四話
なぜお見合いをすると決めたのか。それは今更と言っていいような質問だったが正直軍人という立場の人でこの歳まで出会いが全く無いなんてことは考えづらい。それに挨拶の時に言っていたお母さんのことについても気になっていた。少し考えた後葛城さんはこう言った
「それは…母のためです」
「お母様の?」
「ええ、去年体調を崩してからなかなか調子が戻らず弱ってしまっているんです、早いうちに母の願いを叶えなければと思いまして」
なるほど、その願いが結婚するということか。意外と親想いなんだなと葛城さんの人間性が少し見えたような気がした。雰囲気に似合わず案外優しい人なんだろうか。
「倉中さんはどうなんですか?」
「え」
まさか質問が返ってくるとは思わず間抜けな声が出てしまった。
「私は、えっと」
笠原さんがどこまで伝えているか分からないし、なにより初対面の相手に自分の過去を全て打ち明けられる勇気もない。かといって嘘をつくのも違うだろう。ぐるぐると考えていると余計に頭がこんがらがってしまう。
「と、歳が歳なので」
最悪だ。間違ってはいないが最悪の答えをしてしまった。元はと言えばズカズカと聞いてしまった自分が悪いのだがまさかこうなるとは思っていなかった。
「申し訳ない、配慮のないことを聞いてしまいました」
「いえそんな、こちらこそ変な質問をしてしまってすみません」
2人の間に気まずい沈黙が流れる。
「今後に関してなんですが」
「おーい!そろそろ戻ってこい!」
葛城さんは何かを言おうとしていたが私たちを呼ぶ笠原さんの声に遮られてしまった。
部屋に戻った後は笠原さんから後日返事をするということ聞き、別れの挨拶をして帰路についた。帰りながら葛城さんが言いかけていた今後について考える。あれは前向きに捉えて良いのかはたまた後ろ向きな意味なのか。正直良い印象を残せた自信は全くない。どちらにせよ今後どんな生活が待っているのか全く想像がつかない。
家に着き居間に座って一息ついているとお母さんがお疲れ様、と声をかけてきた。
「話してみてどうだった」
「見た目通り真面目な感じの人」
そして何を考えているか分からない。悪い人ではないと思うが、仮に婚約が成立したとして無事に夫婦として過ごせるんだろうか。いや、まず婚約することができるだろうか。
「なあに、あの笠原さんの紹介だからな、心配いらないさ」
お父さんは呑気に笑っている。どうしても不安が拭いきれず気持ちが落ち着かなかったが、疲れていたのかその日の夜はすぐに眠りにつくことができた。




