらく経ち、笠原さんが店にやってきた。
「どうもどうもご無沙汰です」
「笠原さんこんにちは」
お母さんと挨拶をする。
「今日ご主人は出られてますか」
「はい、ちょっと知り合いの家を尋ねてまして。それと先日はありがとうございました」
「いえいえ、お礼を言いたいのはこちらの方です。葛城の親御さんも話を聞いて喜んでおられたんで」
「本当ですか!ということはまさか…」
「はい、ちょうどその話をしにきたんです。倉中さんの方がよければ是非と」
あまりに驚いてお母さんと目を見合わせる。
「ほ、本当に私でいいんですか」
「もちろん、僕が直接話を聞いてきましたから間違いないですよ」
本当、本当なんだ。私、今度こそ結婚できるんだ。
「紗穂」
お母さんは隣で涙を浮かべている
「お母さん、私本当にお嫁に行けるんだ」
「そうだよ紗穂、よかった、よかったね」
正直お見合いが終わってから今日までずっと不安だった。きっとそれはお母さんも同じだったんだろう。ただ2人で泣きながら抱き締めあった。
その後笠原さんから今後の段取りについて話を聞いた。まず葛城さんのお母様の関係で祝言は少し先になりそうだということ。ただ祝言前から一緒に生活を始めるのでそれまでに準備をして欲しいということ。私が1番驚いたのは住む家が葛城さんの実家ではないということだった。なぜなら今葛城さんは軍の寮で過ごしていて、朝の訓練や緊急の招集等があるためあまり離れたところに住むことができないという。知らない家に飛び込んでいくという緊張からは解かれたもののあの無愛想で真面目そうな人と2人きり、という生活を考えると別の緊張感がある。
細かいところが決まったらまた来ますと言い残し笠原さんは去っていった。
「よし紗穂、そうと決まったらどんどん準備進めていくよ!」
「わ、わかったよお母さん!」
2人であれがいるこれはいらないと物を出したりしまったりしているとお父さんが帰ってきた。
「どうしたんだこの散らかり具合は」
お父さんはお土産に貰ってきたであろう風呂敷片手に呆れた顔をしている。
「どうしたもなにも!紗穂がお嫁に行くのよ!」
まるでお手本のように口をあんぐりと開けて固まってしまったお父さんを横目に2人で引き続き準備を進めていった。
それからしばらくお父さんが紗穂の顔を見るたび「よかったなあ」と泣き始めてしまうようになるのはまた別のお話。




